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ショートショート「潜在能力開発研究所」
ショートショート「潜在能力開発研究所」
「人には生れながらにして1つは才能があると言われています。しかし大半の人間はその才能に気付かず、一生を終えます。ここでは、その隠された才能、つまり潜在能力を学力テスト、身体能力検査、そして千を越えるアンケートを実施し、そのデータから潜在能力を見つける事ができます。その能力はあなたの人生に一役買うことができるでしょう。」
白衣を着た男がAIのように淡々と話している。
彼の性格からくるものなのか、それとも手元のタブレットを読みあげているだけだからだろうか。それも半日前の話。説明を受けて私はそれぞれの検査を終了し、今は机とテーブルがある無機質な部屋で長い間、待たされている。
目の前のドアが開き、AIのような男が両手にそれぞれ何かを持ち入ってくる。どうやら一つは私の結果の紙のようだ。結果とは即ち私の潜在能力である。私は期待と不安の感情のちょうど間のような気持ちで手をさすりながら男の口元を見た。
「こちらが結果です」
久しぶりに触る紙の感触に懐かしさを覚えつつそれを受け取る。
「これが僕の潜在能力…」
思わず漏れた僕の声が室内に響く。それほどここは狭い。
男は用紙がなくなった逆の手を私に見せる。手は硬く握り閉められていた。
「ここで試しますか?」
静かに頷く私へ、彼は白衣のポケットから出した目隠しを渡した。無言で受け取った私はそれを装着しながら、ゴクリと生唾を飲み込んだ。装着する寸前、AIのような男がAIのように淡々と準備に入っているのが見えた。
「いきます」
「はい」と答えた私は神経を集中させた。
「10円」
「100円」
「50円」
次々と狭い室内に金属のような音が響き渡る。それを聴き、私は瞬時に答えていく。
「5円」
「500円」
「100円玉3枚と10円玉1枚と…あっ、それと5円玉2枚」
後半、私はリズミカルに答えていた。5円と1円がまるでひっかけ問題であるかのように感じた。その時に私は目隠しを取り、男に尋ねた。
「どの小銭が落ちたかが分かる才能、意味がありますかね?」
AIのような男は答えた。
「今の時代…確かに…今回、小銭を用意するのも大変でした。」
AIのような男が初めて人間味のある表情を見せたのが少し嬉しかった。
全てのキャッシュがデータ化された現在で私に与えられたこの能力。いや与えられたものではない潜在していた能力。小学生の頃に教科書や博物館でしか見たことがない、触ったことも無い小銭という物をよく言い当てられたものだ。この能力を人生に活かすためにはどうしたらいいものかと頭を抱えていたところ男は喋り出した。
「あなたの潜在能力をどう活かすべきか悩んでいますか?それでしたらこちらの潜在能力有効活用術セミナーというものがありまして潜在能力開発研究所をご利用の方でしたら30%オフでご利用頂けます・・・」
おしまい
なんと私、結婚いたしました! そこでご相談なんですが・・・ あんまりこういうのは良くないのかもしれませんが・・・ 祝ってください。