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村田諒太選手の引退報道を聞いて

ボクシングの村田諒太選手が引退するらしい。
”らしい”というのは、取材対応の中で「あの試合が最後」と報道陣に語り、現役引退を示唆しただけであって、正式に引退発表したわけではないからだ。
あの試合というのは、昨年4月に行われたミドル級王座統一戦で敗れたゲンナジー・ゴロフキン戦のことである。

尊敬する人物を3人挙げろと言われたら、私は間違いなく村田諒太の名を挙げる。
どこが好きかと問われれば、常に「自分とは何か?」と問い続けるその純粋でひたむきな姿勢だ。

以前観たNHKのドキュメンタリー番組『スポーツ×ヒューマン-オレは誰だ? ボクシング 村田諒太-』という番組に彼のその姿勢のすべてが詰まっていた。
この番組は私にとって大切な番組すぎて、録画した映像を何度も何度も見返すくらい大好きな番組なのだ。
44分の番組であるが、ほぼすべてがメンタルトレーナーである田中ウルヴェ京とのメンタルトレーニングの様子を撮影した映像で構成されている。
カメラに記録されていたのは、コロナによる相次ぐ試合延期に苦しむ姿など、己の弱さをさらけ出し、それを乗り越えようとする等身大の村田諒太の姿だ。

番組の中で、田中が村田選手に紹介した言葉がある。
彼女(田中氏は元シンクロナイズドスイミングの選手)が20代後半の時に出会った言葉だ。

もっとも人生ですばらしいことは、あなた自身でいること
The greatest thing in your life is being who you are.

村田選手は答える。
「でも、あなた自身が分からないですもんね」。
ここから村田選手の「自分とは何か」という深い深い森への旅が始まった。

番組後半で、村田選手は「今まで、承認欲求を基にした自己肯定感を追いかけていた」と話す。
あるがままの自分に気づく。みっともない自分にも目を背けずに気づく。
村田選手の問いかけに対し、そうした気づきがあった上で、やっと「自分とは何か」という深遠な問いの入り口に立てる、と田中は言う。

このシーンを見て、村田選手の、みっともなくて情けない自分の弱い部分であっても、決して包み隠さないその姿勢が好きなんだと気づいた。
自分は弱い人間なんだ、自分は醜い心を持った人間なんだという部分から目を背けない。決して逃げない。
そういう村田選手のメンタリティーや姿勢が好きなんだ、私は。

番組の最後で彼は言った。
「森が同じ形をしていないように、僕という森も絶対形が変わると思います。だけどそれが森であって、それが村田諒太なんですよね」

もっと村田選手の戦う姿が見たい。
それはリングの上であっても、もしリングから降りたとしても。
私は、彼自身と戦い続ける村田諒太が大好きだ。




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