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脆くて強い

目の前に不思議なトンネルがある


山の真ん中で見つけたものだ


二十歩程で潜り終わる短いトンネル





一時間程前の話だが
トンネルの向こう側からおじいさんが
こちらに向かって歩いてきた




向こう口から指す光の切れ目

一瞬、暗闇に包まれたおじいさんは

こちら側からの光を浴び姿を表すと

鼻を垂らした少年になり
張り裂ける様な笑顔で駆け抜けていった




私はそれから
その場で考え
立ちすくんだ





すると
野良猫が向こう側からやってきた



やはり光の切れ目から顔を出すと

野良猫は大きな虎になり

悠然と山中に入っていった




鼠はアメリカ人になり
車を買いに街まで行くそうだ


風に吹かれたビニール袋は
鷹になって無限の様な空に飛び去っていってしまった





このトンネルは一体なんだ

いくら考えてもわからない






私も潜ってみようと

トンネルの入り口まで行くと



無精髭を生やした警備員がどこからかやってきて
迂回願いますと警告棒で制止してきた



どうやらこのトンネルは一方通行らしい




たまたま通り掛かった女の幽霊は
メソメソと泣きながらトンネルを潜ると


生の喜びに溢れ
しっかりと地面を感じ
山を降りていった





姿を変える不思議なトンネルを目の当たりにした
私は

もう何時間もここで好奇心と一緒にいた




ここの仕組み


ここの魔法を


観察してみても全く答えが出ない




目の前の事情全てが本当のことなのかという疑いも
ないわけじゃないが



そんなことは野暮だろう




何故なら
潜った者はみな
喜ばしく垢抜けていく




きっとここはどこかの狭間


トンネル内部の光の境界線は希望の施し






これを作ったやつはきっといい奴なのだろう




さぞかしユーモアのあるやつなのだろう






山を降りたら
私もそういう人間になろうと誓った




このトンネルの様なものを

作る人になりたいと








次の日
山を降りた私は
二年ぶりに学校に登校した



私の止まっていた時間が
また動きはじめたんだ


























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