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頭韻がすごい歌詞――サカナクション「なんてったって春」
近年、邦楽において韻を踏んだ歌詞が増えたように思う。あくまで私個人の実感であるが、十年二十年前の曲に比べると、今の曲は歌詞の中に韻を踏んだ箇所があることが多いような気がする。
もっとも、その大半は脚韻で、頭韻を踏んだ歌詞というのはあまり見かけない。韻というのは、それを踏む箇所によって頭韻と脚韻の二つに分けることができ、語頭で韻を踏むのが前者、語末で韻を踏むのが後者なのであるが、一般的に韻というと後者を指すことが多く、実際上も後者の方がよく用いられているように思われる。
しかし、頭韻を踏んだ歌詞が全くないかと言われるとそんなことはなく、中には脚韻を踏んだ歌詞よりも優れていると思われるものもある。そうした歌詞の一つとして、私はサカナクションの「なんてったって春」という曲のとある歌詞を紹介したい。それは、次のようなものである。
南南西から鳴く風 なぜか流れた涙 なんてったって春だ
説明における便宜上、「南南西~風」を第1句、「なぜか~涙」を第2句、「なんて~春だ」を第3句と呼ぶことにして、以下説明を進める。
「南南西(なんなんせい)」「なぜか」「なんてったって」と、各句の冒頭部分が「な」の音で揃えられており、「な」で韻が踏まれている。これだけであれば、単に頭韻を踏んだだけの歌詞と思われるかもしれない。しかし、この歌詞が優れている所以は、単に各句の冒頭で韻が踏まれているだけでなく、各句の中においても頭韻が踏まれているということ、そして頭韻だけでなく脚韻も踏まれているということの2点にある。
まず、各句の冒頭だけでなく各句の中においても韻が踏まれているということについてであるが、これは第1句と第2句について言うことができる。
第1句は、「南南西から」と「鳴く風」の2つの部分に分けることができるが、いずれも「南(なん)」「鳴(な)く」と「な」の音から始まっており、「な」で韻が踏まれている。
また、第2句は「なぜか」「流(なが)れた」「涙(なみだ)」と3つの部分に分けられるが、このいずれも冒頭の音は「な」であり、「な」で押韻がなされている。
次に、頭韻だけでなく脚韻も踏まれているということについてであるが、この歌詞には2つの脚韻を見出すことができる。一つは第2句と第3句の末尾、もう一つは第2句の先ほど3つに分けた各部分の末尾である。
まず、前者についてであるが、第2句の句末は「涙(なみだ)」、第3句のそれは「春だ」となっており、「だ」で韻が踏まれている。
また、後者についてであるが、第2句の各部分はそれぞれ「なぜか」「流れた」「涙(なみだ)」といずれも「あ」の音で終わっており、「あ」の音で押韻がなされている。先述した通り、第2句の各部分は「な」で頭韻が踏まれている。つまり、第2句は部分単位で頭韻と脚韻が同時に踏まれているのである。
短いフレーズの中にこれほどの密度で韻を踏んだ歌詞を私は他に知らない。作詞者の山口一郎さんの詩才を感じることができる歌詞の一つだと私は思う。
【参考動画】
(上記歌詞の部分は1:08あたりから始まる。ぜひ実際に聴いてみてほしい)
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