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◯映画感想 「噂の女」

「噂の女」 1954年、84分、溝口健二監督

 !ネタバレ注意です!

  大好きな溝口作品。水商売の女性の退廃美や葛藤、哀愁を描き尽くした監督。本作は主演の親娘役に田中絹代さまと久我美子さまという正統派・清純派女優を迎え、祇園の置屋を舞台にしながらどこか爽やかな現代の風を吹かせた、やや趣向の変わった作品。

起 東京の芸大に通っていた娘を京都に連れ帰った置屋の女将。娘は婚約者に置屋の娘であることを理由に婚約破棄され、自殺未遂を起こした。

承① 置屋稼業に反発しながらも、芸者たちの哀れな境遇に同情し、親切心を見せる娘。一方女将は医師の青年に遅い恋心を抱いており、彼開業資金の金策に奔走する。あわよくば青年医師の妻になりたいと夢想する女将。

承② 青年医師は娘の現代的な思想や美しさに魅力を感じ、また娘も青年医師を頼るようになり、二人は恋愛関係に。二人で東京へ出る相談までするように。それに気付いた女将は嫉妬を抑えきれず、青年医師を引き留めようとするが青年の心は変わらない。

転 恥を捨てて青年医師にすがる女将。それを冷酷に振り捨てた青年に対し、娘は母を捨てるのかと怒り、取り乱して青年に刃物を向ける。それを取りなしたのは母である女将だった。母娘は結局どちらも青年を思い切る。ショックからか体調を崩す女将。

結 療養中の母に代わり、女将代理として置屋を仕切る娘。その働きぶりは見事で、本人も自分の居場所はここなのかもしれないとまで考える。娘の献身に感謝し、喜ぶ女将。

 男を取り合ってあわや刃傷沙汰という大喧嘩までしておきながら、母が病を得ると、娘は献身的に働き、親娘が労り合う。その矛盾がいかにも女系家族の関係性らしくてリアル。

 見方によっては「歪んだ母娘関係」と取れなくもないですが、母娘それぞれの心情が丹念に描かれているために、矛盾こそ人生だよね…と共感してしまいます。
 老いらくの恋を恥じながら熱情に流されても上品さを失わない(上品すぎて置屋の女将さんの強かさは今一つ出てない)のがさすが田中絹代さま。久我美子さまは今回も気品ある知的なお嬢様役。

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