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原告のがん 被ばくの「原因確立」90%超え 甲状腺がん裁判〜第3回口頭弁論

 東京電力福島第一原発事故による放射線被ばくの影響で甲状腺がんを発症したとして、当時福島県に住んでいた17歳〜28歳の男女7人が、東電に損害賠償を求めた訴訟の第3回口頭弁論が9日、東京地裁(坂本三郎裁判長)であった。

 原告側は被ばくとがんの因果関係は明らかとし、その根拠を裏付けた岡山大の津 田敏秀教授(環境疫学)の意見書を提出した。

 意見書では原発事故前のがん統計データと、福島県の甲状腺検査のデータを比較 し、事故前より甲状腺がんが何倍増加したかを算出。その倍率をもとに、がんの原 因は被ばくと見なせる「原因確立」を導き出した。

 このような疫学の手法で、原告7人の原因確率を算出すると、94.9〜99.3%と極めて高い値になった。

 法廷で原告側の西念京祐弁護士は、過去の公害訴訟などでは、疫学によって有害 物質と疾病の因果関係を認めることが裁判例として定着していると指摘。原因確立 が70〜80%を超えると、因果関係は「高度の蓋然性をもって証明された」として、過去の判例を示した。

 「大気汚染のほか、ヒ素中毒やじん肺肺がんでも50〜67%、或いは75%程度で、これらに比べても原告の原因確率は極めて高い値になった」

 その上で「原告らのがんが被ばくに起因するのは明らか」だと強調した。

 一方で、東電側は原告らの被ばく線量は100ミリシーベルト以下で、甲状腺がん発症のリスクはないと主張している。

西念弁護士が法廷で示したスライドから抜粋

漠然とした不安 これから先のことも考えられない

 この日の弁論では、当時中学1年で中通り出身の20代女性が意見陳情した。女性は県の検査でがんが見つかり手術したが、成人式の翌日に再発した。

 2回目の手術ではリンパを大きく切除し、傷は耳の下にまで広がった。退院後も 傷口はなかなか塞がらず、「首から体液が流れてきたときは焦った」と語った。急 遽、福島から東京の病院に向かうほどの事態だった。

 最近、がんがまた再発して、3回目の手術の話が出た。嫌な気持ちもあるけれど、また母親に迷惑をかけるのが申し訳ないという。

 「漠然とした不安。これから先のことも考えられない。今とか、未来とか、実際、やばい」

 そのような過酷な状況にも関わらず、自分と同じように被ばくした友人らのこと を気にかけている。

 「でも、私は病気になったのが、身内や友達ではなく、自分で良かったなと思ってます。友だちや家族が罹った方がつらいんじゃないかと思う」

 複雑な胸の内を語った女性は、次のように今の状況を問うた。

 「甲状腺がんが増えてるのをニュースで見る。その1人になる。でも、それは『過剰診断』により見つかっただけであると流れる。では、何のために検査は行われたのか?検査をありがたいと思っていた気持ちはどうなる?」

 そして、最後にこう訴えた。

 「裁判官の皆さんには、今もこれからも不安に思う人が300人以上いて、その家族達も不安に思っていることを伝えたいです。そして、今の状況が少しでも変わればと思っています」

「潜在がん」と主張する東電

 また、東電側は準備書面で、県の検査で見つかったがんは「潜在がん」だと主張している。潜在がんとは生前には無症状で、死亡後の解剖などで発見されるがんのことだ。

 法廷で原告側は「原告らのがんも潜在がんなのか」と問い質したが、東電側は「準備書面に書いた通り」などとはぐらかし、明らかにしなかった。「それを明らかにすることのリスクを考えているのではないか」と井戸謙一弁護士は、閉廷後の記者会見で話した。

 次回の口頭弁論は来年1月25日で、原告2人の意見陳情が予定されている。







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