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世界一の昆布を訪ねて羅臼へ(後編)

昆布漁の朝は早い。海が静かで白旗が上がれば漁の出航が許される合図である。6時に出航する漁師たちみんなワンオペだ、一人乗りの小さなボート浜辺近くのポイントに各々向かうのだった。使う道具もレトロだ。マッカと呼ばれる竿、そして船上から水面を見るための箱メガネ、持ち手がないので手前を歯で噛んで水中を覗きながら器用にマッカで手繰り寄せる。羅臼の昆布漁師の歯は丈夫だという。6時からの操業で10時まで、だいたい2往復する。70歳を超えた超ベテランの井田さんが浜に戻ってくる。

とれたての昆布の見分け方を教えてくれる。ゼブラのようなまだらの黒い線が入っているといい。「これをゴマっていうんだけど、こっちみてみ?」ゴマが全くない昆布と比較して触ってみる。驚きだった、全く厚さが違うのだ。ゴマが入っている昆布は数倍も厚い。あとは表側と裏側の見分け方、表は太陽を向いている。ここはウニが齧ったところ、これは売り物にならない。そう呟いた後に竿にかかってしまったウニを2つほど出してくれた。色の濃い馬糞のメスだ、一口口に入れると昆布の甘味が全体に広がる。「こんな昆布食べてりゃ何だって美味しくなるよ」とニコニコ嬉しそうな井田さん。

今回の羅臼は元々十勝マフィアイベントで、北海道ホテルの林さんことかっちゃんが紹介してくれた昆布だ。町役場に坂本勇介さんという財務担当の青年がいる。一年ぶりに繋げてもらったかっちゃんからは「勇介はまだ30代ですが、馬力や勢いある役場職員ですので、コキ使ってください笑」とのメッセージが届いた。彼との濃厚な24時間だった。町役場にこういうボランチ的な職員がいると、町そのものの魅力が変わる。昆布の世界は元来の職人気質の排他的な産業だと思う。僕らの和牛もそうだから良きわかる。昭和後期には250億あった。その時に建てられた昆布御殿の多くが3階建ての豪邸だ。今その規模は80億に減少し、人口も半分の4000人へと減少した。漁師の長男として生まれたさかもっちゃん、人一倍この羅臼への想いが強いのだろう。

羅臼の語源を調べると、アイヌ語で獣の骨のあるところを意味するラウシ。井田さんの番屋からすぐ後ろを振り返ると山が一気に立ち上がっている。獣も人間もそして魚たちもみんなで助け合わないと生きていけないそんな場所なのだろう。さかもっちゃんの手引きで出会った羅臼の人たちは実に温かった。羅臼に近々また戻ってきたいと思う。そんな素晴らしい滞在だった。

羅臼の皆さんありがとうございました!

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