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渋谷と地域と私をつなぐ、東急不動産等のDAOプロジェクト「Local web3 Lab.@渋谷」(コラム)

東急不動産ホールディングスはMeTownとUnyte(ユナイト)との共同で、渋谷を起点に地域課題解決を目指す実証実験「Local web3 Lab.@渋谷」に取り組んでいます。その第一弾である「おさかなだお長崎」は2024年2月に、「長崎のうまいサカナの未来をつくる」をテーマにしたDAOプロジェクトとしてスタートしました。

Local web3 Lab.@渋谷を通じて東急不動産ホールディングスが目指す価値創造についてグループCX・イノベーション推進部の岸野麻衣子さんに、また、2024年4月に施行された金融商品取引法の内閣府令改正も踏まえ、DAOの可能性についてUnyte代表取締役の上泉雄暉さんに、それぞれ話を聞きました。


Web3技術で「人とのつながりを可視化」

――東急不動産ホールディングスがWeb3技術を活用して実証実験プロジェクトを構想したきっかけは何だったのでしょうか。

岸野:東急不動産グループは新しい技術、新しい取り組みを通じてどのように価値創造をし、イノベーションを起こしていくかということに挑戦しており、私たちのグループCX・イノベーション推進部はその流れを加速させる役割を担っています。Web3自体がどのような技術なのかというよりも、Web3技術を活用することでお客さまに新しい関係性や新しい価値を提供できるのではないか、という観点から様々な事例を見て学び、イメージを膨らませてきました。グループ内では2022年から国内初のスキーNFT「ニセコパウダートークン」の実証実験を開始しており、プロジェクトが新しいお客さまとの接点となり、価値創造にもつながっていると実感しています。

スキーNFT「ニセコパウダートークン」では北海道のスキー場「ニセコ東急グラン・ヒラフ」で初滑りできる権利をNFT化するとともに、近隣バーやコンドミニアムなどをRWA化しています

――今回のLocal web3 Lab.@渋谷では、どのような価値創造やイノベーションを思い描いていますか。

岸野:ニセコパウダートークンの実証実験からさらに一歩踏み込んで、「人とのつながりを可視化」することもできればと考え、その手段としてDAOを選びました。「人とのつながり」については、“場”を作る不動産事業として以前から取り組んでいることではあります。商業施設であれば、お店で買い物をして終わりではなく、イベントや祭りを開催したり、オフィスビルであってもそのビルで働く方々がコミュニケーションを図れるような企画をしたりなど、施設を起点に地域の人も集うコミュニケーションの場を作ってきました。そんな「人とのつながり」をWeb3によって可視化できた場合に、どんな価値創造ができるのか、東急不動産グループがまちづくりに力を入れている渋谷を起点にして挑戦したいというのが背景にありました。

――「人とのつながりを可視化」とのことですが、Local web3 Lab.@渋谷ではどのようなターゲットユーザーを定めていたのでしょうか。

岸野:Web3なので匿名で参加できるのが特徴です。そのため明確なデモグラフィック属性は定めていませんが、志向としてWeb3に詳しい人というよりは、新しいことに興味があり、新しいことに関わっていきたい、自分がやっていることを発信していきたいと思っている人などが多いのではないかと見立てていました。プロジェクト名に「渋谷」と入れたのも、「渋谷ってなんだか面白そう」と感じてくださる日本中の人に興味を持っていただきやすいのではという想いがあり、参加メンバーが日本の様々な地域と渋谷を起点につながるきっかけになればと考えました。

DAOの良さとして資金調達の可能性も

――渋谷を拠点にして地域とつながるプロジェクトとして、DAOを選んだのはどういう理由からでしょうか。

岸野:議論の中で「Web2の技術でもできるのではないか?」という意見もありました。ただ、スタート地点から誰もがフラットな関係性で、議論の透明性を担保できるという環境は、現実世界ではなかなか難しいものです。「こういう活動をするとこういうものがもらえます」などと明確に示すことは、メンバーの行動様式にも影響を与えるでしょうし、それがDAOのようなWeb3技術の特長だと考えています。

――DAOのプラットフォーマーであるUnyteから見て、DAOの良さとはどんなところだと考えていますか。

上泉:大きく分けて、ブロックチェーンの特性によるところとDAOの特性によるところの二つがあると考えています。前者は、自分がどのような活動をしてきて周りからどのように評価されてきたのかなど、活動の履歴を定量的かつ改ざんされない形で残せるところです。それは将来的に別の組織に入る時など、経歴を証明したい場面において意味を持っていくでしょう。後者は、自分がやりたいことに挑戦できる、自律性と分散性を兼ね備えた組織を作ることができるという点です。意欲がある人が自ら手を挙げ、周りを巻き込んで実現していくことが公的に許可されるコミュニティがDAOの良さだと思っています。

加えて、2024年4月には金融商品取引法の府令改正が施行され、いわゆる「合同会社型DAO」が作れるようになりました。具体的には、DAOで銀行口座が開設できるようになり、DAOのメンバー(社員)に対するトークン発行のハードルが大幅に緩和され、収益分配ができるようになります。施行されたばかりなのでこれからの取り組みではありますが、DAOで資金調達が可能になれば価値創造の幅も広がっていくかと思われます。

Unyteには、チャットや投票、タスクの管理、トークン付与といったDAO運営に必要な機能が一つのツールの中に収まっています

――基本ツールであるDAO統合プラットフォーム「Unyte」ではどんな技術が使われているのでしょうか。

上泉:会員権だけではなく、意思決定のためのガバナンス投票やタスク遂行など貢献に応じたインセンティブとしてNFTを活用していますが、NFT発行にかかるガス代はUnyteが負担しています。その意味でも、ガス代を抑えられるブロックチェーンであることは大事であり、かつ、プロジェクトの汎用性を考え、Polygon(ポリゴン)チェーンを使っています。NFTの保管に必要な暗号資産ウォレットは独自に開発し、メールアドレスやSNSアカウントでログインする際に自動で作成できるようにしました。全体的に、Web3になじみがないユーザーにとっても使いやすいデザインを意識しています。

「地方創生」で集った仲間と価値創造に挑む

――Local web3 Lab.@渋谷で協業する東急不動産ホールディングス、MeTown、Unyteの各社はこれまでどのような役割を担ってきたのでしょうか。

岸野:東急不動産ホールディングスは地方創生というテーマと実証実験をDAOで進めたいという枠組みを提案し、声がけをしました。どんなツールを使うか、トークンをどう設定するか、どのぐらいの稼働が必要かなど具体的な手段についてはMeTownから提案をいただきました。Unyteからはツールの提供だけではなく、ミッション設定のポイントやコミュニケーションが深まるヒントなど、コミュニティ活性化に向けてサポートいただいています。

おさかなだお長崎のプロジェクト会員証NFTは三つの案から最も票を集めた案に決定。投票プロセスはブロックチェーン上に刻まれています

――2024年2月にスタートした第一弾の「おさかなだお長崎」では具体的にどんなことに取り組んでいるのでしょうか。

岸野:メンバーがオンライン・オフラインで集い、会員証NFTの図柄投票を行うことが最初の取り組みでした。メンバー自身がどれだけプロジェクトに参加できるのか、参加したいのか、どんなことを担っていきたいのかなどアンケートをした上で、どうやって長崎の価値創造をしていくかを議論し、様々な取り組みを実施していきます。コミュニケーションはDiscordがメインですが、メンバーから「顔を合わせて話ができる場も欲しい」という声もあり、渋谷のコミュニティースペース「shibuya-san(シブヤサン)」も提供しています。また、実際に長崎を訪れて魅力を体感し、現地の方とディスカッションする視察ツアーがDAOメンバーにより計画されています。

――どんな人たちがおさかなだお長崎に参加しているのでしょうか。

岸野:すでにWeb3技術を使いこなしている人は2~3割で、大半は地方創生への興味から参加を決めてくださった方たちです。長崎出身者も一定数おり、出身者ではないものの長崎を旅行した際に地元の人にお世話になったことへの恩返しがしたいという想いからプロジェクトに参加した人もいます。当初、メンバーは100人程度の限定にしようとしましたが、それよりも多くの応募があり、かつ、メンバー内で投票して追加募集を決め、2024年4月現在は約130人が参加しています。

――おさかなだお長崎の開始から3カ月経った今、これからどんなことに取り組んでいきたいと考えていますか。

岸野:積極的に関わってくれるメンバーがある程度定着してきたところですし、次のステップとしてもう少し掘り下げ、魚の魅力や長崎の課題を深く理解し、「自分がどんなことを実現していきたいのか」を具体化していくためのワークショップを予定しています。それを長崎のメンバーに提案し、形にしていくことで長崎の価値創造を推進していきたいと考えています。そこまでの流れが、地方創生とDAOは価値創造のかけ算になるのか、という実証実験の一つの結果になると思います。また、おさかなだお長崎はまず1年間の運営を見据え、MeTownのメンバーがコミュニティマネージャーを務めています。今後、自走できる組織にしていくためにも、コミュニティマネージャーとなってくれるメンバーを育てていくことも大事になっていきます。

おさかなだお長崎のスタートとして、2024年2月に渋谷でオンボーディングを開催し、オンラインで長崎の漁業関係者も参加しました

――東急不動産ホールディングスとして今後、Local web3 Lab.@渋谷を通じてどんなことに取り組んでいきたいと考えていますか。

岸野:まずはおさかなだお長崎で長崎の価値創造に貢献することが第一ですが、その後も別の地域との取り組みもできればと考えています。将来的には東急不動産グループの施設がある地域でも実施し、施設とかけ合わせたさらなる価値提供ができればと構想しています。ただ実証実験としては、これまで十分な関係性が築かれていなかった地域で実施した際にどんな形になっていくのか、というのがDAOで事業を進める効果の検証になるでしょうし、様々な可能性を考えていけたらと思っています。


取材協力:東急不動産ホールディングス株式会社

東急不動産ホールディングスグループは、価値を創造し続ける企業グループとして、ハコやモノの枠を超えて、ライフスタイルを創造・提案しています。グループCX・イノベーション推進部ではデジタルマーケティング等を含むカスタマーエンゲージメントの強化や、社内外の連携・共創の推進を担っており、「Local web3 Lab.@渋谷」などWeb3技術を活用した実証実験などにも取り組んでいます。

取材協力:株式会社Unyte

DAO構築・運用のための統合プラットフォームUnyte(ユナイト)を運営しています。投票/タスク管理/メッセージ等DAO運営に必要な機能が1ツールに集約されています。これまで国内外で70を超えるDAOにツールを導入してきた実績、およびDAOにおける最適なインセンティブ設計の構築を支援してきた経験から、DAOの構築・運用における最適なサポートが可能です。

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