見出し画像

#30 シードは新しいシリーズA

2020年の米国のベンチャー投資市場は、総投資額が1,560億ドル(約16兆円)となり、過去最高を記録しました。ディールサイズやバリュエーションが最も大きく膨らんだのはレイトステージのディールですが、シリーズAやシリーズBといったアーリーステージのディールもディールサイズやバリュエーションが大きく膨らんでいます。例えば、2013年から2015年の間、シリーズAおよびB案件の70%だけのディールが1,000万ドルから2,500万ドル(約10億円〜25億円)のディールサイズでしたが、今や90%のディールが10億円〜25億円のディールサイズになってきています。バリュエーションについても、2020年のアーリステージディールの平均が6,170万ドル(約62億円)でしたが、2021年上半期で9,610万ドル(約96億円)まで上昇しています。

今日は、なぜこのような現象が起きているのか、そしてこの変化がベンチャー市場に示唆することについて話してみたいと思います。

theLetterでニュースレターを購読  &  ポッドキャストで聞く

バリュエーションとディールサイズの高騰を招いているドライバーは3つあると考えています。第一に、アーリステージのディールに非伝統的なベンチャー投資家が参入していることです。タイガー・グローバル・マネジメント、ブラックストーン、ゴールドマン・サックスなど、以前はアーリーステージのベンチャー案件に投資していなかった投資家が、今は若いスタートアップたちに積極的に資金を投下しているのです。

第二に、特に過去3年間の活発なエグジット市場が、投資家の資金をベンチャー市場で再循環させているとのことです。2021年はすでに初めてその金額が3,000億ドル(30兆円)を超え、再び記録的な年となって来ています。これは上半期だけなのに、過去10年間の通年の中で最も多い規模感になります。

画像1

最後に、ベンチャーキャピタルが最も魅力的な投資資産クラスの一つであることを証明し続けているため、機関投資家はこの資産クラスにより多くの資金を割り当てているからです。下のグラフが示すように、平均的なベンチャーキャピタル資産クラスへの投資額は、過去10年間で機関投資家の間で徐々に増加しています。

画像2


バリュエーションの高騰と共に、スタートアップの成熟度も高まっています。以前は、シリーズA段階のスタートアップに完全に機能するサービスやプロダクトを期待する人はあまり多くありませんでした。今では、その流れが変わってきています。バイオなどの領域を除く多くの場合、シリーズAのスタートアップとして、プロダクト・マーケット・フィットもある程度見つかっていて、何らかの機能するサービスやプロダクトが期待されます。シード段階のスタートアップが初期バージョンのサービスを提供していたとしても、もはや驚くことではありません。スタートアップの成熟度が前より早く高まってきて、彼らへの期待値も上がってきているのです。

プロダクト開発プロセスの生産性は、技術革新によって着実に向上しています。10年前、AWSはコンピュータインフラへの資本支出を最小限に抑え、スタートアップ設立のハードルを大幅に下げました。そのハードルはより多くの生産性向上ツールの登場によりさらに下がり続けています。Bubbleのようなノーコード/ローコードツールを使って誰でも簡単にデモ製品を作ることができる他、Retoolのようなツールを使って様々な内部ツールを簡単に構築することができます。また、Copy.Aiのようなツールを使うとマーケティングコピーまでも簡単に書くことができます。

この傾向は今後も続くでしょう。将来的には、シリーズAのスタートアップとして完全に機能するプロダクトやサービスを持つ時代になっていくと思います。また、シードステージのスタートアップも、今よりも高いレベルの完成度の製品が期待されるようになるでしょう。シードステージは新しいシリーズAステージなのです。アイデアを出してから製品を発売するまでのサイクルが短くなってきている中、ベンチャーキャピタルもスタートアップの創業者も、今後それに合わせて考え方や期待値を変えていく必要があります。

theLetterでニュースレターを購読  &  ポッドキャストで聞く

References:
・State of the Venture Capital Industry by TrueBridge Capital Partners
・2021 Q2 Venture Monitor by Pitchbook and NVCA
・Image courtesy - https://unsplash.com/
・Bubble - https://bubble.io/
・Retool - https://retool.com/
・Copy.ai - https://www.copy.ai/

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?