[春ギター]毎週ショートショートnoteに参加します〜春の音
冬は好きだ。澄んだ空気でギターの音が遠くまで届くから。
夏は嫌いだ。淀んだ空気でギターの音が遠くに届かないから。
秋は好きだ。そんな夏が終わりを告げて好きな冬が来るから。
春は嫌いだ。嫌いな夏がやってくるから。
青年はベンチでギターを抱えながら深くため息をついた。そこへ一羽のツバメがやってきた。
「太い弦を張ればいいのです。そうすれば強い音が出て遠くまで届きます」「太い弦ははれません。大事なギターが折れてしまいます」
「大きなギターを弾けばいいのです。そうすれば大きな音が出て遠くまで届きます」
「嫌です。このギターでなければわたしは弾けないし弾きたくありません」
「では近くに行きなさい。音が届くように相手の近くに行けば良いのですす」
青年の顔つきが変わった。
そうだ、近くに行けば良いのだ。冬よりも近くに行って弾けば良い。
これまで音が届かなかったのは届ける相手を見てなかったからだ。
青年は自分を恥じた。
これからは恐れずに相手に近づいていこう。そして心を込めてギターを弾こう。
そうすれば春も夏も好きになれる。
青年は古びたギターをつまびいた。
ツバメが飛び去っていくのが見えた。
(480文字)
素敵な企画ありがとうございます。参加させて頂きます。
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