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「お客様応対マニュアル」に関する2つの話

このnoteはアジア車いす交流センター(WAFCA)のスタッフが交代で書いていく交換noteです。
アジア車いす交流センター(WAFCA)は、車いすと教育を通じてアジアの障がいのある子どもたちの自立とバリアフリー社会の実現を目指して活動している認定NPO法人です。詳しくはホームページをご覧ください。


本日担当の関谷 司です。以前、私は「トヨタ産業技術記念館」で4年間勤務(出向)していたことがあります。
愛知県名古屋市にある「トヨタ産業技術記念館」は、トヨタ自動車㈱をはじめとするトヨタグループ19社によって共同運営されている企業博物館です。繊維機械、自動車技術の変遷を動態展示というユニークな形で展示しています。私にとっては、お客さん(来館者)と直に接する仕事は初めての経験。着任早々、「館内案内マニュアル」をはじめ、さまざまなマニュアルを渡され、汗をかきながら頭に叩き込んだ覚えがあります。

今日は、私が企業博物館勤務時代に学んだ「お客様応対マニュアル」の運用に関する2つの話をご紹介したいと
思います。

先ず、1つ目です。

これは、ある方から伺ったのですが、千葉県浦安市にある世界的に有名な施設での話です。
ある日、施設内レストランに老婦人がお一人で来店されました。ホール係のスタッフはマニュアルに従い、そのご婦人を所定席(お一人で来店されたお客様席)にご案内そうです。しかし、どうも席に座られたご婦人の様子が寂しそう。
ご家族など複数でお越しになった場合の所定席で食事をしたいご様子。更にご婦人のオーダーは、“お子様ランチが2つ”
その男性スタッフは何かを察知し、マニュアルには無い咄嗟の判断でそのご婦人にこのように話しかけたそうです。
「失礼いたしました。どうぞお客様のお好きな席へご案内させていただきます」。そのご婦人は彼のその一言で席を移動、
し、出てきたお子様ランチを1つだけ食べ終えると、その男性スタッフに深々と頭を下げて店を出ていかれたそうです。
 後日、その施設に一通の手紙が届きました。そのご婦人からです。男性スタッフへの感謝の気持ちが綴られていました。
その手紙には、今回、食事をさせていただいた席は、昔、息子と一緒にお子様ランチを食べた思い出深い席だったこと、
そして、あの日は愛する息子の命日だったと書かれていました。
その手紙を受け取った上層部の方は、手紙のコピーを施設内のすべてのスタッフ事務所内に掲示したそうです。
マニュアル通りではなく、そのマニュアルに込めた想いをきちんと理解して行動した若いスタッフを称えると共に私たちはこれからもこのような気持ちでお客様をお迎えしましょう、そのことを伝えたかったに違いありません。


さて、次は二つ目です。こちらは車を運転しながらラジオを聴いていた時の話です。ラジオ番組の女性パーソナリティ
(関西の人です)があきれ顔でこんな話をしていました。(もちろんラジオなので顔は見えませんでしたが 笑)

ある日、ラジオ局へ出向く途中、番組スタッフへの差し入れをと思い、ドーナツ店に立ち寄ったそうです。
彼女が「こちらを○個、あちらを○個、それからこちらも○個ください」といった具合に全部で30個くらいのドーナツを注文
したところ、お店のスタッフが屈託のない笑顔で「こちらでお召しあがりですか? それともお持ち帰りですか?」と聞いてきた。
その瞬間、彼女は心の中でこう叫んだそうです。“あほんだら、こんだけのドーナツ、一人で食えるもんなら食うてみい!
マニュアルかなんか知らんけど、もうちょっと考えて仕事せえや“と。


企業博物館に着任した当初、心にゆとりがなかった私は、たとえどんなお客様であってもマニュアル通りに正確に館内案内しなければとの思いから、どことなくぎこちない案内しかできない自分に失望していました。
しかし、この2つの話を聞いて自分の間違いにふと気づいたのです。それからは1.5時間の館内案内スタート前に必ずお客さん一人一人の顔を拝見し、今日のお客さんの特徴(例えば、主婦層中心? ビジネスマン中心? 事務屋? 技術屋? 若い人が多い? 高齢者が多い? など)を自分なりに掴むようにしました。
一期一会の貴重な時間をとにかく楽しく、気持ち良く過ごしていただくことを心に砕こうと決めたのです。マニュアル馬鹿になっていた私は、ようやく暗いトンネルから抜け出すことができたのです。

お客様相手の仕事も他の仕事と同様、もちろん手順は大事ですが、お客様は一人一人のバックグラウンドも違えば、来館の目的もさまざまです。
アカデミックという言葉からは程遠い私のようながさつな人間が、博物館で過ごした苦しくも楽しかった4年間。

何百回という館内案内を通じて数多くのお客様と出会いの機会を得て、そこで”伝える“ことよりも”伝わる”ことの大切さ、そして難しさを学ばせていただきました。

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