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値引きの話をしよう。

今週もウェブ解析士のnoteをご覧いただき、ありがとうございます。「中の人」は最近、税理士の先生から「お金の話」を勉強させていただいているのですが、4Pの価格戦略に関するところで興味深いお話を聞くことができたので共有しようと思います。

皆さんは、値引きの経験はありますかね。
販売数量を増やすため、新規契約時の名刺がわりに、値引きしないと買ってもらえないという不安などなど、さまざまな理由から値引きしてしまうことってありますよね。ただ、安易に値引きしてしまうのも考えものです。「中の人」も開業当初はかなり安めの価格を提示して、単価を上げていくのに苦労した経験があります。
今回は、値引きという戦略が事業運営に与える影響について考えていきたいと思います。


値引きが利益に与える影響

値引きは短期的な販売数量の増加を期待して行われることが多いですが、コストは下がらないのが常ですよね。例を挙げて考えてみましょう。

架空の事例

単価100円の製品を100個販売できているとしましょう。すると、売上高は10,000円になりますよね。事業にかかるコストとして、店舗テナント料などの固定費が4,000円で、仕入れなどにかかる変動費の比率が売上の50%(単価50円、総変動費5,000円)かかっているとします。コストの総額が9,000円になりますね。そうすると手元に残る利益は1,000円です。

10%値引き後のシミュレーション

さて、そこから10%の値引きをしたと仮定して再度計算してみましょう。
単価が90円になるので、同じ数量を売り上げると売上高は9,000円になります。総コストが9,000円だったので差し引き0円です。利益が残らなくなってしまいました。値引き幅が10%を超えると赤字になってしまうことがわかりますね。

値引き前と変わらぬ利益を得るためには、販売数量を25%増やす必要があります。

売上高:11,250円(90円×125個)ー{変動費:6,250円(11,250×変動比率50%)+固定費:4,000円}=利益:1,000円

そもそも、値引きは売り上げを伸ばすために行うことが多いと思います。短期的な売り上げで見ると、25%上げてトントンではあまり意味をなさないので、25%以上の販売数増が見込めないと値引きに踏み切るのは危ういということです。

考慮しなければいけない内的参照価格

さらに考慮しなければいけないのは消費者が持つ内的参照価格です。
内的参照価格とはこれまでに経験した価格などから消費者がマインドの中に持つ基準価格のことを指します。その基準を越えれば「高い」、基準より低ければ「安い」と判断するわけです。
一度値引きを行なってしまうと、値引き後の価格に引っ張られて、内的参照価格も下がってしまう傾向にあります。一度下がってしまったハードルを上げるのは容易ではありません。
特に消費者は損失回避の傾向があります。そのため、値下げ時よりも値上げの方がインパクトを与えると言われています。価格が戻ることで不満を抱く消費者が出てきてしまうかもしれませんね。

コスト構造による違い

さて、ただ一概に値引きが悪いかというとそういうわけではないのですよね。コスト構造の違いによって、値引きのハードルの高さが変わります。
さらに例を挙げて、コスト構造の違うふたつの事業を考えてみましょう。

事業A(変動比率高め)

ここでは変動費が高めで、固定費が低めのコスト構造をしている事業を見てみます。

  • 売上高:10,000円(単価100円×数量100)

  • 変動費率:80%

  • 固定費:1,000円

  • 利益:1,000円

ここから10%の値引き(単価90円)で、同程度の利益を残すと考えると、以下のようになります。
利益を残すためににいくら売り上げる必要かをまず考えてみます。
利益1,000円+固定費1,000円=2,000円が必要な粗利益になりますね。
加えて変動比率がどう変わるかを見てみます。
現状の変動比率が80%で8,000円。売り上げ9,000円のうち8,000円が変動コストとしてかかるので、比率は80%→約89%(8,000円/9,000円)に上がります。ということは、残る11%が粗利率なわけですね。
そうなると必要な売り上げは、必要な粗利(2,000円)÷粗利率(11%)=約18,000円です。単価が90円になるので、18,000円÷90円=200個の売り上げ数量が必要になります。なんと、売り上げ数量は2倍必要になるんですね。

事業B(変動費率低め)

では次に、変動費が低く、固定費が高い場合を見てみましょう。

  • 売上高:10,000円(単価100円×数量100)

  • 変動費率:30%

  • 固定費:6,000円

  • 経常利益:1,000円

10%値引き後のシミュレーションを事業Aと同じ計算で行ってみます。
必要な粗利は7,000円。変動比率は30%→33.3%に上昇=粗利率66.7%となるので、必要な売り上げは7,000円÷66.7%=約10,500円です。
10,500円を単価90円の商品で稼ぐには約117個売る必要があります。
17%売り上げ数量を伸ばすだけで済むんですね。
(17%を”だけ”と表現していいのか難しいですが、事業Aと比較すると…ということです)

事業Aは大幅な販売数量の増加が必要ですが、事業Bは比較的少ない増加で済むようですね。このように変動比率(もっというと粗利率)によって値引きが事業に与えるインパクトに差が出てくるので、自社のコスト構造を理解しておく必要がありそうです。

値引きをする前に考えること

短期的には値引きは効果的かもしれませんが、上述してきたように利益を上げていくのが難しくなってきたり、ブランドイメージを損なったりといったリスクがあります。
そうならないために、値引き前に考えておきたいことをリストアップしてみます。

1. コスト構造の理解

上でシミュレーションした通り、コスト構造によっては値引きすることで必要な売り上げが爆増して自身の首を絞めるような状況に陥ることがあります。自社のコスト構造を理解することが重要ですね。

2. 複数プランの用意

松竹梅などの複数プランを用意し、顧客に選択肢を提供することで、値引きに頼らずに顧客のニーズに応じた提案ができそうですね。3段階あると、真ん中のプランが選ばれやすいという傾向もあるので、その辺りも踏まえて価格を設定すると良いかもしれません。

3. 総合的な判断

値引きを行う際は、顧客のライフタイムバリュー(LTV)を考慮し、短期的な利益よりも長期的な関係構築を重視すると良いかもしれません。例えば、キャプティブ価格戦略と呼ばれる手法は、LTV向上に寄与する方法の一つです。キャプティブ価格戦略とは、基本商品を低価格で提供し、消耗品や追加サービスで利益を上げる方法です。男性用電動シェーバーなどでよくみられる手法ですよね。ハード(シェーバー本体)が決まっているので、それに対応するソフト(替え刃)を購入するしかありませんから、囲い込みを行う際などに利用されています。

まとめ

値引きは短期的には販売数量の増加を期待できますが、長期的には企業の利益率やブランド価値に悪影響を及ぼす可能性があります。特に消費者の内的参照価格(これまでに経験した価格を基準とする価格)と損失回避の傾向を考慮すると、一度値下げした価格を元に戻すことは非常に難しいです。

値引きに踏み切る前に、自社のコスト構造を理解してみたり、値引き以外に取れる方策がないかを検討してみたりするといいと思います。

あとがき

よく、ポストに投函される「5%OFF!」みたいなチラシ。「なんだ、消費税分すら割り引かれないじゃないか」と思ったりしていたんですが、値引きシミュレーションすると、事業に与える影響の大きさに驚きますね。値引き額に不満を持ってすみませんでした…。
企業努力に敬意を持ってチラシを拝見することにします。

まぁ、実際は感覚的なところで局所的な値引きをしてしまうことが多いような気がします。その値引き、取り戻すのにどれくらいの労力が必要かを考えていきたいですね。
価格戦略について、具体的な話ってなかなか聞くことができないのでもっと勉強していきたいです。

それではまたお会いしましょう。

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