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新型コロナ療養記 其之一

「此比(このごろ)都ニハヤル物/夜討(ようち)強盗謀綸旨(にせりんじ)」と言えば、かの有名な二条河原落書である。日本史の教科書で見たことがある人がほとんどだろう。混乱を極めた当時の社会情勢を皮肉たっぷりに書き連ねている。

現代風に言い換えるならば何だろう。

建武期から688年後、流行り廃りは腐る程あれど、現代を生きる我々が真っ先に挙げるものは他でもない。新型コロナウイルスであろう。

前置きが長くなるといけないので無理矢理本題へ入るとしよう。要は、私は世を騒がす新型コロナウイルスにまんまと感染してしまった。そこでここにその記録を残したいと思う。

こんなものを読んだところできっと貴方の人生や免疫力になんら影響を及ぼさないと思うが、熱と鼻水に侵されながらメモに書き綴ったこの記録を、世に解き放つことで成仏させることが出来れば、私の体内に宿り、暴虐の限りを尽くしつつ、沈静化していったオミクロン達も草葉の陰で喜んでいることだろう。

コロナウイルスのイラスト(いらすとや)


2022.2.10(木)深夜

私はかなり眠りが浅い方である。夜中に一度は目が覚める。と言うかそもそも寝付くまでに時間がかかる。そのためあらゆる安眠に関わる方法について毎晩調べ実践した。結果的に、寝る前にスマホを見ないという方法が1番効果的で、安眠する方法探しで使っていたスマホが、安眠を妨げていたという童話的教訓である。

しかし、この日の夜中の目覚めは最悪だった。

とにかく寒い!!寒い!!!寒い!!!!

悪寒ハンパない!!!!!

毛布2枚に羽毛布団被っているのに寒いのである。慌てて熱を測ると39.1度。39.1度!?!?!中学生以来の39度越え。

もしかして、コロナ?

直感的にコロナを予感した。というか、この時期に前触れなく高熱が出たらほぼほぼコロナだろう。嫌な汗をかきながらハンドクリームの匂いを確認する。うん、ちゃんと匂いがする。とりあえず、朝起きたら平熱に戻っていることに最後の望みを託しつつ、もう一度微睡へ落ちた。

7:30 起床

望み虚しく、悪寒は酷く。会社に報告して休暇をもらう。会社からは検査をするように指示が出た。

はてさて、この検査をしてもらうのも実は一苦労だった。調べてみると、保健所へまずは電話をするようにとのことだったが、電話が一向に通じない。新規患者の急増を受けて保健所の電話はパンク状態であるというニュースが頭をよぎる。その時は「大変だなぁ」なんて呑気にサウナのテレビを見上げていた私だったが、当事者になるとこんなに心細いものだとは。

仕方がないので、自力で発熱外来を探し、検査してもらうことに。快く受けてくれた病院には感謝でしかありません。

ちなみにこの時の症状としては
・発熱:38度〜39度
・喉の痛み
・腰の痛み

体を動かすのも億劫でしかも熱が出たせいか?腰が重く痛い。この腰の痛みが厄介だった。

私はマンションの8階に住んでいる。病院は向かう際に気づいたのだが、エレベーターのような密閉空間に果たして乗っていいものか。そう考えると躊躇してしまい、敢えなく8階から1階まで、重い足を引きずりながら降りる羽目になった。

検体採取のイラスト(唾液)(いらすとや)


11:00 病院へ

えっちらおっちら病院までたどり着くと、看護師さんが出てきて、そのまま裏口から個室へ通された。「リラックスルーム」と書かれたその部屋はゆったりした皮のソファー、大きなテレビ、どこかの海を描いた穏やかな絵画がかかっているが、その部屋の隅で真っ黒な空気清浄機がゴウンゴウン唸りを立てている部屋だった。旅人を歓迎しているようで、裏でひそひそと噂し合う村のような部屋である。

その後、問診票を記入。PCR検査の説明(唾液接種)を受ける。当然ながら、看護師さんとはかなり距離を取られている。その距離感が何故か心苦しい。

そんなこんなで唾液を絞り出すこと10分ほど、お医者さんが入ってきた。

「問診票見たけどオミクロンぽいねーー!」

明るいお医者さん。爽やか。素敵。不治の病を宣告される際は、是非こんな感じで宣告して欲しいものである。(ちなみにこの病院は、ワクチン接種の際にお世話になった。この明るいお医者さんがすごく丁寧に接種前の問診をしてくれ、不安な点もヒアリングしてくれた素晴らしい病院である。)

「決めつけるのは良くないけど」と言いながら、祝日の関係で、結果が出るのは明後日になってしまうこと。その後は保健所からの指導に従ってもらうことなどその時点で欲しい情報をきちんと説明してくれた。何はともあれ、解熱剤と喉の炎症止めを処方してくださり、私は病院を後にした。

その後は再びえっちらおっちら帰宅し、幾らかの支援物資を配給してもらいつつ、寝て過ごした。解熱剤を飲むと熱が36度代まで下がる。5時間くらいしか効かないからまた熱が上がったら飲んでくれ、と言われていたが、本当に5時間ごとに熱が上がるのは少し笑えた。なんだか自分の体がシステマティックに稼働している機械のように感じた。

異物が侵入し、バグを起こしたーー

病気とは元来そういうものであるが、問題は今そのバグを引き起こす異物が世に無限増殖していることだ。そちらの方がよっぽどバグだろうに。

かくして私のコロナ療養記は暫定的に幕を開けた。不平・不満・不安・主義・主張・記憶・記録・共有・人は何かを発信する際には必ず書き連ねるものである。それが二条川原の落書だろうが徒然草だろうが、noteだろうが、人の営みは変わらない。

ウイルスと抗体のイラスト(いらすとや)


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