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少しの秘密や傷さえ愛おしくて

「聞いて欲しいことがあるんだ。」
昨日の夜、突然彼が呟いた。そして訥々と過去のことを語ってくれた。

前は、俺はずっと一人で生きていくんだって思ってた。
やりたいことも無い、人も好きになれない。
将来に希望が持てなかった。
どこで死んだっていいやって投げやりになってたんだ。

それから、縁もゆかりも無い土地に住み込みで就職した。
車も無くて、休みの日は遠出はできなかったから、毎週末図書館に40分かけて自転車で行ってた。雨の日も行ってたなぁ。
あと近所に美味しいうどん屋さんがあってさ。
お金がなかったから500円の玉子丼をいつも食べてた。たまに、肉ごぼううどんを付けるのが唯一の贅沢で。

家は高速沿いにあったから、暇な時は橋の上からぼーっと車を眺めてた。
皆どこへ向かっていくんだろうって考えてた。
俺は、どこにも行けないなって勝手に比べながら。

胸が苦しくなった。思わず涙が出た。
橋の上、一人車を見つめていた彼を抱きしめてあげたい。
一人じゃないよ、私が居るよって。

「だから、今は𓏸𓏸ちゃんと出会えて信じられないぐらい幸せなんだ。」
と微笑む彼。

私も貴方と出会えてよかった。
これからもずっと側にいるからね。
美味しいものも沢山作るよ。
一緒にいろんな所へ行こう。
絶対に浮ついた心で裏切ったりなんかしない。

そんな想いを込め、ただ抱きしめた。
貴方の秘密や傷、全てが愛おしくて。

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