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「喉を開く」とはどういうことか?その意味と方法

ボイストレーニングをしていると、「喉を開いて」と言われることがある。同時に、「あくびのような喉」と言われることも多い。

この「喉を開く」ことはボイストレーニングの原則でも書いたように、非常に重要なことである。

しかし同時に、あまり理解されていない(簡単に理解されてしまっている)ことも多いように思う。そこで、このnoteでは喉を開くとはどういうことかについてまとめてみようと思う。

喉を開くとはどういうことか?

「喉を開く」……なんとなく分かるような分からないような言葉である。しかし、この喉を開くことについては実際に見ることができる。

手鏡を用意しよう。そして大きく「ア」の口で開いて、口の奥の方を見てみよう(ちょうどお医者さんに喉を見せるような感じだ)。口の奥が開いて見えるなら、それは喉が開いている状態である。反対に、隠れて見えないならば、喉が閉じている状態である。

あっけないほどシンプルなことだが、発声においてこれは非常に重要なことである。

なぜ喉を開くのか?

なぜ発声において喉を開くのかというと、そこにはいくつかの利点があるからだ。

まずひとつに、喉を開くと声量が上がる。喉は声の通り道だから、そこが開いていれば声はダイレクトに外に出すことができる。反対に、そこが閉じているということは声を塞いでいることであり、メガホンを反対に使っているようなものだ。

また、声がダイレクトに外に出ることは、聞いている人の心に響くことにも関係している。喉が閉じた声は声量が下がるだけではなく、なんだか響かない声になってしまう。だから、例え小さな口や小さな声で歌うときであっても、喉(口の奥)は常に開いている必要がある。繰り返しになるが、喉を開くことは本当に重要である。

次の利点として、声が安定するという点がある。喉が閉じた発声では声帯をピンと張ることができず、力を込めすぎてしまったり、反対に緩めすぎてしまったりしやすい。これは地声からミックスボイスに行くときの裏返りとも関係している。だから喉を開くことは安定した高音を手に入れるためにも重要なことである。

最後に、安全に練習できるという利点も大きい。ひとりでボイストレーニングをしているときに起こりやすい危険は、喉に詰めてしまうことである(張り上げもそのひとつ)。しかし、喉を開いて練習していれば、このような危険を避けることができる。これはなにげに大きな利点だと思う。

どうしたら喉は開くのか?

では、どうしたら喉は開くのだろうか?これには色々な方法があるが、ここでは僕が考えるもっともシンプルな方法を書いておこうと思う。

まずはよく言われているように、「あくびのような喉」をしてみよう。あくびのような喉をすると、たしかに喉は開く。

とはいえ、あくびは極端な例なので、このまま発声に使うことはできない。実際の使い方としては、あくびをしたときの喉の広さを覚えておいて、その広さを保ったまま声を出すという使い方になる。

ただし、あくびは喉を縦に開くのには有効だが、喉を横に開くことにはあまり有効ではない。

喉を横に開く感覚をつかむためには、「はっはっはっ」と笑うことがヒントになる。うるさいくらい「はっはっはっ」と笑ってみて(遠慮のある笑い声では効果がないので、カラオケボックスなどで練習しよう)、そのときの喉の開きを覚えていて、その広さを保ったまま声を出すといいだろう。

(これは余談だが、あくびにしても笑い声にしても、人間が自然に行う行為はボイストレーニングのヒントになる。なぜなら、ボイストレーニングの原則でも書いたように、ボイストレーニングをすることは「意図的に自然なことを起こすこと」だからである。)

そしてもうひとつ。喉を開くためには「舌を平らにすること」も重要になる。これは鏡を見れば一目瞭然だが、舌が上がっていると喉をふさいでしまう。だから舌を下げる必要がある。

とはいえ、力づくで下げるわけでもない。感覚としては、舌を「ベターッ」と下に置いておくような感じである。最初のうち、これはかなり不自然に感じるかもしれない。しかし、慣れれば当たり前にできるようになる。

ポイントをまとめよう。喉を開くとは、口の奥を縦にも横にも開くことである。同時に、舌を下げておくことも大事である。そしてこれは鏡で確認することができるから、ボイストレーニングをするときには毎回確認したほうがいい。油断するとすぐに喉を開いている「つもり」(実際には喉は閉じている)になるから、鏡で確認することはとても有効だ。

なお、喉を開く方法には他にも「割り箸を奥歯で噛んで発声する」といったものもある。ただこれはあくまでもちょっとしたコツにすぎないから、やってもやらなくてもいいと思う。重要なのは、本当に喉が開いているかを確認することである。そして、その感覚を筋肉に覚えさせることである。

喉を開くとは、喉頭を下げることではない

これは誤解されやすいことだが、喉を開くとは喉頭(喉ぼとけ)を下げることではない。

たしかに喉頭が下がっているほうが喉の広さを得ることはできる。だからはじめのうちは喉頭がある程度下がった状態で練習するほうがいいだろう(とはいえ、これも舌と同じで力づくで下げるわけではない)。

しかしその先では、喉頭(喉ぼとけ)が上がっていても喉(口の奥)は開いている状態を生み出せる必要がある。これは特にポップスを歌う時には必要なことでもある。

最初のうちは、喉頭の動きと喉の開きが連動してしまうことも多いだろう。しかし練習をしているうちに、ピアノの左右を弾き分けられるように、これらを切り分けられるようになる。

喉を開くことはスタートに過ぎない

喉を開く練習をすれば、喉を開くこと自体はそれほど難しくはない。しかし「喉の開き方はもう分かった!おしまい!」となるかというと、そんなことは全然ない。

むしろ、喉を開くことは練習のスタートにすぎない。

喉を開く感覚が分かったら、次は喉を開きながらアイウエオ全ての母音を発声できるようになる必要がある。具体的には、アと同じ喉(口の奥)の開きをできるだけキープしながら、他の母音を出せるようになる練習が必要である。

さらに、それらを低いところから高いところまで、様々な音程で出せるようになる必要もある。

これはとにかく練習量が必要なものである。そして「ここまでできたら完成」というものはなく、いつまでも練習が必要なものでもある。

しかし同時に、練習すればするほど自分の声が良くなっていくものでもある。だからたくさん練習しよう。そうすればあなたの声はより大きく、安定した、人に心に届く声になっていく。

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