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#49 「0→1」産業を見つけるVC

今後5年、10年後、どのような産業が私たちの生活を揺るがすかは誰にとっても興味深いトピックだろう。本屋のベストセラーの棚に「次は何々産業だ」というような本を見つけるのが難しくないのもこのトピックに対する我々の興味を裏付ける。

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このトピックは、2つのフェーズに分けることができる。第1フェーズは「0 → 1(ゼロ・トゥ・ワン)」、つまり、新しい産業が出てくる段階、そして第2フェーズの「1 → n」、その新しい産業の中で大きく成長し、私たちの生活に大きな影響を与えていく段階である。

「0 → 1」と「1 → n」の両方のフェーズを経て成功した産業には、ソーシャルメディア、ストリーミングサービス、ショットビデオなどがある。これらの産業は、5〜15年前にFacebookやNetflix、TikTokが開拓するまで存在しなかった産業である。今や巨大な産業となり、我々の生活に溶け込んでいる。

主にシリーズAやBくらいのステージに投資をするベンチャーキャピタルとしては、「0 → 1」フェーズにある産業のうち、どの産業が、そしてどのタイミングで、「1 → n」へ移行していくのかを見極める能力が重要になる。シリコンバレーのトップベンチャーキャピタルの一つであるKhosla Venturesは、10年前にクリーンテックに大きな賭けをしましたが、結果的には早すぎていた。周知の通り、クリーンテックが今ブームになっている(但し、Khosla Venturesは他の投資をやってきているので継続的に良い業績を上げている)。

NFTも「1 → n」フェーズの良い例だ。NFT技術を利用したデジタルコレクティブル業界は、決して今出たばかりの新しいものではない。最初のデジタルコレクティブルであるCryptoKittiesがリリースされたのは2017年で、今年のようなNFTの熱狂が起こる4年前だった。当時CryptoKittiesを作ったDapper Labsへの出資を見送った私を含め、多くの人がNFTは死んだと思っていた。しかし、明らかにその予測を間違えていて、今は見事に「1 → n」フェーズに移行している。

当然、シリーズAよりも早い段階のシードやプレシードを目指すアーリーステージのベンチャーキャピタルとしては、どのような新しい産業が生まれ、「0 → 1」フェーズに入っていくのかをディスカバーする能力が重要になってくる。

新しい産業の誕生は、主にすでに存在する企業や産業によるものではなく、高齢化などの人口動態の変化、スマートフォンの普及といった技術の進歩、女性の社会進出といった社会的トレンドの変化、また、予期せぬイベントなどによって起きる。

例えば、今日、20代前半のほとんどの人は、友人のメールアドレスは持っていなく、電話番号やソーシャルメディアのアカウントを使ってコミュニケーションをとっているというが、これはどういうことを意味しているのか。また、COVID-19のようなブラックスワンイベント(事前にほとんど予想できず、起きたときの衝撃が大きい事象)も人類史の中では常に起きてきている。

もしあるファンドが近い将来、高齢化市場が盛んになると考えているのであれば、その中から高齢者向けのEdTechからFinTechなどのスタートアップが生まれてくることは想像し難くない。Female Techの略であるFemTechも同様だ。女性向けヘルスケアからウェルネス業界まで、幅広い産業になっていく可能性がある。

高齢化市場やFemTechが盛んになるかどうか、もし盛んになるのであれば、いつそれが起きるのか予測するのは難しい。さらに、COVID-19のようなブラックスワン現象を予測することはほぼ不可能である。一言で言うとやはりシード・プレシード投資は決して簡単ではないことを表す。

危ういのはシード・プレシードファンドが「1 → n」フェーズの産業を狙う場合である。もちろんその能力も重要だが、「0 → 1」フェーズの産業を見つける能力なしでは、その能力の意味は乏しくなる。

「0 → 1」フェーズの産業及びそのような産業を作り上げることができる創業者を見つける能力こそがシード・プレシードファンドの醍醐味である。とても難しい、でも夢のある仕事でもある。

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References:
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