小説 『予感』(作:むしぱん)

 セキュリティなんて、くそくらえ。
 僕は上着を、あたかも手から滑り落ちたかのように手をばたつかせながら平置きの本の山の上に落とす。拾おうと、上着をすくうように取ったついでに手に当たった本を上着の下で掴む。そのまま腕を引き上げ、予め口を開けていたトートバッグに詰め込む。バッグを肩にかけ直して、何食わぬ顔で陳列されているラノベの表紙を眺めながら歩く。そのまま本屋の中をぐるりと一周してから外に出る。最初の曲がり角を曲がったところで、無意識に止めていた呼吸を再開する。左手薬指の爪を噛む。これもまた、無意識の癖だ。
空はもう暗く、白やオレンジの光が目立ち始めている。金曜日の午後7時。早めに仕事を終わらせ帰宅する大人たちで駅前の本屋は比較的混む、ということをネットで調べて知った。そしてそんな仕事熱心な大人たちは巷で噂の実用書や新作の小説しか見ない。この時間帯にラノベを長々物色する人間なんかそうそういないから、犯行にはもってこいだ。
レジを通さずに手に入れたラノベはこれで3冊目。実行開始日から3回金曜日を迎えた。あの店に防犯カメラがあることは知っているし、別にラノベコーナーが死角であるわけでもない。初回であっさりばれるか、そうでなくても翌週の同じ時間に行けばさすがに見つかるだろうと思っていたのに。ひやりとする瞬間も無く、あっさりラノベが増えていく。警備がザルすぎやしないか。
早く見つけてくれよ。別に僕はラノベが欲しい訳じゃない。悶々と歩くうちに家につく。ポケットからカギを取り出し、ドアを開けながらため息がこぼれた。
「ただいま」
無人と分かり切っている暗闇で呟きながら自室に直行する。部屋に入ってすぐトートバッグの底を持って逆さまにすると、コートがドサッと音を立てて落下した。コートをめくってラノベを取り上げ、ベッドに転がりビニールを破り捨て読み始める。3分の1くらい読み進めたあたりから眠気が襲い掛かってきて、あっという間に意識を失う__。

「ご飯よー、降りておいで!」
母の声が聞こえる。そんなはずはない。あの人はもう2度と僕にご飯を作って呼ぶことなんてないだろう。母は5年前、僕が小学3年生のころに父と離婚した。それから1年ほどして新しい恋人を見つけた。そいつは休日には何度もうちへ来て、僕も一緒に映画を見に行ったり公園で遊んだりした。母はとても幸せそうで、このまま新しい父親ができるのだろう、と思っていた。前の父のことを裏切るような気持ちも少しはあったけど、母を泣かせたやつだ。母が今幸せならそれでいいや、くらいにしか考えていなかった。
そしてそれからまた1年くらい経った頃だったか。突然、新しい恋人が行方をくらませた。母と2人で貯めていた巨額の結婚資金と共に。
「あの人、すごく堅実で、あなたの教育費とか、他にも色々な備えをきちんとしよう、とか言ってまだ結婚を渋るの。もっとお仕事頑張らないと!」
母はそんなことを言っていた。しかしその表情には不満の色は少しも浮かんでいなかったから、まんざらでもなかったのだろう。それなのに、最初から男は結婚する気はなかったし、ただ金目当てに母と交際していたのだった。
それから、母は変わってしまった。1人目の父親のようにその恋人をさっぱり諦めることができなかった。もっと自分が稼いでいたら違ったのかと、もういない男を追いかけて働き詰めた。そして、僕の扱いも日に日に雑になっていった。最初は朝晩には作り置きのおかずが食卓に並んでいたし、炊飯器にはご飯が炊かれていた。しかしそれも1か月ほどでなくなり、代わりに毎日1000円札が1枚置かれるようになった。僕は毎日コンビニでご飯を買ったが、おにぎりも弁当もパンも飽き、食への執着を失い、カップラーメンを買い込むようになった。中学校へ入学するときも書類とお金だけ机に置かれていて、僕は自分で手続きをしたり、制服の採寸に行ったりした。親は、と聞かれて仕事が忙しくて、と返すときまってえらいね、という言葉が返ってきた。あの時誰かが僕の異常に気付いて、もう少し問題ごとにしてくれていたら良かったのに、と思う。ただ、母の邪魔をしてはいけないと子供ながらに気を遣い、平気な振りをして淡々と受け答えをした僕のせいでもあるのだろう。

 ガタッと音がして意識が現実に引き戻される。ただ風が吹いて窓を揺らしただけだった。もちろん母は帰ってきていなかった。そのことに寂しさを感じなくなったのはいつからだろう。
僕は母によくなついていた。離婚したときも決して僕の親権を父に譲らなかったことが嬉しかった。2度も辛い思いをした母を応援したくて、少しでも母の負担を減らせたら、と思って僕は何一つ文句を言わなかった。でも段々と、その献身の気持ちは失われていった。恐らく、日常の居心地の悪さというか、暮らし辛さのようなものを顕著に感じ始めたからであろう。中学生になって遊ぶ場所が、学校の校庭や近くの公園からゲームセンターやショッピングモールに代わりお金が必要になると当然そんな余裕のない僕は断らざるを得なかった。日に日に誘われる回数が減り、同時に学校で友達に話しかけられることさえも少なくなった。そうなるとさすがの僕も現状に不満を抱くようになるのだが、その不満をぶつける先はどこにもなく、状況を変えようにも年単位で定着してしまった生活など変える術もない。途方に暮れながら、母に対する信頼や愛ばかりが消えていって今に至る。もっとも今はそれをこじらせ、母どころか他人に何も期待しなくなり、人間関係を疎ましいものと思い、心を閉ざしきっている。僕を必要とする人間など今やどこにもいないのだ。左手中指の爪を噛む。
僕の生活は、平凡でつまらない。母は僕が学校に毎日通うものとして認識しているため、朝と夜の2食分ほどのお金しか置いていかない。どうしても空腹に耐えられなくなる時だけ、昼食を食べるために学校へ行く。しかし何も分からない授業は退屈だし、クラスメイト達が僕を遠巻きに見る視線が煩わしいから出来る限り行きたくない。職務放棄と言われることを恐れているのであろう担任に声をかけられたり、何度か家に電話もかかってきたりしたけれど、親の仕事が忙しいと頑なに言い続けた。そのうち諦められて放っておかれている。卒業できないのかもしれない。そんな事態になったらさすがの母も少しくらい僕に時間を割くのだろうか。まあ、望みは薄い。何一つ確定要素のない未来の事なんて考えても無駄だ。学校に行かない時は部屋に閉じこもって、ゲームの実況動画や大して面白くもない若手芸人のお笑い動画を見あさるだけ。1つだけ僕の心を震わせるのは、金曜日の午後7時。その日を待ちながら、僕は毎日を淡々と繰り返す。

 3度目の犯行から1週間が経ち、また金曜日になった。
コートを手にもち、トートバックを肩にかけた僕は書店を一周する。今日のレジも黒縁の四角い眼鏡をつけ、毛先だけ金色の髪を後ろにひとくくりにした細身の女。固定シフトのバイトのようで、ほぼ毎週レジに立っている。接客の声は暗くて小さく、勤務姿勢はお世辞にも良いとは言えない。仕事にやる気があるとは欠片も思えない。バイトなんてそんなものなのか、と思うが僕にとっては好都合だ。彼女があくびをしているのを横目にラノベコーナーへ向かう。先週盗ったラノベの次巻を棚から抜き取り、平積みの本の一番上に載せて一旦横の本棚にずれる。特に意味もなく本の表紙たちを眺めて買う本を悩んでいる風に装いつつ、数分経ったところで周囲を見回し、人がいないことを確認した。僕はいつもの手口を使い、本を手に取ったのだが、拾ったコートの裾が翻って本の山にぶつかり数冊の本が落下する。慌ててコートをトートバックに詰め込んでからしゃがんで落ちた本を拾っていると、音に気が付いたのか、あの女店員が声をかけてきた。想定外の事態に僕の鼓動は早くなっていく。
「あ、適当に置いといてください。区別して積んどくんで」
言われた通り、早く退散しよう。僕は女店員の顔を見ずに手に持っていた本を台に置いて去ろうとする。が__。
「ちょっと待って。これも、お返しいただこうか」
声と共に腕が掴まれ引き留められる。驚いて顔を上げると、女店員が僕のトートバックの中の、コートに包まれきれていないラノベを取り出すところだった。全身に鳥肌が立つのを感じる。しかし、状況に理解が追いついた僕は瞬時に落ち着きを取り戻した。そうだ、これこそ望んでいた結果じゃないか。公的な、大きな力が僕の環境が異常だと、これで気が付く。
「これ、お金払ってないよね」
ラノベの表裏を確認しながら女店員は言う。答えるまでもない。僕がじっと黙っていると
「えーっと、とりあえず学校名と名前、それから保護者の方の電話番号を教えてくれる? あ、今逃げ出してももうばっちり犯行現場防犯カメラに写っちゃってるから逃げても無駄だからね。しかも君、これが初めてじゃないでしょ」
最後の言葉に驚いて思わず顔を上げる。
「知ってたのか?」
女も本から顔を上げ、僕の目を見る。
「確証はなかったけどねー。最初は確か2週間前にたまたまカメラに映る君を見つけて、この店風通し良いから結構寒いのに、わざわざコート脱ぐんだな、面白いってくらいにしか思ってなかったんだけど。でも先週も同じ時間に来てやっぱりコート脱ぐし、何も買わずに出ていくし、挙動不審で怪しかったよ。実は今日はもともと、君が来たら声をかけるつもりだった」
道理で、本を落としてすぐに声をかけられたわけだ。たった数冊落としただけじゃそれほど大きな音は出ない。はなからこちらの様子をうかがっていたらしい。
「そうだよ、俺は全部で4回万引きした。さっさと通報しろよ」
開き直って女店員を睨みつける。
「通報? 確かに被害届は出すけど、その前に親御さんに連絡して事情を説明するのが先かな」
「親に電話したって無駄だ。父はいない。母は仕事で来ない」
「仕事でって……だから電話するんだよ。子供が万引きなんてしたら大抵の親は飛んでくるでしょ」
僕は鼻で笑う。
「呼べるもんなら呼んでみろよ。残念ながらうちはその大抵の親には入らないね。世の中には子供がどうこうだなんて、仕事を抜ける理由にならない親だっていんだよ」
女店員は少し目を見開いて僕を見るが、何も言わない。
「だから、早く通報しろよ」
怒鳴り気味に言って、そのまま睨みつける。早く、僕をこの生活から解放してくれ。
「少年、親は家に帰ってくるの。食事は、学校は?」
女店員の暗い声が僕に尋ねる。
「知るか。帰ってきてるとしても僕が寝ている間だ。金だけ置いてある、学校は行ってない」
やけになって言う。女の表情は真顔のまま変わらない。何かを考え込むような少しの沈黙の後、おもむろに口を開いた。
「……あと30分で私のシフトが終わる。それまで待ってろ」
「は? なんでそうなるんだ「いいから。どーせコンビニとかで食べるもの買ってるんだろ。晩ごはん、食わせてやる」
訳が分からない。俺は誘拐されようとしている? それとも同情のつもりか? しかし俺の犯行を証言できるのはこの女店員しかいない。警察に言うまでは逃してはならないのも確かだ。
こうして、思いがけず俺は女店員の家についていくことになった。少しだけ、非日常的な、何かが変わる予感がしていた。

「ここ。入ってどうぞ」
女の家は僕の家とは反対方向に15分ほど歩いたところにある三階建てのアパートだった。ボロい、とまではいかないがお世辞にも綺麗とは言えない外見だった。女は、2階へ上る階段のふもとのドアにカギを差してドアを開ける。表札には「倉持」と書いてあった。
女について部屋に入ると細い廊下の両脇にドアが2つあった。廊下を進むと少し開けた空間になり、中央に背の低い楕円形のミニテーブルが置いてある。左にはシンクと一つのガスコンロ、それに小さな冷蔵庫が、右には大きめの木製の机があり、何やらたくさんの紙が散乱している。この広さからするに、1人暮らしをしているのだろう。
物珍しそうに室内を物色していると、シンクで手を洗っていた女が
「何突っ立ってんの。てきとーに座ってて」
と言うので、ミニテーブルの下に敷いてあるマットの上に座る。
この女は俺をどうしようとしているのか、何を企んでいるのか全く見当もつかない。あんなやる気のなさそうなバイトの態度だったんだ、ガキの万引きなんてとっとと警察に引き渡して終わりにすると思っていたのに。どうしてわざわざ面倒ごとに首を突っ込むんだ。
手持ち無沙汰でまた部屋の観察を始めると、床に机から落ちたらしき紙が落ちていた。それを手に取ってみると、長方形や台形で区切られた囲いの中に、鉛筆で雑な少年や街並みの絵が描いてあった。漫画の下書きだった。
「あ、それ机の上に置いといて」
何かを電子レンジで温めていた女が振り向いて、紙を手に持っていた僕を見る。
「何、これ。あんた、漫画書いてんの?」
尋ねると、
「そう。全く売れてないけどね。まだまだこれからさ」
答えながら、テーブルに2人分の箸を置く。間も無く、電子レンジが音を立てる。女が取り出して僕の前に置いたのは丸い卵焼きにあんかけがかかっている料理だった。グリンピースが中央に2つ、たぶん転がり落ちた1つがお皿の端にある。
「はい、どうぞ。熱いうちが美味いから、食べな」
女はもう1つが温まるのをレンジの前で待っていて、こちらに背を向けている。女の背を見ながら、僕は少し考える。明らかに怪しいこの状況で、出されたものに何も危険が無いなんて誰が思うだろうか。しかし、計画的に僕に危害を加えようとする理由も見当たらない。何か聞いても、まともな返事が返ってくるとも思えない。そもそも毒か何かを入れていたとしても正直に言う筈も無い。僕の思考はあれこれ考えているうちに混乱してきたし、何より目の前にある料理の香りが、食べないという選択肢をすでに排除している。
「……いただきます」
僕は考えることを放棄した。見たことのない食べ物をつつく。見た目通り、恐らく卵焼きのようなものだろう。切ってみると、下にはご飯があった。しばらくカップラーメンしか食べていなかった僕は久々の白米に少し気分が上がった。明らかに箸で食べるものではないと思ったが、器を口に近づけて食べる。
「どうだ、美味いだろ」
自分の器を持って女がミニテーブルの向かいに座り、箸を手に取るが少し動きが止まった。箸を置き立ち上がってシンク下の引き出しを開けて金属製のスプーンを2本取り出して戻ってきて、1本を僕に渡す。やはり、箸で食べるものではなかったらしい。
誰かと向かい合ってご飯を食べる。何年振りだろうか。久しぶりに美味しいと思いながら食事をした。温かく柔らかな食感を味わっていると、今と同じように母と向かい合ってオムライスを食べた時の記憶が脳裏に浮かんだ。母はとても料理が上手で、僕は母の作るオムライスが大好きだった。ふと、目の前のこの卵料理が少しオムライスのように見えた。だから記憶の中のオムライスが蘇ったのかもしれない。オムライスに似たそれは、天津飯という名前だった。女はとある中華屋でもバイトをしているらしく、そのまかないで持って帰ってきていたらしい。売れ筋が悪いから、しょっちゅう持ち帰る羽目になる、そろそろ飽きた、と女は呟いていた。確かに何度も食べるには飽きそうな味付けだと思った。
かに玉は生粋の中華料理だけど、天津飯は日本発祥、なんて役に立たなそうな話をしているうちに食べ終わってしまった。女は結局何のために俺をここに連れてきたんだ。ただ単純にご飯を与えるために招いたとは思えない。
「さて、少年。少し話をしようか」
最後の一口を食べ終えた後に、女が口を開いた。ほら、やっぱりなにか企んでいそうだ。
「なに、そんな警戒した目で見るなよ。ちょっとした提案があるんだ」
猜疑心が表情に出ていたようで、それを読み取った女がおどけて笑う。僕が目を逸らし黙りこくっていると、女は続ける。
「万引き犯の君はずいぶん警察にこだわっていたね。普通、万引きが見つかった少年たちは見逃してくれるよう乞うものなのに、君は正反対の反応をした。おかしいなと思ったんだ」
女はまるで事件を推理する探偵のように喋る。僕の心を見透かすように、ぺらぺらと喋る。
「そして、君の家庭環境。単刀直入に言えば、君は母親から育児放棄をされている。それもずいぶんと長い期間のようだね。愛情や家庭の暖かさを忘れ、前のような生活に戻ることはもう諦めてしまっているように見えた」
冷や汗が背中を伝う。別に誰にも隠しているわけではないけど、面と向かって言われるのはどうしてか心が痛む。
「だからもう元に戻ることを諦めた君は、もう一段階、家族というものごとさらに諦めることにした。しかし、息子が万引きをしても、何をしても歯牙にもかけない母親から解放されるためには、他の大人の力が必要だ。しかし母親以外に身寄りのない君は、誰にも見つけてもらえない場所にいた。だから、君は自ら見つかりにいったんだろう。万引きという、犯罪を犯してまで」
全て、お見通しだった。僕は、僕を見つけてもらうために法の掟を破ることしか思いつけなかった。
「君の、私に通報をせがむ目には固い信念と、寂しさが混じった諦観が見えたんだ」
寂しい? 僕は寂しかったのか? 誰にも必要とされていないことはとっくに分かっていたが、誰かに必要とされたいとも思っていなかった。でもそれは、全て諦めによって隠されていただけなのだろうか。
「そして、そんな少年を見た私は、放っておけなかった。何も知らない女にこんなこと言われても、そりゃ疑われるのは分かっていた。それでも君は、何かに期待してついてきた。そうだろう? だから私はきっと君を、警察に捕まるよりはましな形で救えるんじゃないかと思っている」
女に僕の決意を知られたところで、何が変わるというのか。何の根拠もない女の語りに、期待できる要素など何もない。はずなのに。僕はもう、このまま今まで通りの生活に戻る気はなかった。
「そこで提案だ、少年。ここで、私の書く漫画のアシスタントになってくれないか? 別に、拘束するつもりもない。好きな時にこの部屋に出入りして、たまに私の作業を手伝う。それだけだ。少しだけど、ネットで連載している漫画が最近人気でね。君の食事や日常にかかるお金も出せないこともない。どうだろう」
それは、全く想像もしていない提案だった。想像もしていなかったし、別に素晴らしく現状が打開される提案でもなかった。ただ僕は、先程から感じている何かが変わる予感を無視できる気はしない。しかも、誰かに必要とされている。その喜びで頭が麻痺している。アシスタントなんて、僕の技量に期待されていないことも分かっているけど。そもそも女も漫画のアシスタントなんてただの建前にしか思っていないだろうけど。
悩む素振りはするものの、自分がこの提案を拒否するつもりがないことを知っていた。胸にあるのは、何も変わらなかった退屈で暗い日々に、新しい光が差し込む予感。
当初思い描いていたのとは全く違うものではあるが、どうやら僕の決意は無駄にならなかったらしい。少しはこの先の生活を楽しめそうだ。僕は誰も知らない未来に期待をしてみることにした。