『パリ、恋の診療室』 〜フランス映画(MyFrenchFilmFestival)長編19番勝負 15/19〜

日本公開された暁には必ずや宣伝ポスターにエッフェル塔が合成されるであろう脳内お花畑な邦題を見て幻滅したあなた、安心してください、履いてますよじゃなくって、しみじみといい映画です。
真面目で堅物の兄ボリスと人当たりはいいが傷つきやすい弟ディミトリの二人は共同でパリのチャイナタウンに診療所を開いている、ところがある時、糖尿病の娘を診察したことをきっかけに、その母ジュディットに揃って恋をしてしまう、互いに支え合い、信頼し合ってきた兄弟に訪れた初めての危機、恋の行方はいかに!?
なにより素晴らしいのは、いつからか精神的に癒着してしまった兄弟が、他者への強い感情(言わずもがな、ジュディットへの愛)によって初めて独立した個人として目覚める点で、仮に社会で成功していようが家庭を築いていようがそんなこととはいっさい関係なく、個として生きる道を先んじてかわす身振りによって精神の安定を得ている大人は数知れず、しかし件のレッテル貼りが盾にも刃にもなりなかなか真正面から光が当てられないところ、一種のタブーとも言えるこのテーマを静かで落ち着いた雰囲気の中に置いた本作の志は高い。(赤と黒を基調にした衣装や美術は、エル・リシツキーの絵画『赤い楔で白を穿て』に代表されるロシア構成主義のスタイルを思わせるものだが、これは名前からロシア系と知れる兄弟にひっかけたシャレ?もしくはオシャレ?)

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