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【ss】五月集め
きみは明日地球がなくなるみたいにわたしを大事にしたから、今日も粗末に扱えない季節が過ぎていく。この星の切り取り線の下に行けば常夏。この星の絞りの先に行けば常冬。どちらにも行けない、淡水がゆらゆら流れるこの田舎に、空が落ちていた。
五月。水を張った田にはきみの国が映っている。
鯉のぼりに息を吹き込んでいるのはきみでしょう。ちゃんと子どもたちを寿ぐように。どうどう唸りを上げて、でもきみの国の高さまで届かないように、力強くふうっと鱗を光らせる。
進むといい! 雲と地面の間の風を狙って、雪を溶かし花を散らし枯れ葉を染め上げて、「また来年」があるきみたちへ。この大魚の旬が巡り、またここに捕まえるまで。
盆地から臨む山嶺は、季節のカクテルを層にしながら扇状地帯に恵みをしたたらせている。上に氷を戴いてステアされた冬が、下で夏になるまでの時間を五月と呼ぶ。果樹は根から吸い上げた季節に酔いしれて、すっかりできあがった頃に人間が迎えに来る。
口無ききみにさくらんぼ。口無ききみに一番茶。
こんな楽園から去ったきみが口惜しく、こんな地獄から早抜けしたきみが羨ましい。きみを語るべき時、わたしはいつも自分を弁護し、検挙している。
きみの命日に夢を見た。『五月集め』をする夢だ。新緑に雪が積もっているから、店の桜餅が柏に包まれていないから、きみの墓石に入道雲の影が差すから、必死に五月を探す夢。正しい死を探している中でわたしは思うんだ。「きみの死の、何もかもが正しくなかった。」
そして間違っているのにわたしは一向に止められなくて、起きた後泣いたんだ。目が熱くなって、五月、五月、五月……五月なんて五月蠅い! で、五月を初めて見つける。
泣き止んだわたしは夢占いをしようと検索欄に『五月集め』って打つ。しかしクッキーは情報をパーソナライズするためきみを吸うようだ、と消した。きみの広告が出たら神様はいくらでわたしを諦めさせようとするだろうか。
結局どれだけ五月を集めてもきみにならない。苛まれたわたしは、持病の五月病の薬に線香を焚いて東洋医学とする。少し、息が楽になった。
地軸の傾きと、太陽との近さ、定め付けられた回転が、一年に一回正しくきみの死亡時刻を運ぶ。わたしの細胞を裂くようなきみの細胞の破綻が起こった日を、もう少し穏やかに眺められるようになる頃、わたしはようやっと、きみの人生のエピローグを書くのを止められるのだろうか。正しい悲しみの在処を見つけないと、わたしは溢れるわたしに絆創膏を貼れない。
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