見出し画像

じぶんよみ源氏物語 23 ~必ず最後に愛は勝つ~

プラス思考はエネルギー

目標を設定して、
そこに向かって積極的に行動することは、
理想の生き方だとわかっています。

同時にそれは、
心のトレーニングがいるからこそ、
理想的なのだということも、
経験上、よくわかっています。

現時点での自分自身と目標との間には、
「世の中」という現実社会が横たわっています。
人は他人と関わって生きていく以上、
自分ひとりの力だけで目標を具現化することは、
とても難しい。

「世の中」の方々が、
自分の理解者ばかりならいいですが、
それはそれで面白くないですし。

高校生の時、
人はなぜこんなにも自分に無関心なのだろう
と考えたことがあります。

親友は涼しい顔をして、こう答えました。

人は基本的に、
他人に対して優しくありたいと思っている。
ところが多くの人が、自分のことで精一杯で、
他人を思いやるだけのゆとりがないのだと。

親友の言葉は、今でも心に残っています。

他人に優しくするだけのゆとりがないことが
世の中のリアルなら、
自分の目標を実現するためには、
他人と協力しながらも、
他人に依存するわけにもいかない。

プラス思考とは、
自分ひとりで目標を成し遂げるための、
道標みちしるべでありエネルギーでもあります。

それは、見えないものを信じる力。
世の中に振り回されることなく、
将来という不確実な世界を形として描く力。


みおつくし?

源氏物語のお話です。
今回は第14帖「|澪標《みおつくし」巻です。
「澪標」とは川や海に立てた木製の杭のことで、
船に水路を知らせるもの。

流れの中における目標となるものですが、
和歌では「身を尽くし」の掛詞にもなる、
どこか不思議な言葉です。

流離の生活を経験した光源氏が、
困難の中で復活の瞬間を思い描いたのは
想像に難くないですが、
実際のところ、
彼が強運だったことは言うまでもありません。

とはいえ、
何もせずに運だけに守られていたかというと、
そうでもなさそうです。

光源氏は神の導きを信じていました。
それから、星の占いも信じていました。
信じる力。


信念が開花する時は世の中も動く

都に帰り再び政治の舞台に戻った光源氏。
まず念頭にあったのは、
須磨の流離中に枕元に現れた、
父・桐壺帝の夢でした。

光源氏は、
成仏できずに冥界で苦しむ父の姿を悟り、
法華八講ほけはっこうという供養を執り行います。

本来なら朱雀帝が主催するべきところですが、
人々は光源氏の復帰に歓迎するのです。

世の人なびき仕うまつること、昔のやうなり

(訳)
世の人々が光源氏になびいてお仕えする様子は、
昔と変わらない。

人々が、朱雀帝ではなく光源氏になびいたことを
はっきりと示した瞬間でした。

おまけに、
最大の政敵だった弘徽殿大后こきでんのおおきさきさえもが、
以前と違う雰囲気を出すのです。
病気を患っていた彼女は、
桐壺院の遺言が頭の中にありました。

はべりつる世に変わらず、大小のことを隔てず、
何ごとも御後見うしろみと思せ。

(訳)
私の在位中と同じように、心を隔てず、
何事においても光源氏を相談相手と思いなさい。

弘徽殿大后は、
感情的には不本意を抱えながらも、
この遺言に従うことで報いの恐れが和らぎ、
さわやかな心持ちにさえなっていました。

このような中、満を持して、
光源氏と藤壺の不義の皇子である
冷泉帝れいぜいていが即位します。
光源氏は内大臣というポジションに上がり、
帝の後見に当たります。
徐々にパワーアップしていくのです。


星に願いを

ほどなくして、
明石から嬉しい知らせが届きます。
姫君が誕生しました。

かつて桐壺院は、光源氏の将来について、
宿曜道すくようどうの名人に判断を仰いだことがありました。

御子三人、
帝、后、必ず並びて生まれたまふべし。
中の劣りは、太政大臣おほきおとどにて位を極むべし

(訳)
光源氏の子は三人。
帝と皇后が必ず揃ってお生まれになるでしょう。
その中の低位の方は太政大臣として、
官位を極めるでしょう。

宿曜道とは、
星座の位置と星の運行によって、
人の運勢を判断する占星術。

父から聞いた占いを信じていた光源氏は、
この姫君は将来皇后になると判断し、
乳母を明石に派遣するなど、
最大の対応をします。

そうなれば、
ゆくゆくはあの明石の君を
皇后の母として都に呼ぶことになる。
密かにそう思い描くのです。

(光源氏)
海松や時ぞともなきかげにゐて
何のあやめもいかにわくらむ

(訳)
岩陰に隠れている海松のように
海辺で暮らす姫君は、
今日のあやめの節句に、
日常とは違う盛大な祝いができているだろうか。


(明石の君)
数ならぬみ島がくれに鳴くたづ
今日もいかにととふ人ぞなき

(訳)
島の陰で鳴く鶴のように
人数にも入らない私の陰で守られる姫君を
元気にしてるかなと、
尋ねてくれる人もおりません。


真っ白な世界に、黒点ひとつ

都に戻った光源氏は、
あらゆることがうまくいったかに見えますが、
そもそも世の中に完璧なものは存在しない。

白い世界の中にも黒点は一つあるし、
黒い世界の中にも白点が一つあるのです。

明石の君を都の自邸に招き入れることは、
すなわち、紫の上とどう関わるかという
新たな課題の発生でもありました。

(紫の上)
我はまたなくこそ悲しきと思ひ嘆きしか、
すさびにても心を分けたまひけむよ

(訳)
あなたが都を離れていた間、
私は都であなたを思いながら、
またとなく悲しい日々を嘆いていたのに、
あなたは一時の気まぐれで他の女性に
情けをかけていたのですね

光源氏と紫の上には子供がいませんでした。
紫の上の心はその分、不安定でした。

ところが、
この黒一点の課題でさえも、
やがてかけがえのない人間ドラマとして
昇華されていくのです。

これも、信じる力でしょうか。
それとも、亡き父の魂か。
はたまた、星の力か。

光源氏の光は、
世の人々が不可能と思うことを可能にする、
そんなミラクルを表す「光」かもしれません。

その光は、
何も光源氏だけに与えられた
特別なものではなく
時空を超えて、
全ての人の心の中に輝いているものだと
私は思っています。

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?