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【字幕翻訳者あとがき】岡田壯平『ナイト・オブ・シャドー 魔法拳』/コミカルな展開の中に、それとはまったく違う珠玉の愛情物語が埋め込まれているすばらしい作品です

【字幕翻訳者あとがき】
映画やドラマの字幕を担当した翻訳者が、作品への想いを語ります。

『ナイト・オブ・シャドー 魔法拳』
【あらすじ】
妖怪の世界から人間を守っていたバリアが壊れ、たくさんの妖怪たちが押し寄せてきた。彼らを捕らえるため、凄腕の妖怪ハンターで小説家でもあるプウ(ジャッキー・チェン)が人間界に送り込まれる。プウは「陰陽の筆」の力を使い、邪悪な妖怪たちを地獄に封印するミッションを遂行。あるとき、村の少女たちが美しい二人の女妖怪によって次々と誘拐される事件が発生する。捜査に当たるプウ。そこへ正体不明の男チュイシャ(イーサン・ルアン)が現れ、女妖怪の一人シャオチン(エレイン・チョン)がかつては人間で、愛する者のために妖怪になったという哀しい過去を語る。難しい選択を迫られるプウ。シャオチンを捕らえるのか、それとも…
公式ホームページより)

【字幕翻訳者プロフィール】
岡田壯平(おかだ・そうへい)
1953年生まれ。上智大学文学部英文学科、早稲田大学理工学部建築学科卒。一級建築士の資格を取得し建築士となったのち、東北新社にアルバイトとして入社。翻訳者の木原たけし氏に師事し、3年後に字幕翻訳者として独立。映像テクノアカデミアで講師も務める。字幕翻訳を手がけた主な作品は、『レオン』、『ショーシャンクの空に』、『トラフィック』、『スイス・アーミー・マン』、『リング』、「ワイルド・スピード」シリーズ、『かけひきは、恋のはじまり』、『ケープタウン』、『サボタージュ』、『ドライヴ』、『フローズン・グラウンド』など。『酔拳2』、『デッドヒート』、『ファイナル・プロジェクト』、『ラッシュアワー』、『ポリス・ストーリー/REBORN』など、ジャッキー作品も多く担当。

この映画で主演のジャッキー・チェンは、妖怪退治の先生プウ・スンリンを演じています。彼には4人組の善玉妖怪の助手がいます。悪玉妖怪を見つけては、助手たちと一緒に退治していくのですが、その様子はとても楽しいコミカルなタッチで描かれています。そのほかの俳優さんたちの演技も、彼らがしゃべるセリフも、まさにコメディの王道をいっていると思います。そして予告編でもこのテイストがクローズアップされています。これはジャッキーが主演している映画では、ごく当たり前なことであり、この映画の狙いだと思います。

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妖怪ハンターのプウ・スンリン(ジャッキー・チェン)

ところが訳していて(中国語の英語訳から)、この映画にグイグイと引き込まれるまったく別な人間ドラマとの出会いがありました。私にとってはこっちの要素こそ、この映画の狙いだったんじゃないかとさえ思えてきます。ジャッキーたちが繰り広げる人間ドラマの中に、また別の鮮烈な人間ドラマが展開される二重構造の映画です。極端な言い方をするとジャッキーたちは脇役ではないかとさえ感じてしまうほどです。

私が感動したこの鮮やかな人間ドラマとは何か。それは若い二人の男女が織りなす「あまりにも美しく、あまりにも悲しい」ラブストーリーです。コミカルな映画の中に、ここまで鮮烈なラブストーリーが展開される映画には今までお目にかかったことがありません。ジャッキーが主演するいつもの楽しい映画を観にいったつもりが、若い二人の愛の物語に感動して涙してしまうなんて「見事に一杯食わされた!」という感じがします。

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蛇の妖怪ツァイチェンだったが
ある出来事によって人間になったイエン・チュイシャ(イーサン・ルアン)

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人間から妖怪に化身したシャオチン(エレイン・チョン)

この男女、ツァイチェン(別名チュイシャ)とシャオチンが登場してから、どんどん映画の中に引き込まれました。二人のセリフを訳す時は的確に心情を映し出そうとして、常に細心の注意を払って慎重に言葉を選びました。それだけ気持ちが、この二人に深く入ってしまったからです。

ある日、善良な蛇の妖怪であるツァイチェンが、美しい娘のシャオチンと出会います。影の中でしか生きられないツァイチェンは、明るい陽光を浴びられる人間に憧れます。優しいシャオチンは、彼を人間にするため自分の影を与え、代わりに妖怪の魂をもらって自分が蛇の妖怪になるのです。ここまでは良かったのですが、予期せぬ悲劇が彼女を襲い、善良な妖怪の魂が血で汚(けが)れてしまいます。ツァイチェンはその魂を取り戻してシャオチンを助けようとします。しかしシャオチンは汚れた魂をツァイチェンに返そうとしません。ここからが「あまりにも美しく、あまりにも悲しい」二人の物語の始まりです。これ以上詳しいストーリーはネタバレになるのでもちろん書けません。本編をぜひともご覧になって下さい。深く想いあう若い二人の、涙を禁じ得ない物語が展開されます。

最後にほんのちょっとだけ二人の会話をご紹介しておきます。ツァイチェンがシャオチンを助けるため、妖怪が恐れる地獄の門まで来た時に二人が交わす言葉です(実際の字幕。「現世に」は注釈として挿入)。

ツァイチェン:
俺の手をつかめ

シャオチン:

ここで終わりにしましょう
あなたと一緒なら(現世に)帰れなくてもいい

言葉はさらに続き、そして二人は…。

このシーンを、美しい映像と優しい歌声とともにご覧になって下さい。胸が締めつけられる思いになります。でもラストシーンでは、ジャッキーが醸し出す陽気で楽しいテイストが、まさにレクイエムのように悲しみを和らげてくれます。

この映画は、楽しいコミカルな展開の中に、それとはまったく違う珠玉の愛情物語が埋め込まれているすばらしい作品です。特に女性にお勧めです。ご覧になる時はハンカチをお忘れなく!

【作品情報】
映画:ナイト・オブ・シャドー 魔法拳
公開時期:2020年1月17日(金)より公開
配給:ハーク、SDP
原題:神探蒲松龄(英題:The Knight of Shadows: Between Yin and Yang)
監督:ヴァッシュ・ヤン
出演:ジャッキー・チェン、イーサン・ルアン、エレイン・チョン、リン・ボーホン、リン・ポン
©2019 iQiyi Pictures (Beijing) Co. Ltd. Beijing Sparkle Roll Media Corporation Golden Shore Films & Television Studio Co., Ltd. All Rights Reserved.

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vShareR SUBでは岡田壯平さんのインタビュー動画を公開中。全6編です。
(1)一問一答編
(2)きっかけ編
(3)名台詞ノート編
(4)ラブストーリー編
(5)字幕作法編
(6)これからの翻訳者へ編


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