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【寄稿】猿田佐世さん/自発的対米従属から主権を取り戻し日米地位協定の改定を

▼裁かれぬ米軍の犯罪・事故

米兵による犯罪や環境汚染に苦しむ沖縄県が、地位協定の各国比較プロジェクトを数年がかりで実施した。 

日米地位協定は日本では評判が悪い。産経新聞の世論調査ですら「改定を求めるべき」との回答が8割を超え、全国知事会でも全会一致で改定が提言された。しかし、1960年の締結以来、一度も改定されたことがない。

問題があるのは明らかである。沖縄では、1972年の本土復帰から2022年末までに、米軍人等による刑法犯罪が6163件(1カ月平均10件)、航空機関連の事故が882件(同1・5件)発生しているが、これらの犯罪が十分に裁かれることはない。

近年、米軍基地周辺の河川や湧き水から、発ガン性が疑われるPFAS(有機フッ素化合物)が検出されており、沖縄県は汚染源を特定するため、幾度も基地の立入申請をしているが、未だ実現していない。

米軍は多くの国々に駐留し、各受入国と地位協定を結んでいるが、他国との地位協定が日米地位協定と同様の状況にあるわけではない。最も異なるのが、問題のキモである「国内法が駐留米兵に適用されるかどうか」についてである。

▼主権を行使する他の受入国

日本政府は、在日米軍には日本の国内法は原則として適用されないとの立場にある。しかし、ドイツやイタリアでは、地位協定に、米軍の訓練等への受入国の国内法の適用や順守義務が明記されている。ベルギーでも、憲法や法律に基づいて外国軍が駐留しており、米軍にも航空法や航空規則等を適用させている。英国でも、国内法の「駐留軍法」を整備して英国軍に適用される法令や規則等を米軍にも適用させている。

また、米軍に基地の「排他的管轄権」を認め、日本側による施設・区域内への立入り権を認めない日米地位協定3条も他国と異なる。ドイツとイタリアでは、受入国側の立入り権が協定に明記され、英国でも、基地の占有権は引き続き英側が持つことや基地に英空軍の司令官を置くこととされている。

さらには、日本では、日本側による米軍の訓練・演習に対する規制はできないが、ドイツとイタリアでは、米軍の訓練に受入国側の許可や承認が必要であることが協定に明記されている。ベルギーでは、航空法に、外国軍の領空飛行にベルギー側の許可が必要であることなどが規定され、規則でも飛行高度や飛行時間等について自国軍より外国軍を厳しく規制している。英国でも、英空軍の規則で駐留軍の飛行を禁止、制限している。

即ちヨーロッパ4カ国では、国内法の適用、基地の管理権、訓練・演習への関与、航空機事故への対応の4項目で、各国が主権をしっかり行使していることが沖縄県の調査で判明したのである。

ドイツやイタリアでは、大規模な米軍機の事故で多数の死傷者が出たことで、国民世論や反米軍感情が高まり、政府が米国との協議に臨み、改定や新たな協定締結を行ない、国内法の適用の強化や米軍機の飛行規制の強化を実現している。

日本と近い環境にある韓国でも、多くの問題はありながら、韓国政府は、国内法の適用については派遣国と受入国の合意に基づくのが慣例と考えており、原則不適用とする日本政府の考え方とは異なっているし、韓国では、2度の地位協定の改正も実現している。

▼奇異な日米関係

「これは主権の問題である」。玉城デニー沖縄県知事は言い切る。日本政府は、日米地位協定は「運用の改善」での対応が合理的として、改定を求めない。国内法の適用は、主権国家において最も重要であるにもかかわらず、日本政府はこれを自ら放棄している。

イタリアでは、米軍機によるロープウェイ切断事故(1998年)を契機に米軍の活動制限を強化した。当時、外務大臣として事故対応に当たったランベルト・ディーニ氏(元首相)は次のように述べている。

「米軍基地があるのは日本だけではないが、インターナショナルな見直しを進めていかないと、日米関係だけが奇異な関係になってしまう。米国の言うことを聞いているお友だちは日本だけだ。世界の状況を見れば、米国が日本を必要としていることは明らかなのだから、そこをうまく利用して立ち回るべきだ」。

NATO加盟国の元首相にすらこのように言われてしまう日本。なぜ他国にできて、日本にできないのか。日本に住む人々の命や生活を守ることよりも、米国との関係に波風を立てないことを重視する日本政府の姿勢に対し、日米地位協定を改定させるべく、私たちはさらに声を上げていかねばならない。

(2024年4月10日号掲載)


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