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十勝の大地が育んだ最強のマッシュルーム

北海道十勝でのサウナ開発プロジェクト。その一環として、十勝の生産者を巡っている。今回も札幌の帰りに帯広に立ち寄り、プロジェクトリーダーの北海道ホテル林社長ことかっちゃんとともに地元食材を旅する。今回巡りたかったのは、マッシュルーム生産者だ。十勝マッシュは、香川県坂田にある醤油メーカーこと鎌田醤油が経営するマッシュルーム工場である。そう日本で始めて1965年にだし醤油を出したあの鎌田醤油である。

今回は鎌田きのこ株式会社の菊池博社長にお話を伺うことにした。だし醤油を主力商品としていた鎌田醤油が、なぜマッシュルーム生産をこの十勝の地で始めたのだろう。もともとは鮭節のだし醤油の原料となる鮭節の自社製造をするためにスタートしたのだという。旨味成分としてのビッグスリーは、このコラムでも良く書いているがグルタミン酸、イノシン酸、そしてグアニル酸である。そのグアニル酸への着目の中で、しいたけの三倍ものグアニル酸量を持つマッシュルームに注目した。最初はだし醤油の原料に成りうる素材製造としてのスタートであったようだ。

十勝平野は広大な規模で小麦の生産が行われており、その麦わらがばんえい競馬での敷きわらとして使用される。これが馬厩肥(ばきゅうひ)となり、マッシュルームの堆肥のもととなる。ばん馬と呼ばれるこの馬はサラブレッドの2倍〜3倍程度の大きさを誇る。マッシュルームの本場、フランスではサラブレッドの馬厩肥を使うが、このばん馬の馬厩肥はサラブレッドのものよりも更にマッシュルームに合う品質のものだったのだ。技術協力にきたフランス人はこう言ったらしい、この十勝の土地は非常に恵まれている。小麦の生産もばんえい競馬の存在もあるマッシュルーム製造には恵まれた場所だ。

普段なにげなく食べているマッシュルーム。その製造過程は実はものすごく長い。まずは一次発酵プロセスだ。馬厩肥を生鶏糞と中国から仕入れた天然石膏、水を混ぜて発酵させる。ここで馬厩肥を天然の好熱性微生物によって発酵温度を80度まで上昇させる、14日〜1ヶ月のプロセスをかけて発酵プロセスによって有害病原菌を死滅させていく。この一次発酵で出来上がるのが、培地と呼ばれるコンポストだ。

床詰め作業を終えた培地は、二次発酵プロセスに入る。このプロセスでの大きな目的はアンモニアの除去にある。マッシュルームの菌糸が定着できるレベルまでアルコールをさげていくのだ。この作業をアルコールの資化(しか)と呼ぶ。この二次発酵プロセスは6日間を経て、初めて種菌を混ぜるフェーズへと進む。ここでも更に18日間、32度以上に培地の温度が上がってしまうと種菌が死滅するので、26度程度をキープしていく。

そして最後はいよいよ収穫期だ。末端価格は1トン100万円になるマッシュルームを、3週間に渡って取っていく。1週づつ手積みして散水して、また一週間後に採取していくという作業を3週間連続で行う。手積みの方法は五指を器用に使い、一度に3マッシュルームづつ採取していく。そこでサイズの選定などに回すのだった。僕も自ら手積みして、そのまま頂くことに!口内に充満する薫りがヤバかった。こんなに美味しいマッシュルームは生まれてから食べたことがなかった。

「今日はこの後どちらへ?」菊池社長がそう僕に聞いた。「これから東京に戻ります」と答えると、じゃあせっかくなので捕れたてを持っていってくださいと、袋詰にしてくれたのだった。急いで幻の鉄板でその夜に食を愛する友人らと食べた。生で楽しんだあとに、鉄板の上にステムを上にして丁寧に焼いていく。30分ほどゆっくりと熱を入れていくとマッシュルームのジュースが房の中に溜まっていく。それを吸うのだ。一口吸い込んだタイミングで皆顔をくしゃくしゃにして「うぉおお」と雄叫びをあげた。そう、グアニル酸の爆弾である。

素晴らしい話は、マッシュルームを育てた後の培地は肥料として地元の小麦生産者などに還元される。そうやって小麦が育ち、麦わらが生まれ、それをばん馬が寝そべり、そしてマッシュルームが生まれる。循環型の経済がしっかりと根付いている。菊池社長と35名のスタッフが作り出すマッシュルームは現在350トン、それを400トンの年間出荷まで伸ばしたいという。「そのためにはもっと技術を磨いていかないとダメですね」と優しく笑った。僕のマッシュルームは、これからは一択で十勝マッシュである。菊池社長、ありがとうございました。そしてかっちゃん、いつも素晴らしいナビゲートありがとうー!

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