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詩 Let's Get Lost 2.

君と真昼の浜辺に行った
人っ子ひとりいない
南シナ海のゆるい波間に
君のやせた身体が浮かんでは消えた
私は灼けた砂の上に
綿のサロンを敷き
背すじを伸ばし坐を組んで
ヒンドゥー思想の本を読んだ
太陽がじりじりと
私の肩や首すじを焦がした
海からあがってきた君の姿は
無駄を削ぎ落とした
さながらインド賢者のよう
濡れた身体のまま
砂に寝そべってタバコを吸った
私は諦めて本を砂の上に置いて
波打ち際で貝殻をひろった

君とヨガの教室に行ったあと
インド人の朝食を食べに行った
パリパリに薄く焼いた豆のパンと
チキンカレーを
ふたりで分けっこして食べた
壁際の小さなテーブルで
向かいあって座って食べた
君はジンジャーティーミルク入り
私はジンジャーティーミルクなし

テーブルの下で
膝小僧がぶつかったとき
あれからもう20年も経って
ふたりとも白髪が生えているというのに
まったく昔とおんなじように
優しいけどちょっぴりサディスティックな君に
ますます恋焦がれていた頃の私と
まったくおんなじように胸がつぶれそうになった

そうして
私の大好きな清志郎ヒゲを生やして
はるばる会いに来てくれた君は
やっぱり昔とおんなじように
じゃあね、またねと手を振って
バックパックひとつ背負って
クアラルンプールからシンガポールへの
陸路の旅へと発っていった

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