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#32 VC&LP投資家としてどのようなバリューを提供できるのか?

かつて、ベンチャーキャピタルマーケットというのは「投資家よりのマーケット」でした。要するに、投資家とスタートアップ創業者の間で、投資家の方が支配的な立場に立ち、自分たちに有利な条件を要求することが一般的だったのです。しかし今は、ベンチャーキャピタルが魅力的な投資アセットクラスであることが証明されつつ、益々多くの資金がこの分野に集まってきています。結果、資金がより安くなり、その力関係が変わってきています。今では投資家よりのマーケットではなく、「スタートアップ創業者よりのマーケット」になりつつあるのです。投資家は自分たちに有利な条件ばかりを要求できないだけでなく、競合する多くの投資家の中から選ばれるように彼らを差別化して行かなければなりません。投資家が創業者に豪華なプレゼントを送ったというのは、もはや驚きのニュースですらありません(もちろんこれは望ましいやり方だとは思いません)。

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投資家が自らを差別化する方法は大きく三つあります。まず1つ目は、「ブランド」です。セコイア、アンドリーセン・ホロウィッツ、ベンチマークのような強力なブランドを持つ投資家であれば、キャップテーブル(投資家リスト)にその名前があること自体がスタートアップにとって意味のあることになります。このブランドパワーにより、容易に優秀な人材を集められたり、資金調達ニュース自体がマーケティングの効果ももたらしたりします。また、その後の資金調達ラウンドでもより簡単に多くの投資家から注目を集めることができます。

もう一つの方法は「資本」です。投資家が高いバリュエーションで巨額の資本をさらに安く提供することができれば、それもまた強力な差別化要因となり得ます。タイガー・グローバルとソフトバンクでは、細かい投資戦略は異なるものの、他よりも安く大量の資本を提供しているということは共通しています。

最後に、オペレーション及び戦略面でのサポートです。採用、マーケティング、製品開発、IPO準備、海外進出、さらには創業者のメンタルヘルス支援など、様々な種類のサポートが該当します。ベンチャーキャピタル投資家自らの創業経験や、投資家が持つ業界専門家たちのネットワークが重要になるのはここになります。

マーケットが「スタートアップ創業者よりのマーケット」になりつつある中、投資家は上で述べた差別化要素の1つまたは複数を組み合わせ、スタートアップ創業者から選ばれるようにアピールします。

興味深いのは、これが上流過程でも起きていることです。つまり、ベンチャーキャピタル投資家とLP(ベンチャーキャピタルファンドそのものに出資する、主に機関投資家や企業、富裕層たちを指す)の間でも起きているのです。より多くの資金がベンチャーキャピタルマーケット市場に流れ込むにつれ、セコイア、アンドリーセン・ホロウィッツ、ベンチマークのような著名な投資家たちは資金調達が非常に簡単になりました。彼に投資したいLPはいくらでもいるので、彼らはその中から誰からお金をもらうのかを選ぶだけです。さらに興味深いのは、これらファンドのような長年実績を持っているところのみならず、比較的に若いベンチャーキャピタルファンドでも同じことが起きていることです。例えば、創業5年目のFika Venturesの直近のファンドは、まだ3号という比較的に若いファンドにもかかわらず、すでに多くのLPから注目を集めていて、どのLPから資金を調達するかを選ぶことができているようです。

これは、ベンチャーキャピタル投資家とスタートアップ創業者の間の力関係が変わったのと同様なことが起きていることを表しています。今までは「LPよりのマーケット」だったのが、次第に「ベンチャーキャピタル投資家よりのマーケット」になりつつあるのです。その結果、LPは同じ問題に直面することになります。つまり、どのようにして他のLPとの差別化を図り、競争に勝ち、人気ファンドに投資できるチャンスを獲得するかということです。

基本的にベンチャーキャピタル投資家と同じ、3つの軸から考えることができます。ブランド、資本、そして運営・戦略面でのサポートです。優良LPとしての強いブランドを持っているか。ベンチャーキャピタルファンドにとって十分に魅力的な資本を持っているか(例えば、10億円の投資能力は、100億円ファンドには説得力があるが、1,000億円ファンドに対してはありません)。最後に、特定の業界や海外市場に関する知識など、ベンチャー・キャピタル・ファンドにどのような運営・戦略上のサポートをもたらすことができるか、の3つです。

ベンチャーキャピタル市場が成熟し、さらに競争が激しくなる中、単なるお金の亡者ではLPとして、またはベンチャーキャピタル投資家として、成功できなくなるでしょう。ベンチャーキャピタル市場において、いわゆる投資家として競争力を維持し、成功するためには、それがベンチャーキャピタルファンドであろうと、LPであろうと、意識的かつ積極的に差別化戦略を構築していく必要があります。そして、これはファンド投資家である私にとっても非常に重要な使命でもあります。

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