『同化・非同化』 〜フランス映画(MyFrenchFilmFestival)長編19番勝負 5/19〜

実のところ人間を洗脳するのはたやすい、孤立と自己放棄という二つの条件をクリアしさえすれば。
孤立、ターゲットを家庭や社会に繋ぎ止める絆をひとつずつすべて切り離す、自己放棄、これまで教えこまれてきた事柄のいっさいはまやかしであり即座に捨て去るべきものであることを徹底して教えこむ、これらの恐るべき過程を経験した人間は、いわば空っぽの容器のような状態にまで転落し、いかな危険な思想であろうと好き放題に詰め込むことが可能になる。
イスラム原理主義過激派のジャメルは、フランス国内に根強く残るアラブ人種に対する差別感情を巧みに利用し、家族想いで正義感の強い青年アリを“立派な”テロリストへと仕立て上げていく·····思想的な厳格さとカリスマ性を兼ね備えるジャメルが上記二つの洗脳条件を着実にクリアしていく過程が詳細に渡って描かれ、まるで仕事上のプロジェクトを遂行するようなその冷静沈着ぶりに恐怖しつつ、翻ってアリの方を見れば、父性が欠如した若者(実際にも彼の父親は入院中で家庭に不在だが、ここで言う父性とは、人間が拠って立つべきアイデンティティの足場、社会的な承認を受けた民族性などを指す)が人種という縦の繋がりに絶望し、宗教という横の繋がりに縋りつく道行きが悲しく思えてならない。

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