PSYCHO‐PASS サイコパス

「あんたは何にでもなれた。どんな人生を選ぶことだって出来た。それで悩みさえしたんだろ?すげえよな。まるで、シビュラが出来る前の爺婆みてえだ。」

人間の心理状態や性格の傾向を計測し、それを数値化することに成功した2112年の日本では、恋愛はもちろんのこと、働き方の適性も機械が判断します。また、数値の上昇によっては、『潜在犯』として、犯罪を犯す前に逮捕出来る環境が整いました。厚生省直轄の警察組織である『公安局』に務めることを決めた主人公は、犯罪者心理に近い高い数値をもった執行官を従えて、潜在犯や犯罪者の逮捕に勤(いそ)しんでいます。

シビュラに従うことで、不都合が起こらない世界です。けれど、シビュラに従わない決定をしない世界ですから、自分にとっての不都合が分からない世界とも言えます。主人公は、犯罪を犯す手前の潜在犯を逮捕する、もしくは、大きな事件を起こしてしまった犯人を逮捕するわけですが、機械から示される数値と、自分のもつ感覚の違いから、システムが示す数値に疑問をもつようになります。

「今じゃ、シビュラシステムがそいつの才能を読み取って、一番幸せになれる生き方を教えてくれるってのに…本当の人生?生まれてきた意味?そんなもんで悩む奴がいるなんて、考えもしなかったよ。」

先日書いた日記で、アイデンティティという単語を使ったのですけれど、この単語を使うと、このアニメを思い出してしまいます。シビュラシステムから特別と思えるほどの低い数値を与えられた主人公は、高い数値を与えられながらも刑を執行する執行官に強い影響を受けつつ、低い数値を保ちながら犯罪を犯し続けるひとりの市民を逮捕するために奔走します。

「科学の英知はついに魂の秘密を暴くに至り、この社会は激変した。だが、その判定には人の意思が介在しない。君たちは一体、何を基準に善と悪を寄り分けているのだろうね。」

私は、縁もゆかりもない金沢に、7年間住んでいました。仕事を教えてくれる人はおらず、同年代の仲間もおらず、知り合いもいませんでした。また、公共交通機関の少ない地域ですけれど、車を持っておらず、買い物さえも満足に出来ない環境に置かれました。

親戚は神戸にいて、実家は東京にあり、金沢に引っ越す前の7年間住んでいた名古屋には、多くの仲間がいました。けれど、友達付き合いは良い方ではなく、長い間彼女もいません。まわりと比べても、ひとりでいる機会は多いように思っていましたけれど、孤独を感じたことはなかったのです。金沢に住むようになって初めて、今までの自分が、多くの人や物に囲まれて生きてきたことを痛感するのでした。

北陸新幹線も開通してない時期だったのですけれど、孤独に耐えられなくて、東京の実家に長い時間をかけてちょくちょく帰省していたのですが、それで孤独が埋まるわけでもありません。そんな時、電車の中でたくさんの本を読みました。アップルユーザーでもある私は、スティーブ・ジョブズが亡くなる前から強い影響を受けていて、そんなジョブズは、仏教のひとつの宗派とされる『禅』に影響を受けていたことを知ります。アメリカに禅の思想を持っていったのが、金沢出身の鈴木大拙さんと知った私は、色々なものから禅の思想に触れ、その思想の大元である仏教の開祖ブッダ に出会います。

「生老病死(しょうろうびょうし)」

人間の一生は、母から生まれ、老い、病気になり、死ぬことであると気づいたブッダ は、ただ生きているだけでは辛い現実から逃れられないため、幸せになるには努力が必要であると説きました。ブッダ は、その方法を説いてまわり、それを実践し続けました。そのブッダ の生き方を実践するのが禅であり、その思想を深く追求したのが仏教であると知ります。ブッダ でさえも生きることを辛いと感じていた、その事実は、深い孤独の海に沈んだ私を救い上げるのでした。

この世の中に、善悪は存在するでしょうか。動物や植物しか存在しない世界であれば、そんな概念は存在しないでしょう。つまり、意識をもった人間が考えた概念になるわけですが、自分ひとりであれば、そういう発想すらしないでしょう。つまり、自分ではない誰かが存在することで、善悪が生まれると考えられます。個人の集まりが集団であり、社会です。つまり、善悪の価値基準を作るのは、社会ということになります。

人間はひとりで生きていけないので、社会のルールに則(のっと)って生活することになります。ただ、善悪を押し付けあって失敗した歴史を知っている私たちは、善悪にルールと制限を設けました。それが『民主主義』です。文部省が発行している『民主主義』という本では、民主的な社会という定義においてこのようなことを書いています。

「自らの権利を主張する者は、他人の権利を重んじなければならない。自己の自由を主張する者は、他人の自由に深い敬意を払わなければならない。そこから出て来るものは、お互の理解と好意と信頼であり、すべての人間の平等性の承認である。」(文部省(1995),文部省著作教科書民主主義,(株)径書房)

このアニメでは、世界大戦が勃発したことで、日本以外の多くの国が混乱に包まれています。シビュラシステムのおかげで、日本は戦争に参加せず、繁栄を続けていたのですが、さらなる繁栄を目指す日本は、移民を受け入れることにしました。社会と個人のあり方がせめぎ合うこのアニメを見ていると、人間個人を尊重し合うことの大切さを思い出すのです。そして、個人を超えた社会秩序を守ることの大切さも痛感するのです。

先月から第3期が始まっていて、毎週、楽しく見させてもらっています。まだ見たことのない方は、この作品に触れる機会になってくれればと思い、思い入れのある作品のひとつを紹介させてもらいました。

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