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流通チャネルにおける対立とパワー

今週もウェブ解析士のnoteをご覧いただきありがとうございます。
マーケティングに携わっていると、どうしてもコミュニケーション戦略に傾倒しがちですよね。たまに価格戦略を検討することがあっても、すでに存在するプロダクトを既存の流通に流す。というケースが多いような気がします。
そこで、今回はその中でも実践する機会の少ない流通戦略の一部について触れてみたいと思います。


取引間の対立

ビジネスをしている人みんなで仲良く。なんてなかなか実現できるものではないですよね。特に取引関係にあるもの同士だと様々な対立が生まれます。このような対立を生む原因は大きく分けて3つあります。

売買関係の対立

これは誰でも思い浮かぶものですね。売る側は1円でも高く売りたいし、買う側は1円でも安く買いたいと思うのが取引の常です。こうした取引関係上の利益の分配=買う側と売る側、どちらがどれだけ利益を出すかという点で対立構造が生まれます。

リスク分配の対立

これもちょっと考えれば思いつきそうな対立です。簡単に言ってしまえば、在庫リスクを誰が抱えるかという問題です。製品を製造しても、製造した数すべてが捌けるかわからない。逆に売れすぎて品薄になって機会損失する可能性もある。そこで、売る側は用意した商品をすべて買い取って欲しいし、買う側は売れた数だけ仕入れたい。どちらが在庫リスクを抱えて商売をしていくかという対立構造が生まれます。
これを乗り越えるために、受注生産というシステムがありますが、規模のメリットが生じないためコストが高くなり価格的な競争力を失うというデメリットもありますよね。

品揃えの齟齬

基本的に仕入れる側はより多くの取引先を作ります。スーパーのお菓子売り場を見るだけでも明らかですよね。カルビー、湖池屋、明治製菓、亀田製菓、森永製菓などなど、実に多様なメーカーの商品が陳列されています。
これは、エンドユーザーに対して「品揃えが豊富」という競争力を持つためだといえます。要するに、特約店のように特定の業者だけから仕入れるスタイルは一般的ではないということですね。逆に売る側は配荷の面から見てできるだけ優遇してほしいと思うのが通常です。こうした品揃えに関する齟齬が対立構造を生みます。

パワーとは

中央大学の久保知一教授によるパワーの説明は以下の通りです。

「ある主体Aが、別の主体Bの行動を変化させる能力」

要するに、発言力のことですね。例えば、元請けの企業は下請けの企業に対してパワーを持っていることが多いですね。「仕事を出しているのだから、ある程度融通を利かせろ」と言われれば断りづらくなります。
そうならないために、下請け企業は受注先を複数持っておくなどの対策を取ります。あれ、どこかで聞いたことあるような話ですね。
パワー=力=フォース……っ!そうです、5フォースです。
流通を管理するということは、5フォース分析上の外部からの圧力をコントロールすることにつながるということですね。流通戦略がマーケティングの基本である4Pに数えられる要因のひとつだと考えられます。

パワーの源泉

売り手側がパワーもつ要因=パワーの源泉も3つあるのだそうですよ。

市場支配力

一つは、市場支配力と呼ばれるものです。要するに市場シェアが大きければその分だけパワーを持つことができるということです。小売価格が最終的には競合と同じ価格だろうと、卸価格は競合より高く設定できるなんてことがあるかもしれませんね。
ただ、注意が必要なのはカテゴリ全体で生じるパワーなので、一対一の取引でそのまま持ち込むことができないという点です。

パワー基盤

一対一の取引において発揮されるのは、パワー基盤と取引依存度の2つとされています。そのうち、パワー基盤は2種類5タイプに分類されます。

  1. 経済的パワー基盤

    • 報酬に基づくパワー基盤:これは、例えば、ある店が他の店よりも高い価格で商品を販売する権限を持っている状況を指します。A社がB社に対して、インセンティブなどの報酬を提供する能力を持つ場合、それがこのパワー基盤です。

    • 制裁に基づくパワー基盤:A社がB社に対し、取引を停止するか減らす権限を持つ場合です。例えば、あるメーカーが小売店に対して、「ルールに従わなければ商品の供給を止める」と脅すことがこれにあたります。

  2. 非経済的パワー基盤

    • 専門性に基づくパワー基盤:これは、A社が特殊な技術や知識を持っており、B社がそれを必要とする状況です。例えば、特定の分野で高い技術を持つ企業がその技術を必要とする他の企業に影響を与えることができます。

    • 帰属意識に基づくパワー基盤:これは、例えば、A社が非常に人気があるブランドで、B社がそのブランドの一部になりたいと感じる場合です。A社が魅力的なコミュニティを形成していれば、B社はその一員になりたいと思うでしょう。

    • 正当性に基づくパワー基盤:これは、A社がある行動を取る権利を持ち、B社がそれを受け入れる義務を感じる状況です。例えば、ある業界のリーダーが業界の標準を設定し、他の企業がそれに従う義務を感じる場合、これが正当性に基づくパワー基盤になります。

取引依存度

これはすでに感覚的に分かってらっしゃる方が多いと思います。
全体の取引量のうち、どの程度を特定の相手との取引で賄っているかで示されるものですね。例えば、A社が販売する商品の80%をB社に販売している場合かなり取引依存度が高いといえますね。一方でB社は仕入れを分散させていてA社からの仕入れ割合は全体の10%程度だとすると、B社はA社へパワーを行使できるようになります。
このように、販売・仕入れにおいて、一社に依存することはパワー関係で自社を弱くすることになるので、販売先も仕入れ先も分散するのがセオリーとされています。

まとめ

今回は、流通戦略について触れました。取引関係やリスク分担、品揃えの齟齬など、様々な対立が生まれますが、それを乗り越えるためには相手とのコミュニケーションや取引依存度の分散が重要です。競争力を強化するためには価格戦略やプロモーション戦略だけでなく、流通戦略も大切な要素だと思います。正直、小難しいし、普段触れてることも少ないのイメージしづらいですが、知っておいて損はないと思うんですよね。まだまだチャネルシステムとか触れていないこともあるので、いずれ記事にしていきますね。

あとがき

今週も最後までお付き合いいただきありがとうございました。
久々に堅苦しい記事を書いた気がします。(笑)
「中の人」は過去に4Pの全てに触れる機会があったのですが、一番難しいと感じたのが流通戦略でした。プロダクト、価格、プロモーションは基本的に顧客がどう捉えるかということを検討し、ある程度戦略通りに動かすことができますし、振り返りも容易です。いわば、設定の主導権は自社が握っているわけです。価格、プロモーションに関しては変更も比較的柔軟です。しかし流通戦略は一筋縄ではいきません。ここで販売できればいいのにと思っても、販売業社が協力的とは限りません。友好関係を築けないこともありますよね。すでに確立している流通関係への配慮も欠かせません。なので、主導権を握れず柔軟性があるともいえません。
とは言いつつ、ウェブ解析士が触れる流通戦略ってECなどのデジタルが多いのでしょうかね。まぁ、知識として持っておいて損はないと思います。
それでは、また来週お会いしましょう。

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