見出し画像

ウィスキーとレコードプレーヤーの話。

「好きな酒は?どの酒を一番飲んでいるか?」と問われたら、もちろんウィスキーと答える。

遠い昔に親父が連れてくる客人に、一通りのディナーが終わると花柄のレースがかかった円卓のテーブルにドカッとウィスキーとチョコレートを出していた親父がいた。重いグラスでチビチビと飲んで談笑しているのだが、小さな子どもにはその苦いチョコレートの味も分からなかったし、ウィスキーという飲み物の価値も分からなかった。ただ唯一わかったのは、ウィスキーが開くと、客人は帰らないということだった。そこからが実に長いのだ。

そのぼくが味わった原風景から30年弱経って、なんと内緒のウィスキーバーをオープンすることになった。バーアンティークという僕の行きつけのバーテンダー渡邉誠也さんとともに世界から探し集めること500本以上、何よりも一緒に探す時間が何よりも楽しかった。そう、ビンテージウィスキーをハイボールにするというそういう大人の遊びをするバーを作りたかった。なかなか入手困難な島系のウィスキーは、WAGYUMAFIAの相方の堀江とともに一緒にスコットランドまで行って買いつけた。ゆっくり時間をかけて現地の蒸留所に赴いて譲り受けた最上級のウィスキーたち。照らされるのは100年以上前のオールドバカラのランプ。

30分ぐらい座るとその薄暗い照度に目が馴染んでくる。音についても徹底的に拘った。一年ぐらい探してLAで見つけたJBLのオリンパス、1960年製の素晴らしいコンディションのスピーカーだ。当時はスピーカーユニットを家具として使っていたから作りも美しい。そしてオリンパスのために作られたようなプリメインアンプの代表作SA-600だ。そしてそれを繋ぐケーブルは、ウェスタン・エレクトリックの当時のケーブルを引っ張ってきた。JBLらしい音がそこにある。

おそらくこの数年は「温故知新」という言葉の意味を考えていたのかも知れない。知人が経営している由紀精密という精密切削加工で世界的な技術を持つ会社がある。大坪正人さんという聡明な社長率いる同社がこのコロナ禍の中リリースしたのはなんとLPプレーヤーだった。僕が使っているLPプレーヤーはLINN SONDEK LP12というプレーヤーにSMEのSERIES Vというアームをつけた構成だ。自宅と同じセッティングだと作る意味はあまりない。レコードプレーヤは何かストーリーを探していたのだった。僕はすぐにそのLPプレーヤー、AP-0をチェックしに茅ヶ崎工場に赴いた。実はこのプロジェクト同社の技術開発事業部事業部長の永松純さんが大坪社長にも秘密に内緒で動かしていた企画だった。同社のコア技術のひとつ、精密旋削加工技術を用いて完成したのがこのプレーヤーだった。

メインのLPプレーヤーは、即決した。そうAP-0のローンチカスタマーとしてWAGYUMAFIAが手をあげたのだった。温故知新、僕らは過去からも学べるし、未来を色鮮やかに描けることも出来る。2月2日が公式の音出しの夜となる、由紀精密の大坪社長も交えて、そんな温故知新な価値を共有したいと思う。

負けてらんねぇな、コロナになんて。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?