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「文脈」からニーズを捉える コンテクスト・マーケティング

今週もウェブ解析士のnoteをご覧いただきありがとうございます。
なんだかあっという間に3月も終わりを迎えようとしていますね。この時期に街を歩いているとよく目にするのが「新生活応援」の文字。例えば一人暮らしを始める人向けに家電セットが売られていたり、大学入学を迎えるフレッシュマン向けにスーツセットが売られていたり。これも一種のマーケティング活動であり、”コンテクスト・マーケティング”と呼ばれるもののひとつの形だと思われます。
ということで、今週はコンテクスト・マーケティングについて触れてみたいと思います。

コンテクストって何?

そもそもコンテクスト・マーケティングの”コンテクスト”ってなんでしょう。[context](コンテクスト)は日本語にすると「文脈」とか「背景」とか「前後関係」と言ったように訳されます。対になる言葉は[contents](コンテンツ)=中身・内容です。
コンテンツ・マーケティングはかなり市民権を得ていて、多くの企業が導入している印象がありますよね。動画や記事などのコンテンツを使って集客する手法ですね。
では、コンテンツの対になるコンテクストを利用したマーケティングとはどのようなものなのでしょうか。まずはコンテクストという言葉のマーケティング的な意味合いを調べてみましょう。文系出身なら一度はお世話になったことがあるであろう有斐閣のNew Liberal Arts Selectionから『マーケティング』の一説を見てみましょう。

コンテクストとは、提供される外部情報の背景、あるいは、情報を処理するする消費者が置かれた状況や文脈のことである。特に、消費者関連のコンテクストとしては、時間的圧力、予算的制約、社会的ネットワークなどが挙げられる。

池尾恭一他『マーケティング』有斐閣、p170

なんだか難しいということはわかりました。(笑)簡単にいうとターゲットとしている消費者が置かれている状況のことだそうです。この状況を読むことで、文脈とやらが見えてきます。既出の書籍によると、このコンテクストは「情報処理の機会」を規定するそうです。以前お伝えしたブランド・カテゴライゼーションでは目指すべきゴール「想起集合」の一つ手前が「処理集合」でした。すなわち、情報処理をしてもらえるかどうかが大きなポイントのひとつでした。
コンテクストが情報処理の機会を規定するのであれば、コンテクストをうまく捉えることができれば、処理集合に入ることができるということですね。

ブランド・カテゴライゼーション

ブランド・カテゴライゼーションに関する記事はこちら

文脈の判断

さて、簡単な例を挙げて考えてみましょう。あなたは、友達を食事に誘いました。友達は「いいよ」と返答します。この「いいよ」の意味合いが、コンテクストを知ることでニュアンスが変わってきます。

コンテクスト1
友達は仕事に忙殺されていて、たまには息抜きをしたいと思っています

この場合、返答の「いいよ」はOKのニュアンスを持ちますよね。
では、次の場合はどうでしょう。

コンテクスト2
友達は今月遊びすぎて、手持ちのお金がありません。その上、お金を使いすぎたことでパートナーからしこたま怒られたばかりです。

この場合、返答の「いいよ」はNo Thanksのニュアンスを持ちますよね。
誘ったタイミングが悪かったわけです。

これを販売に置き換えて考えると、タイミングを見極めることで買ってもらえるか否かが変わってくるということです。で、そのタイミングを測るのに、ターゲットが置かれている状況を知ることが重要だということがわかると思います。

コンテクスト・マーケティングの事例

コンテクスト・マーケティングが何やら役に立ちそうだ。ということはなんとなく理解できたと思います。でも、実際にはどんな使い方ができるのだろうか。というのを、成功した企業事例を見てみましょう。

オフィスグリコの事例

コンテクスト・マーケティングの成功事例で必ず語られるのは江崎グリコが提供する「オフィスグリコ」の事例ですね。
オフィスグリコは、お菓子の消費される場所に着目した施策と言われています。最も多くお菓子が消費されるのが「家庭」。次点で「オフィス」という生活調査結果をもとにしているそうです。そこには、「仕事中に小腹が空く」というコンテクストと、「でも外に買いに行くのはめんどう」という阻害要因を孕んでいました。
そこで、購買意欲を高めるために職場内に小箱を設置する方式で販売した結果、2021年時点の導入数は約10台に上るそうです。また、利用者の7割がそれまでお菓子の消費量が少ないとされていた男性だそう。
新たな市場ニーズを開拓した事例ですね。

オフィスグリコのイメージ(公式サイトより)
https://www.glico.com/jp/shopservice/officeglico/

セブンティーンアイスの事例

江崎グリコはもうひとつ、コンテクスト・マーケティングの成功事例を有しています。それが、アイスの自動販売機セブンティーンアイスです。
「中の人」が小さい頃は、プールなどの運動施設でよく見かけましたね。夏休みにプールに行った帰りにするちょっとした贅沢といったイメージでした。(笑)そんなセブンティーンアイスの自動販売機ですが、最近は駅のホームでもよく見かけるようになりました。
駅での一番の購入層はお酒を飲んだ帰りのサラリーマンなんだそうです。「飲酒後に口直しをしたい」というコンテクストと「早く帰りたいからわざわざコンビニ探すのも億劫」という阻害要因を的確に捉えた施策なのでしょうね。
そして、オフィスグリコと同様に埋もれてしまっていた顧客層である成人男性に効果的にリーチすることで市場を広げることになりました。

セブンティーンアイスの自動販売機(公式HPより)
https://www.glico.com/jp/shopservice/seventeenice/

身近な事例

その他にも、Amazonで商品を購入すると出てくる関連商品のおすすめ(レコメンド機能)もコンテクスト・マーケティングの一例です。
そして、ウェブ解析士にとって最も馴染みのあるコンテクスト・マーケティングの活用事例はGoogle広告(旧Google Adwords)ではないでしょうか。
検索したキーワードや検索時の位置情報などから、検索した人にとって最適と思われる広告を表示する仕組みですね。消費者のインターネット上の行動をキーとしてコンテクストを把握して、広告を最適化するという事例です。

まとめ

コンテクスト・マーケティングとは、消費者が置かれている状況や行動の前後の文脈を把握することで、ニーズが高まる瞬間に情報を提供し情報処理を促すことで購買行動につなげるというマーケティング手法です。
江崎グリコのように生活実態調査など綿密なリサーチを行う方法や、AmazonやGoogle広告のようにCookieや位置情報といった個人情報を利用する方法もあります。あまりにリアルタイムすぎる広告表示は、プライバシーを侵されていると感じることもあり、ブランドイメージの毀損にもつながります。
コンテクスト・マーケティングを実施する際にも、取り扱うデータには細心の注意を払う必要がりますね。

あとがき

今週も最後までお付き合いいただきありがとうございました。
ニーズがあるところに投下するというのは、マーケティングの基本のような気もしますが、それを実践するのはなかなか難しいですよね。
「中の人」は、ハイコンセプトの構想段階でコンテクストを利用することもあります。事実やすでに提供しているもの=コンテンツと、ターゲットを取り巻く背景=コンテクストから提供価値・便益を検討するというものです。
実際の手法としてのコンテクスト・マーケティングとは多少路線がずれるものですが、結構役に立ちます。この辺は書き始めると文字数増えそうなのでまた別の機会に。
それではまた来週お会いしましょう。

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