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先行者利益だけのビジネスがうまくいかない理由と“手放す勇気”~戦力外Jリーガー社長の道のり12

ビジネスの世界での成功パターンの一つに先行者利益があります。先に始めること、行動することはとても大切ですが、先行者利益は必ず枯渇していきます。テクノロジーの進歩が目覚ましい現代ではそのサイクルが早まってきているように感じます。
先行者利益を得た企業はその利益ゆえに技術革新の際に埋もれていってしまうことが多い。先行者利益を得ることよりも、いかにそれを手放せるかの方が重要ではないか。今日はそんなお話です。

前回はこちら

それまでの固定観念を打破して新しいことを始める勇気

どんなビジネスでも、世の中にこれまでなかった商品やサービス、ビジネスモデルを開発することは重要です。

私がビジネスパーソンとして初めて手応えを得た、インターネットオークションを活用したリユース商品の売買もこれに当てはまります。

インターネットオークション自体の認知が急激に上がってきたタイミングで、「専門業者が商品を提供する」オークションがあれば、ユーザーはそこに業者ならではの信頼、安心感などの“違い”を見出します。

以前にもお話ししましたが当時は、「リユース商品は現場主義!」が当たり前だったので、ネットで、しかもオークションを使ってという同業他者はいないに等しかったのです。

成功するかどうか以前に誰もやったことのないことですから、初期投資を行うことは難しかったですが、Yahoo!オークションのプラットフォームを使わせてもらうことでこの点はクリアできたこともラッキーでした。

現物を査定して買い取り、これまた店頭で現物を確認して購入してもらうことが常識だったリユース業界は、商圏が近所、と多くても車で行ける距離に限られていました。

しかし、インターネットを介せば距離の制限がなくなります。
インターネットオークションへの参入は、競合他社が存在しない新たな市場をつくることで、一気にシェアを拡大して利益を得る、文字通り「先行者利益」を享受できたわけです。

先行者利益を分析してみると、いろいろうまくいった理由は見つけられるにしても、結局「先に始めた」「誰も思いつかないこと、思いついてもできなかったことをやった」という点につきます。

先行者利益はいつか必ず枯渇する

これはこれで難しいことですし、思い切って挑戦するマインドがなければできないことですが、冷静に考えてみれば「他より先に始めた」というだけです。

実際に、Yahoo!オークションを活用したリユース商品の販売は、あっという間にプレイヤーが増え、「当たり前」になってしまいました。

現在もYahoo!オークションに出品する業者さんはいるでしょうから、まったく商売にならないということはないと思いますが、先行者利益が失われてきたと感じたとき、間髪を入れずに私は自分が始めたYahoo!オークションを利用した出品をきっぱりやめました

成功体験にしがみつかない

参入業者が増えたことで落札価格が落ち込み、手間やコストのわりに利益ががなくなったというのが主な理由ですが、私はそれを細かく分析する前にすでに撤退を決めていました。

まだチャンスはある。一度成功したんだから改善すればまだまだ戦えるという判断もあるかもしれませんが、こういう岐路に立ったとき、これまでも私はほとんどの場合で“手放す”選択を選んできました。

一度成功した手法と同じやり方でまたうまくいく可能性はかなり低い。一度ネガティブな要因が出てきてしまうとそこから持ち直すことはできても、新たな成長につながる可能性はさらに低い。そして先行者利益はいつか必ずなくなる……。

Jリーガーという身分を手放すとき、これだけやったんだから、まだ若いんだから、狭き門をくぐってプロサッカー選手になれたんだからという声をたくさんかけてもらいました。しかし、あのときJリーガーである自分を手放していなければ今の自分はありません。

それからも成功体験にすがるより、新しい発想でチャレンジする方がうまくいくことを体験的に学んできたような気がします。

業界の常識にとらわれないという軸の上にある新しい発想

ネットオークションの活用の次に打った手は、BtoBのオークションでした。この頃はまだ自社でオークションを立ち上げておらず、自分たちで商品を買い取って、売るのは第三者のオークションに委ねるという方法。

2013年4月にはリユース事業者向けのラグジュアリーオークション「STAR BUYERS AUCTION」をスタートさせることになります。

グループで仕入れた時計、バッグ、ブランドジュエリーなどをtoB向けに卸すのが「STAR BUYERS AUCTION」のキモでした。質・量ともに常時安定したラグジュアリーアイテムを厳選してオークションにかけた私たちは、国内最大級の規模を誇るリアルオークションへと成長を遂げることになります。

その後も、海外事業者の参入、完全オンライン化とそれまでの業界の常識にとらわれない発展を続けてきた「STAR BUYERS AUCTION」は、最初期のYahoo!オークションを活用したビジネスをはじめ、さまざまなことを手放し、過去の成功体験にしがみつかず、まったく新しい発想で自分たちの事業を見つめ直した結果、発展を続けることができています。

手放したからこそ積み重なっていく“何か”がある。

せっかくうまくいっていたYahoo!オークションからの完全撤退を決めたときは、現在ほどの確信はなく、ほとんど嗅覚のような感覚で即撤退! の決断をしたような気がしますが、現在もビジネスの大きな決断、経営判断を下すときに一番大切にしているのは、固定観念や過去の成功体験にとらわれず、一度その概念や経験を手放し、まっさらな感覚で考えてみるということです。

さまざまなことを手放してきてわかったのは、どれだけ大きな成功、結果を手放したとしても、それは決して無にはならないということです。むしろ、成功や結果にしがみついてしまうと、それがマイナスに働いてしまう。手放したからこそ積み重なっていくものがある。今はそんな気がしています。

つづく

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