竹取物語 下の句

 月の民は日々怠惰に明け暮れていた。悠久の時を生きながらえる彼らには、変わることのない日常のみが存在し、月が地球を見詰めまわす655時間を一日と定めていた。

 彼らにとって地球は未知なものではなく、気候、環境、人間の生態から植物の持つ効能まで何もかも知り尽くしており、相当程 度の低い文明として、一日の指標にする以外は見向きすることも無かった。

 月の民が持つ知識は地球ばかりではない。この全宇宙の内外問わず知らぬものは無い。完成された知識は月の民の気力を奪い、堕落させた。

 ある日、月の哲学者は人々を広場に集めた。
「堕落した我々が主体を取り戻すには、知識の放棄が不可欠である。文明をリセットし、構築し直すことで、幸福の獲得は可能になる。生まれ直しが必要なのだ。早速私はデータ採集の為、短い期間ではあるが、私の娘であるカグヤを文明レベルの0に等しい地球へと送り出した。彼女が幸福を感じれば、この実験は成功となる。」

【続く】

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