見出し画像

Uber eats配達員の小噺。(第三回)

配達先の玄関から天使が降臨し、疲れが吹っ飛んだ小噺。

 まだ配達員初心者の頃。おむすびカフェというお店のおむすびを、六本木のタワマンへ届けるという配達の話。

 その日はすでに10回以上配達していて、僕はヘトヘトでした。「今日はこの配達で最後にしよう」と決めていました。

 坂の上り下りを繰り返し、やっとの思いで配達先のタワマンにたどり着きました。疲れていた僕は、「こんなでけぇマンションに住みやがって~」とちょいとイライラしながらエレベーターを昇っていきました

 玄関前に到着し、インターホンを押下。バッグからおむすびが入った袋を取り出し、お客様が出てくるのを待っていました。

 がちゃ、っと控えめな力で玄関が開きました。しかしそこには誰もいません。ふと下に目を向けると...

 もこもこのパジャマを着た小さな女の子が、「こんばんは!」と元気な声で出迎えてくれました。

 天使と見間違えました。疲れた体にこんなに沁みるものがビール以外にあったのか...。

 しかも部屋の奥から「ご苦労様です!」という元気なお母さんらしき声。

 僕は天使と目線を合わせるようにしゃがみ、その小さな手に食べ物の袋を持たせ、「お待たせしました。ご注文ありがとうございました!」と奥のお母さんにも聞こえるように返事をし、そのマンションを後にしました。


ーー終ーー

何か秀でた能力があるわけでもなく、友達が多いわけでもない。1日誰とも話さない日もザラにある。引きこもり文系大学生の心に秘めた思いをツラツラと。