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【n%フィクション#11】悪友 詐欺師編

「ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”!!!!! かけてくんなゴキブリィィィィ」
この日から、拓郎のあだ名がゴキブリにジョブチェンジした。

〈はじまり〉
noteでもいくらか書いたが、自分は高専に通っていた。5年制のカリキュラムや全寮制など、普通校とは色々と異なる事情。そんな環境も相まってなのか、周りには強烈な個性を持った人間がいた。今回、思い出として綴る吉田拓郎(偽名)もまた、そんな強烈な個性を持つ悪友の一人だった。

出会いは確か1年時分に、友達が連れてきたことが始まりで、その後5年間、何やかんやと連み続けた。出会った当初は、可もなく不可もない印象であったが。しかし、この時から、拓郎節は始まっていた。というのも、実は最初に名乗った「吉田拓郎」という、日が沈みそうなシンガーソングライターの名前は偽名だったのだ。尚且つ、半年くらいこのネタを明かさず、本名を隠し続けた。他の面々はさておき、学科もクラスも違っていたので、自分はまんまと騙されていた...ぐぬぬ。このときから、拓郎がぶっ飛んだキャラであることに、少しずつ気づかされていった。

拓郎は、勉強こそ苦手であれど、手先が器用で頭の回転がとても速い。この技術が功を奏して、色々な遊びを生み出した。一方で、倫理観や道徳心がミジンコレベルなのである。故に顔色一つ変えず、平然と爆弾発言や虚言を吐く。このことを指摘すると、「俺は、倫理観が無いんじゃなくて、お前らのレベルに合わせているんだよ」と返答してくる。俺たちに倫理観が無いみたいに言うなとツッコミたくもなるが、確かに自分達と連むとき以外は、そこそこに空気を読んでいる。ここらへんもまた要領が良い。

そんな自分達は、ゲームやアニメ、雑談などありふれた娯楽で時間を潰していたのだが、時々、思い出したように悪ノリを始める。その一つが斎藤さん(悪徳業者限定)だった。

名前こそ、執筆中に適当につけたが、要は単純で、詐欺被害.comに記載されている悪徳業者にアクセスして、レスバトルを始めるだけだった。自分や他の友達がやったところで、まず数分ともたないのだが、虚言と暴言を溜めなしで連発できる拓郎は強かった。今思えば、大変迷惑なことだが、自分達がこうして、ふざけていたことで被害者予備軍が少しは冷静になり、貴重な財産を守ることができたかもしれない。(知らんけど)

ちなみに、主犯の拓郎も架空請求に関しては「こんなしょーもないものに騙されるヤツ(の頭が)悪い」というスタンス100%なので、正義感など1刹那もない。やっぱり元から道徳心が無いだろコイツ。前置きが長くなったが、今回はそんな架空請求業者との争いで印象的だったものをいくつか紹介したい。

〈vs詐欺師 甘い話編〉
その日は、シネマ○○という投資系の悪徳企業のところへ電話をしていた。やはりレスバトルは、得意分野に持ち込める方が強いのだが、俺たちの投資系の知識なんてせいぜい「fxを有金全部溶かした顔の人」程度だが、果たして大丈夫なのか?

佐藤「初めまして、この度はご登録いただきありがとうございました。吉田様の担当をさせていただく、シネマFXの佐藤と申します。」

拓郎「あっ、島根Fu○ksの方ですか?」

あ、早速やりやがった

佐藤「いえ、こちら島根FXではなく、シネマFXでございます。」

拓郎「ああ、失礼しました!シネマでしたね。こちらこそよろしくお願いします、シュガーさん。」

シュガー「...。」

もはや言い間違いレベルじゃねえ、なんでコイツ淡々とそんなこと言えるの?でも、相手も強い。社名を間違われようと、苗字を勝手に英訳されようと。担当者シュガーは説明をやめない。その後、5分くらいシュガーからの説明が続いたが、その瞬間は突然訪れた。

シュガー「...という訳で、購入しれくれれば必ず利益が確約されます!!」

拓郎「なるほど〜」

シュガー「いかがですか?吉田様、今だけのチャンスですよ!」

拓郎「うーん、でもシュガーさんの話って何か甘い話過ぎて信用できないんですよね。もっかい説明してくれません?」

「ブチッ...ツーッ、ツーッ」

拓郎「けっ、しょっぺぇな」

いや、電話を切って正解だと思う。というか、シュガーさんも何で最初真面目に説明したんだよ。絶対こんな奴契約しないだろ。でもまあ、どんな相手でも説明するあたり、勤務態度は真面目かもしれない...。

〈vs詐欺師編 G編〉
この日は、王道でもあるアダルト系の架空請求に勝負を挑もうとしていた。だがしかし、非通知での通話は、そもそもでブロックされ取り合ってもくれなかった。恐らく掴んだ客を逃がさないためだろう。かといって、たかだか遊びのために自分の電話番号を危険に晒すのも嫌だ、誰ともなしに「まあ、今日はお開きかな?」と言い出したところ、拓郎は非通知設定を外した状態で通話を開始しようとしていた。

自分「おいおいおい、ややこしくなるからやめとけって」

拓郎「大丈夫、鬼電しまくって着拒さえされれば、番号は売られない」」

自分「何経験したら、そんなノウハウ得るんだよ」

自分たちの止める声も虚しく、早速電話をかけ始めた拓郎。そして5分後...。

詐欺師「お前、マジでふざけんなよ!!!! 覚えとけよこの糞野郎!!」(ブチッ..!!

5分ほど小学生でもしないレベルの悪口合戦が続き、相手から電話を切ったことで、会話は終了した。しかし、ここからが本領、拓郎はリダイヤルをやめない。

拓郎(ポチポチポチ)

詐欺師「もしもし?」

拓郎「あ、もしもし警察ですか?詐欺被害に遭ってしまって...。」

詐欺師「またお前か!! いい加減にしろっ!! かけて来んじゃねえぶっ○すぞッ!!!!」(ブチッ!!

拓郎(ポチポチポチ)
拓郎(ポチポチポチ)
拓郎(ポチポチポチ)

詐欺師「ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”!!!!! かけてくんなゴキブリィィィィ」

「ブチッ...ツーッ、ツーッ」

拓郎(ポチポチポチ)

「---この電話はお客さまのご都合によりお繋ぎできません。」

拓郎「なっ?」

自分「...。」

この日から、拓郎のあだ名が拓郎からゴキブリにジョブチェンジした。悪口のレベルこそ小学生でも言わんだろレベルだが、この執念深さは正にゴキブリのそれだろう。っていうか業者から恨みを買って電話番号が回されることはないだろうか...。

〈結び〉
今思うと、何ひとつ論破もしていないし、相手の情報を聞き出せていない。電話で対決というより、詐欺師を使った大喜利大会だった。何か得たとするなら「鬼電しまくって着拒さえされれば、番号は売られない」という、2,3回は輪廻転生しないと役に立たなそうな、全くありがたみのない金言だ。

ここでは書いてないが、「バストイレ付きのマンションを購入しないか」というお姉さんからセールスに対し、拓郎が延々とバスを、乗り物のバスとして話を進めようとするやり取りが一番好きだった。最後はお姉さんが吹き出して終わった気がする、あれは勝利かもしれないな。

ある意味、あの年であのメンツだったからこそ、楽しかったんだと思う。

味わいたいかはさておき、今はもう味わえない。そんなあの日々が好きだった。そんな話を書き留めていこう。

「悪友 詐欺師編」20%フィクション

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