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ショートショート「勇者へ」

ショートショート「勇者へ」

勇者はオオカミのような男と対峙していた。

勇者は伝説の剣を両手で構え、オオカミのような男は謎の球体を右手に持ち鼻を震わせながら叫んだ。

「ふはははは!勇者よ!よくぞここまで辿り着いた!この魔王直属三番隊・隊長デス・サタンウルフ様が相手をしてやろう!さぁ!来い!」

勇者は道中の苦い記憶を思い出しながら、伝説の剣を先程より更に力強く握りしめる。そして大声で叫んだ。


「シャイニングドラゴニズムサンダーアタック!!」


オオカミのような男が謎の球体を持たない左手を自身の前に出し、静止を促す仕草をみせた。


「おい。今なんて言った?シャイニング?ドラゴン?えっ?ドラゴニズム?どっちでも良いんだけど、その後は?サンダー?アタック?」

オオカミのような男は何度も確認をしつつ勇者に尋ねた。勇者は防御のオーラを纏いつつ、伝説の剣を下ろし静かに頷いた。


「ださっ!」


オオカミのような男の声は時空が歪む街・ニルベスの奥にある、この刻の洞窟の中に響き渡った。洞窟特有の反響する声が遠ざかっていく中、男は続ける。


「えっ。そのー…自分でつけたの?えっ。だから!必殺技の名前!なんか俺の部下のエヌ兄弟を倒した辺りからその必殺技?使ってたよね?」


オオカミのような大きい口の口角を少し緩ませながら、オオカミのような男は更に続ける。


「なんだっけ?シャイニング…輝く?ドラゴニズム…龍の思考?サンダー…雷の?アタック…攻撃?……ださっ!長いし、ださっ!なに?ドラゴニズムって。概念?」


気がつくと勇者は剣先を地面に刺し、柄頭に装飾された雷を纏うドラゴンの部分を丁寧に撫でるように触りながら静かに聞いていた。

オオカミのような男が更に口を開く。


「2時だろ?」


頑丈なのに軽さが売りの天空界の物質で作られた天空のかぶとをつけた額から、暑さから来るものとは別の汗が流れている勇者へ、質問という攻撃は続いた。


「だーかーらー、午前2時くらいに考えたろって。必殺技の名前を!…やっぱ、そうかー。誰かに相談した?はぁ?なんでしないのよ?大事な必殺技の名前よ?」

饒舌に続けるオオカミのような男。

「仮に俺が倒されてさー、二番隊も一番隊もやられてさ、その後、仮にさ、仮によ?魔王様も倒されたとすんじゃん。んで、平和が訪れたとしてよ?そっちの?国王とか、国民になんつって報告すんのよ。」


俺の革の手袋、ちょっと穴が開いてんじゃん、と思いつつも静かに耳を傾ける勇者の前で一人二役を始めるオオカミのような男。


「おお、勇者よ。お主のお陰で世界に平和が訪れた。」

『ありがとうございます』

「あの屈強な魔王をどうやって倒したのじゃ」

『必殺技で倒しました』

「必殺技とな!今後、魔王が復活するかもしれん。おい!執事よ!後世の為にも記録をとれ!さぁ!必殺技の名前を教えてくれ!」

『シャイニングドラゴニズムサンダーアタック』

「えっ?ださっ」

「(えーっと、メモを)シャイニング…ぷっ」


魔界ではない、まるで地獄のような時間が流れた後、オオカミのような男は自分の役に戻り、再び叫んだ。


「みーんな、こう思うよ!?」


昨日の宿のベッドのマットレス硬かったなぁ、と思っていた勇者が口を開き、オオカミのような男へ、質問返しという攻撃ならぬ、"口撃"をした。しかし、オオカミのような男は真顔で答える。


「えっ?俺の名前?デス・サタンウルフだけど。なに?はっ?ダサい?えっ……いや、親から貰ったから。えっ。まじか。親から貰った大切な名前をいじるってさ、それでもおたく、勇者さん?」


『ぐうの音も出ないの「ぐう」ってなんですかね〜。じゃんけんから来てるんですかねぇ〜』とよく言っていた武闘家の事が頭を過った勇者は目頭が熱くなり出していた。


「あー、だめだ。そういう人、俺、無理だわ。ごめん、今日は帰って。そんな奴と戦いたくないわ。うん?だから!そういう気分じゃないって言ってんの!帰って!」


終電がなくなり一人暮らしの自分の家に自ら招き入れたくせに合点のいかない言動をする女のようなオオカミのような男は止まらない。


「しかも、そんなダサ長い必殺技で倒されたら、俺、魔王様にも部下にも示しつかないから。なっ?だから、今日は一旦持ち帰って。一旦、俺に倒されたって事にして、練ってきて。はっ?だから、名前を!!お前なんなの?聞いてた?なんかさっきから別のこと考えてなかった?聞いてるフリだけ得意な奴いるよなー。ウチの部隊に最近入った新人の奴もさ〜。そうなんだよなー。あー、もういいわ。じゃぁ、俺が一旦、攻撃するから。倒されて。うん。いくよ。」


オオカミのような男は右手に持っていた謎の球体を両手に持ち変え、魔族特有の魔力を球体へ溜め始めた。禍々しい光が灯り始めたと同時に唸り声が聞こえた。




「マジックウルトラデビルハリケーンイレイザー!!!ビィィィィィイム!!ver2.1!!!」


おしまい


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