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じぶんよみ源氏物語34 ~時の過ぎゆくままに~

幼馴染の恋は美しい

前回に引き続いて
源氏物語、二十一帖「少女」の巻から。
真面目な男・夕霧ゆうぎりのお話です。

父・光源氏の教育方針で
学問の道に進んだ夕霧でしたが、
その陰で、幼馴染との恋に落ちていました。

お相手は雲居雁くもいのかり
内大臣の娘です。

内大臣といえば、かつての頭中将とうのちゅうじょう
若かりし頃、光源氏たちと「雨夜の品定め」で
女性談義を繰り広げたやんちゃな貴族です。

内大臣は、光源氏の亡き妻・葵の上の弟で
夕霧にとっては叔父にあたります。
光源氏とは良きライバルでありながら
良き親友でもあります。

源氏が須磨に流離した時には、
世間の批判も恐れずに
はるばるお見舞いに行った姿は感動的でした。

あれから時が経ち、
光源氏は太政大臣に、
頭中将は内大臣にそれぞれ昇進し、
2人の距離感も微妙に変化しています。


大人の事情

内大臣は、娘の弘徽殿女御こきでんのにょうごを冷泉帝の妻にしましたが、「絵合えあわせ」の攻防で、光源氏が世話をする
梅壺女御(六条御息所の娘)が優位に立ち、
帝の寵愛を明け渡すことになりました。

内大臣にとって、
光源氏には政敵の雰囲気が漂い始めます。
男のやっかみというやつですね。

それゆえ、
次の娘である雲居雁を仕立て上げ、
皇太子妃の座を狙うことに注力します。

天皇のおじいちゃんになって
権力を得ようという戦略。
平安貴族たちにとっては憧れのやり方です。

ところが、頼みの雲居雁が、
あろうことか光源氏の息子と恋に落ちている。
しかも夕霧はまだ身分も低く、博士の立場。
全く本望ではありません。

内大臣は、母・大宮に恨み言を言います。
大宮は雲居雁の教育を担当していました。

もうちょっと、俺に忖度そんたくして、
雲居雁をちゃんとしつけといてよ!

今になってそんなことを言われても、
大宮だって困ります。

幼馴染の恋はそもそも微笑ましいし、
2人がそんな親密になっているなんて、
知るよしもなかったのですよ!


被害に遭うのはいつも当事者

大人たちの事情で恋を止められた
雲居雁と夕霧は、苦境に立たされます。

(雲居雁)
雲居の雁もわがごとや

(訳)
古い和歌で詠まれる「雲居の雁」も
私のことだわ

「雲居」とは遠くかけ離れた場所。
「雁」は切ない鳴き声の渡り鳥。

このセリフから
彼女は「雲居雁」と呼ばれるわけですが、
このネーミング自体が、
切ない恋を物語っています。


光源氏の遺伝?

夕霧は、他の恋に想いを転嫁させます。
目に留まったのは、
宮中の「五節ごせちの儀」という行事で
可憐に舞う少女でした。
光源氏の侍従として圧倒的な信頼を誇る
惟光これみつの娘です。

儀式の忙しさに紛れて、
普段は近寄ることのない
紫の上のいる部屋の方に足を運びます。

そこには美しい舞姫の姿がありました。

かりそめのしつらひなるに、
やをら寄りてのぞきたまへば、
悩ましげにて添ひ臥したり。

(訳)
儀式なので、仮の控室が作ってあり、
そっと近づいて中を覗いたところ、
舞姫は疲れた様子で寄りかかっている。

源氏物語での「出会い」のパターンである
垣間見ですね。
父・光源氏が、北山の寺で
幼い紫の上を見出したのと同じです。

そういえば、
藤壺を失った悲しみを
朝顔の姫君への恋心に向けたのも、
光源氏でした。

真面目な男・夕霧も、
やはり深いところで
父の行動パターンを再現します。

幼馴染の美しい恋と、
舞姫の可憐な姿。

父から子の世代へ、
時の流れのままに
物語は移ろいゆきます。



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