『旅芸人と怪物たち』 〜フランス映画(MyFrenchFilmFestival)長編19番勝負 11/19〜

旅芸人と怪物たちと聞いて、例えばフェリーニの名作『道』や、はたまたホドロフスキーの最も美しい作品『サンタ・サングレ 聖なる血』といった世間から見放されたフリークスたちが大活躍する映画を思い浮かべたあなた、全然違います、旅芸人、といってもこちらはサーカスではなく劇団で、原題の『Les Ogres』はたしかに“怪物たち”という意味ですが、物象的なそれを指すのではなく、心の中の怪物、人間のエゴを表しているのですね、これと後述する戯曲のタイトルが肝になります。
車で移動しながら各地でチェーホフの戯曲『父親不在』を興行して回る旅芸人一座、座長の父と奔放な母、裏方を務めつつ鬱積した感情を抱く娘の親子を中心に、個性豊かな劇団員たちのてんやわんやの大騒動が繰り広げられます、とはいえ、劇的な見せ場などは特になく、意外にじっくりと人間の心模様をなぞっていく作品です。
とにかく画面いっぱいにヒトとモノとコトバが氾濫し続けている様は見て取れるものの、エネルギーが凄すぎてなにが起きているのかまったくわからない映画がこの世にはありまして、アレクセイ・ゲルマン『フルスタリョフ、車を!』『神々の黄昏』を筆頭に、タルコフスキーの『アンドレイ・ルブリョフ』なんかもちょっとその傾向がありますが、本作もそれらに追随するタイプのパワフルな気に満ち溢れた映画ですね、あの常軌を逸したゲルマンの散らかり具合に比べればまだまだ話がわかる=エネルギーが弱い点をどう見るかが評価の分かれ目ですが、しかしこちらはけっこうな人情ものですからねえ。

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