櫻井優衣のためにホームランを打った男(前編)

 何も考えず、目くじら立てずにお読みください。


 初めて日本が決勝まで来た。これまで、いやつい先日まで各国から弱い弱いと言われ、相手にされなかった芸能人野球大会日本代表は決勝まで勝ち上がってきた。日本を応援するファンも、日本代表の快進撃に興味を奪われていき、今や全国民が応援してくれるようになった。勿論、決勝のチケットは完売。決勝の放送は全テレビ局で流されることになった。日本の初優勝を全国民が期待している。

 決勝戦の先発はFRUITZIPPER櫻井優衣。もともと日本代表の選手は全員、今年大ヒットした学園ドラマに出演していた人間である。なので、アイドルやイケメン俳優、実力派俳優などで構成されている。

 櫻井優衣は変化球を屈指した技巧派ピッチャーである。今大会3試合投げて全て3失点以内で抑えている。しかし、今日は初の決勝だけあって緊張して、何度も水を飲んでいる。チームメイトもなんとか点を取って楽をさせてあげたいが、チームの打撃能力は冗談でも高いとは言えない。

 しかし、チーム内で抜群に打撃で結果を出している者がいる。それは初戦から8番ライトでフル出場している我妻という謎の男だ。人気もオーラも0に等しい男はそのドラマで怪しい住民役で毎回出ていた。それで代表入りになった。他にも外野の候補はいたが、孤独になりながらも練習熱心な姿と紅白戦の結果でレギュラーを獲得した。

 勿論、最初は私の事など誰も知らない。期待もしてない。試合に出ている他の俳優やアイドルにしか応援しない。明らかに他の人より応援されてないのは自分もファンもお互いに分かっている。しかし、それを私は結果で跳ね返してきた。

 日本代表初陣でアメリカ先発トム・クルーズは8回2死までノーヒットノーランだった。私はセンターに本塁打を放ち日本を同点に追いつかせ、先発櫻井の負けも消した。次の日には10回に同点3ラン本塁打。あるときには5安打5打点と打ちに打っていた。チーム内で圧倒的成績を残す私の姿をファンは見て、応援せざるを得なくなった。もはや、私がいなければ日本代表は既に終わっていた。

 櫻井はニコニコといつも通り頑張ると決勝の日も皆に言っている。私にもいつもの笑顔で「今日も打ってね。」と言ってきた。ただ、チーム内の今までに感じたことのない緊張感はずっと漂っていた。それなのに田中というイケメン若手俳優は女性選手を口説いている。守備固めにもなれない選手なのに。基本的に若い男性はモテようとするばかりで練習しない。だからレギュラーも取れていない。

 試合前円陣を組んだ。その力強いものを見て球場からは大きい拍手が贈られた。満員の球場で各選手の知り合いもたくさん私たちの見えるところに座っている。ベンチの真上にはFRUITZIPPERのメンバーや吉永小百合等がいた。

 櫻井はしっかり肩を温めていた。プロ意識の高い櫻井は体のケアを怠らなかったので結果を残してきた。今日も自信はある雰囲気だ。しかし、目が全く笑ってない。

 試合が始まった。初球ストレートを投げる。ストライク。

 監督は櫻井の投げ姿をみて、確信した。打たれる。

 予想通り次の変化球をライナーでヒットにされた。たまたまかと思われたがヒットと四球を連発して初回3失点した。顔は落ち込んでいた。ベンチでは打撃陣に声援を送っていたが、なんだが悲しい様子だった。攻撃は韓国先発のBTSのJINが切れのあるストレートで日本代表は全く手が出ない。

 櫻井は2回にも1失点、3回にも1失点してしまった。監督はもう負けを覚悟した。結局監督はこれ以上炎上させてはいけない判断を下し、櫻井を降板させた。ベンチで顔を抑え泣いた。他の沢山の女優陣が慰めていた。悔しい悔しいと限界に近い声でずっと呟いていた。私はそれを聞いていた。なんとか試合の流れを持ってこようとした。

 3回に先頭の真中が2塁打でチーム初ヒットを記録した。続いての打者は我妻。初球の内角のストレートをレフト線に引っ張り1点返した。JINは悔しがった。汚い男性に完璧にとらえられて悔しかっただろう。しかし、後続が情けない結果だった。

 日本の中継ぎ陣も調子が悪い。さらに2失点してしまった。球場には負の雰囲気が徐々に漂っていた。

                      続く

 


色々な記事を書きたいです。