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聴かせて!【はたらくしろくま】のわがこと

前回から3ヶ月ぶりの登場となります、「聴かせて!みんなのわがこと」。
今回は「はたらくしろくま」の青木久美子さんに、「はたらく」をテーマにしたそのユニークな活動について、お話をじっくり伺います。

「聴かせて!みんなのわがこと」とは?
香川県内でとても素敵な活動をされている個人や団体にスポットライトを当て、「共感の輪が広がっていってほしい」という想いから、その活躍や想いなどの わがこと(我が事)をインタビュー形式でお届けします。

Vol.2
はたらくしろくま

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「はたらく」動物としての人間

――はたらくしろくまの活動内容について教えてください

ビジョンとしては、「はたらく」ことを見つめ、個人・企業・地域がともに豊かになる社会を目指しています。
しろくまが考える「はたらく」とは、いわゆるお仕事、報酬を得る労働だけでなく、育児や介護など無償のものも含め、命を支える営みすべてなんです。そして、誰ひとり取りのこされること無く、みんなハッピーになるといいな、という想いで活動しています。

ミッションは二つ。一つ目は「ゆたかにはたらく」ことの追求です。「はたらく」をテーマとした各種ワークショップの開催や、職場と家庭以外のサードプレイスとしての繫がりの場づくりをしています。

そしてもう一つは、「はたらく」ということにおいて困難を抱える人たちをとりこぼさないための活動です。たとえばいわゆるシングルマザー・シングルファーザー、ひとり親とそのこどもたちの繫がりの場・居場所づくりであったり、困りごと相談やキャリア支援、行政との連携を図っています。

――「はたらく」に焦点を合わせているのが面白いなと感じるんですが、なにかきっかけとなったことはありますか。

私は普段、労働行政の現場でお仕事していて、そこで労働相談を受けることが多いんですね。ハラスメントでメンタルを崩された方とか、雇い止めにあった方とか、ごく普通の人が仕事を巡るいろんなトラブルに遭われているのを見てきました。

あるとき、東大卒で大手広告代理店に入って仕事がバリバリできてという女性の方が、過労自殺してしまう事件がありました。それが私にはすごいショックで、なんでこんな若くきれいな、前途洋々な人が自ら命を絶ってしまうんだろうって。そのとき、家庭と職場以外でいろいろな価値観に触れる機会があったら、もしかしたら救えたのかもしれない、と思ったんです。

なんかこう心に風を通す瞬間みたいなのが、必要だったんじゃないかなぁと。それは音楽でもいいし、アートでもいいし、映画でもいいし、小説でもいいし、なんでもいいんだけれども、その中のひとつとして誰かと繋がって、それ違うんだよとか、あなたならもっとこういうことできたんじゃないとか、いろいろなところから刺激を受けて凝り固まった心に風を通すことができたら、もしかして救えた命もあるのかなあ、というふうに思って。
家庭と職場以外で働くことについて気軽に話せる場を創りたいなと思ったのが、そもそものきっかけですね。

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「はたらく」をテーマとしたワークショップは
時には野外にも。


――「はたらくしろくま」というネーミングも素敵ですね。

こういうことを「労働」とか「働く」ということばで取り上げようとすると、なんとなく左寄りとかイデオロギーとかそういう色眼鏡で見られそうなんですけど、「はたらく」ってもともと有償無償に関係ないことばで、誰しもが「はたらく」という行為をしているわけなんですね。そのなかで「はたらく」ことに関わるトラブルって必ず発生するはずなのに、それがイデオロギー的に見られてしまって救えないのはもったいなくて、柔らかいイメージのものを創りたいと思ったんです。

それと、私はこどもを二人お腹の中に宿して、母乳をあげて育ててきたんですが、それって圧倒的に哺乳類だなあってすごく実感したんです。
女性は出産育児を通して特にそう感じるのかもしれませんが、そもそも人間って動物であり哺乳類であり、なのに会社社会では効率とか合理性ばかりが追求されている。そんな機械的に効率的に働けるわけがなくて、何かしらの感情を持った人間、動物なんだよ、という想いを込めて「しろくま」という言葉を選んでいます。

しろくまってなんか哲学ぽいって言うか、群れないしちょっと孤高な感じで、なんか考えているなこいつ、というイメージが私の中になんとなくあったので、この名前にしたんですよ。

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インタビュー中のひとこま。
いつも微笑みを絶やさない青木さん。


参加者同士の繫がりを大事に

――いまはNPOとして活動されているんですね。

そうですね。任意団体ではありますがNPOとして活動しています。
以前、環境系NPOの中間支援団体で働いたことがあったんですけど、役所が有名な大学の先生を理事長に据えて人を集めて、定款も全部作ってお膳立てした傀儡NPOだったんです。本来行政でやるべき仕事をNPO作ってそこに委託する。単純に経費を安くする方法、下請けだなって。助成金もいきなり切られたりするし。これでは事業として持続できないなと。
だからちゃんと想いのある仲間が集まって、NPOの中で事業化して収益を上げてそのなかで活動していきたいなというのはありますね。

――2つのミッションについて、もうすこし詳しく教えていただけますか。

はたらくしろくまの事業として当初から実施しているのが、「はたらく」をテーマとしたワークショップです。たとえば「デザイン×はたらく」であったり、「森の多様性×はたらく」であったり。いろんな方面から講師をお呼びして「はたらく」ということを考えたり対話したり、というのをやっています。みんなで共有して対話するなかで参加者同士の繫がりができて、気付きも得られるというのを大事にしています。

そうした中でさまざまなキャリアやスキルのある方が集まってきたので、そうした方々にアソシエイトになっていただいて、はたらくしろくまとして企業や団体から講演や研修を受託し、その利益の一部をしろくまの他の事業、たとえばひとり親支援といった事業費にあてるような形にしていってます。

――ひとり親支援が一つの軸になっているんですね。

そうですね。アソシエイトさんも声をかけたらみなさん集まってきてくれて。アソシエイトの皆さんの講演や研修が、豊かにはたらくことにつながると確信しています。

そもそもひとり親支援を始めたのは、ひとり親の方が集まる場でお仕事相談の講師に呼ばれて、そこでやっぱりひとり親ならではの、ひとり親同士じゃないと言えない悩みというか、名前どうする?とか戸籍をどうする?とか、そういう悩みがあるなあというのをすごく感じて、そんな人たちの居場所を作りたいなというふうに思ったのがきっかけですね。

ひとり親支援は「しろくまNAGAYA」という名前でやっていまして、定期的に場所を借りてみんなが集まる場を提供しています。あと、大根たくさんもらったけど誰か欲しい人いませんか、とか、こんな仕事があるんだけど誰かやる人いない?といった情報をグループLINEで回したりもしています。小さなため息やヘルプコールも、受け止められるようにしています。

集まりには大学生もお手伝いに来てくれているんですけど、ひとり親のこどもたちってどうしてもいろんな大人と出会う機会が少ないというのがあって、だからこどもたちにとって大学生やいろんな大人たちと関わることが、すごく刺激になっているなと感じています。

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しろくまNAGAYAイベントにて
大学生とこどもたち。


――ひとり親支援の活動で大切にしていることはありますか。

ひとり親支援の形っていろいろあって、物資面だったり資金面だったり、そういうことももちろん大切で、ただ、それを単に作業としてやるのは自分としてはなにか違うな、と感じています。

自分がやりがいを感じるのは、仲間としての繫がりを作って対話できる場、ひとりの人として認められる居場所を作ること。居場所を作って対話してその人に伴走して、そうして生まれた信頼関係の先に、最終的にはキャリア支援までやれるといいなと考えています。

ただ、たとえばももさん(註:前回ご紹介した「一般社団法人もも」のこと)のところとかで食材配布の活動をしていて思うのは、誰もが今すぐそういう支援を求めているわけではないということ。話しかけられたくないという人もいるなかで無理に関係を作ろうとするのではなく、まずはいつでも安心して来てもらえる居場所づくりが大事なんだなと改めて感じます。


「はたらく」ということ自体が面白い

――活動のペースはどんなふうにされていますか。

私は本業を持っており、お休みの日にしろくまとしての講師や研修のお仕事をしています。なので、今は月に1,2回イベントしたらいっぱいいっぱいかなという感じですね。そのなかで「しろくまNAGAYA」は月1回継続的にやっていくことにしています。

あと、超読書会っていうのもコロナ前までは月1ぐらいでやっていました。これは一冊の本を章ごとに分けて、参加者が自分の担当の章を要約し、それをA4の紙4枚5枚くらいにまとめて、最後に壁にバーンと貼ってプレゼン、という形で一冊の本をみんなで共有するっていう会です。

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――超読書会って名前がおもしろいですね、読書を超える。

他の方の視点が入ることの面白さもあるし、その場で10分20分という時間の制約の中でがーっと集中して読んでプレゼンに落とし込むというのが、集中力であったりプレゼン力を高めるよい訓練になるなって感じています。

――ところで青木さんの活動って「はたらく」ということに焦点が置かれてますが、そもそも「はたらく」ということに関して興味を持った原体験って何かあるんでしょうか。

原体験かあ。私、働く人を見るの好きなんですよ。

海とか行くとこうね、漁船を操ってる人とかいて、その人の仕事ぶりとか見たり。台所が見える、オープンカウンターとかね。私すごい好きで見ちゃうんですけど。

――分かる!それすごく分かります。

それこそ駐車場で車まわしてる警備員さんの心情を考えたり。めっちゃ面白そうにイキイキして真面目に旗振りする人とかもいるんですよね。その差は何だろうとか思ったりとか。たぶん働く人を観察するのが好きだから。

――観察して自分の中で広げていくのがお好きなんですね。昔からそうなんですか?子どものときから?

子どものときからそうなのかな。いまも仕事でいろいろな企業を訪問して、会社の中を見てまわって、人事の人と話したり社長さんと話したりするんですけども、それはすごくおもしろくって、会社によって組織だとか、雰囲気だとか、空気感だとかいろんなものが全然違うので、おもしろいというか。

――それって、会社に足を踏み入れた時になんか空気感で分かるんですか?

ああ、全然わかりますね。全然ちがいます。

――なるほど。青木さんにとっては「働く」っていうこと自体がもうすごく面白いんですね。

面白い、面白い。全然面白いです。

――なのになぜ、その面白いはずの「働く」ということの中で苦しむ人がいるんだっていう。

ほとんどの人が働かないとまず食べていけないわけですけれど、仕事のなかでどうしても面白く感じられなかったり、不条理なことがあったり、いろんな人間関係の軋轢も生まれることもあるし、だから働くって人生のけっこう大きなところを占める部分なんだけれども、必ずしもそれがハッピーじゃなくて、そしてそのために人生自体がハッピーじゃないって人もいて。しろくまに参加することで、ハッピーに転換する視点が持てたらいいなあと思います。

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取材のひとこま(kaoku@仏生山)


本業もしろくまの活動のどちらも大事に

――改めて今の活動の中で、大事にしていることは何でしょうか。

大事にしていることは、一人ひとりとの対話です!

――ありがとうございます。ほんとそこですよね。それと、これからこうしていきたいというのがもしあれば教えていただけますか。

そうですね。今の活動がほんとにまだ助走段階というか、全然コロナでできなかった部分もあって、やっとこれから本格的にやっていけるかな、というところなので、しっかり今ある活動を継続して地ならしをしていきたいです。

そしてひとり親だけでなく、取りこぼさないというところをもう少し広げていきたくて、引きこもりだったりだとか精神疾患を抱えた人であるとか、働くことに難しさを抱えた方についても、対話の場づくりをしていけたらなぁって考えています。

もう一つは拠点作りですね。いまはこどもたちがまだ家にいますし、プライベートとの区別も考えるとなかなか難しいですが、将来的にはちゃんと考えたいです。

――今後も本業のお仕事は続けるんですか。

はい、仕事も好きなので続けたいなって思ってます。

――やっぱり「はたらく」がお好きなんですね(笑)。

好きなんですよ(笑)。ただ、好きなんだけどもやもやしている部分ももちろんたくさんあって、そこをしろくまの活動で発散しているというか、バランスをとっている部分がたぶんあるんですね。だから私もしろくまの活動に救われていると思ってます。


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取材を終えて

「わたし、はたらくことが好きなんですよ!」
取材の中で青木さんが何度かおっしゃっていましたが、こんな風に言いきれるって、とても素敵なことだなと感じました。
だからこそ、はたらくことを見つめ、自分自身とも向き合い続け、"自分だからできることがあるんだ”と活動を継続してこられたんだなと思います。

青木さんが大切にされている『一人ひとりとの対話』
気軽に話せる場、認め合える場が風通しのよい生き方につながること、強く共感しました。
今回、優しくしなやかな青木さんのお話をお聞きし、そしておしゃべりも楽しんで、わたし自身もとても心地よい風に吹かれたような、そんな気持ちになっています。

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わがこと取材チームと一緒に


NPO団体 はたらくしろくま
E-Mail:terui0216@hotmail.com
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