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【寄稿】お茶の水女子大学名誉教授 戒能 民江さん/半年後に迫る「女性支援法」施行予算・人材・連携で実効性ある支援を

画期的な公的責任の明記

2022年に議員立法で成立した「困難な問題を抱える女性への支援に関する法律」(以下、女性支援法)の施行を半年後に迎える。

女性支援法は、売春防止法を法的根拠とした「婦人保護事業」の差別的な殻を脱ぎ捨てて、当事者中心主義の新たな支援システムを構築し、女性の人権保障と男女平等社会の形成への寄与をめざす。困難な問題に直面して支援が必要なのに、制度の谷間に落とされ、支援を求めることが難しい女性に、地域の様々な機関や民間団体が力を合わせて「最適の支援」を届けることを目的とする。

女性支援法の新しさの一つとして、国及び地方公共団体の女性支援の責務、中でも、市町村(特別区含む)の責務の明記があげられる。公的責任の明確化は、日本社会に根強い自己責任論を克服するとともに、男女格差の拡大の一方、コロナ禍による経済的困窮や自殺の増加、DVや性暴力被害の深刻化など女性の苦境と困難を生み出す根源が、日本の性差別社会の構造にあることを示す。

開設された「女性支援室」

女性支援法は支援の基本理念として「関係機関及び民間団体との協働」による早期からの切れ目のない支援を謳っており、それに続けて、国及び地方公共団体の責務を定めた。

支援の指針である「基本方針」で国と地方自治体の役割が定められているが、国は女性支援施策の立案や予算確保を中心に、運用の実態把握や調査研究、法の周知や啓発、相談支援員などの研修・人材育成、自治体の支援など、支援政策の「司令塔」の役割を担う。なお、2023年4月、厚生労働省社会・援護局内に「女性支援室」が開設されたことは画期的である。

地域独自の基本計画策定を

都道府県は地域における支援の中核であり、基本計画の策定を義務づけられている。基本計画の策定は、その地域の女性が直面する困難の実態や支援の状況把握に基づいて課題を設定し、支援の基本方針や、民間団体や関係機関との協働・連携による包括的な支援体制の整備を目的とする。

もちろん、実効性のある支援内容の充実・強化と支援体制の整備には予算と人員確保が不可欠である。また、居場所のない若年女性や子ども、外国人支援など、その地域の特徴を生かした独自の重点施策が示されなければならないし、都道府県は、市町村への支援や助言、研修による専門性の保障や人材育成、民間団体との協働の指針策定などの重要な役割を担う。

市町村の重要性と役割

基本方針では、最も身近な自治体であり、相談から生活再建までの一貫した支援を行なうとともに、女性支援に不可欠な福祉制度の実施主体として、市町村を位置づける。また、必要な場合は、適切な他市町村や機関へとつなぐ役割も果たす。

市区での実際の支援では、市区庁内の関係部署や関係機関との連携による支援を行なうために、関係部署の十分な理解と顔の見える関係の形成、情報の共有や部署間や関係機関との調整が必要になる。さらに、地域の民間団体や関係機関の力を借りたネットワークづくりも、複合的な課題を抱えた女性支援に不可欠である。

また、女性支援法では努力義務にとどまるが、市や特別区では「基本計画」の策定に取り組んでほしい。

いま自治体でやるべきこと

2024年4月の女性支援法施行を前に、市町村からは、担当部署の決定や民間団体が地域にない場合に、どことどう連携するかなど、不安の声が寄せられている。担当部署については、福祉系と男女共同参画系部署との緊密な連携が必要である。例えば福祉担当は、性暴力や性虐待、性的搾取、予期せぬ妊娠や孤立出産など、「女性性」に起因する女性の困難への対応経験が少なく、ジェンダー問題の理解が十分とは言えないかもしれないからだ。

市町村での女性支援の中心となる女性相談支援員の設置と充実強化も求められる。現在、全国の市区への婦人相談員の設置率は50%を若干上回るにすぎず、コーディネータ役不在のままでは、地域のネットワークによる支援は難しい。

さらに、行政内部の女性支援に関する理解を深め、女性支援や相談に対する認識を変える必要がある。特に首長や管理職の本気度が問われる。そして、民間の女性支援団体の掘り起こしや、育成に予算をつけて取り組むべきである。

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