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#42 ベンチャー投資のポートフォリオ構築:集中型 vs 分散型

VCがスタートアップ投資をするときのポートフォリオ構築には、大きく分けて2つの異なるアプローチがあると言えるでしょう。「集中ポートフォリオ」と「分散ポートフォリオ」です。今日は、それぞれのアプローチとそれにまつわる私の考えを話してみたいと思います。

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集中ポートフォリオとは、VCが限られた数のスタートアップでポートフォリオを構築するアプローチで、主に1パートナーあたり10~20社程度の集中されたポートフォリオになります。VCは、各投資先スタートアップにより多くの資金を投入し、より時間をかけてハンズオンでサポートをします。これは、より高い確率で勝者となるスタートアップを見つけやすい後期ステージ(レイターステージ)の投資でより一般的とも言えますが、初期ステージ(アーリーステージ)にフォーカスをおくVCの多くもこのアプローチを取っています。

一方で、分散ポートフォリオは、その逆のアプローチです。VCは、より多くのスタートアップに、少ない資金を投資します。通常、1パートナーあたり約30~40社くらいですが、中には50社を上回るような投資をするVCもあります。アーリーステージの投資には大きな不確実性が伴うため、ポートフォリオの企業数を増やすことでリスクを軽減することができます。

また、ハイブリッドモデルもあります。ニューヨークに拠点を置くベンチャースタジオであるBetaworksがその好例です。Betaworksは、複数の企業を社内でインキュベートし、うまくいった企業のうちのいくつかを、高い持分を維持したまま別の会社としてスピンアウトさせます。他のユニークなアプローチをとるVCもあります。例えば、Hustle Fundでは、まず多数のスタートアップにごく少額の投資を行い、その中から選ばれたスタートアップに本格的な投資を行います。

ここで「正しい」アプローチはありません。企業数やチェックサイズ以外にも、VC投資戦略には様々なファクターがあり、それぞれのアプローチには成功例も多数あります。例えば、Snowflakeの大成功でさらに注目を集めたSutter Hill Venturesのようなファンドは、集中的なアプローチの良い例でしょう。一方、Liquid 2 Venturesは分散型のアプローチで大きな成功を収めています。

さて、集中アプローチにしろ分散アプローチにしろ、一握りの投資先企業だけが勝者となります。情報が非常に限られているスタートアップ投資の性質上、どのスタートアップが10年後に成功するかを明確に知ることは不可能に近いのです。だからこそ、集中型でも投資先企業は10~20社もあるのです。

したがって、投資可能金額に限りがある中、成功角度が高くなってきている投資先企業により多くの資本を集中させることは、ファンド全体の投資リターンを最大化する上で非常に大事になります。このような追加投資のことを「フォローオン投資」と言います。

ほとんどのファンドは、フォローオン投資のために「リザーブ」を用意しています。例えば、100億円ファンドの40%がフォローオン投資のためにリザーブされている場合、フィーなどを考慮せずに単純に計算すると、60億円は新規投資、40億円は既存投資先への追加投資に与えられます。リザーブがない場合や足りない場合は、SPV(Special Purpose Vehicle)といった手段を使う場合もあります。

前述の通り、スタートアップ投資の世界では、情報が非常に限られています。その中、投資を通じた資本関係を結ぶことによって、投資先スタートアップへの情報を得ることができるようになります。すなわち投資により情報のアービトラージが生まれ、VCはその投資先スタートアップが成功するかどうかのヒントをより得やすくなります。

Sequoia Capitalのブロックチェーンファンドとも言えるParadigmは、コインベースが巨大な勝者になることを知っていたので、コインベースの株式をセカンダリマーケットからでもどんどん買い集め、自分たちの持分を高めていきました。その結果、コインベースが上場したときの想定リターンを大きく上げることができたのです。もし彼らが同じ資金を、コインベースへの追加投資に使わず、他の投資先に使ったとしたら、大きな機会費用が発生していたでしょう。

また、最近のようなレイターステージに多くの資金が集めている中、多くのファンドがSPVを通じたフォローオン投資を通じて大きなリターンを実現しています。

集中ポートフォリオか分散ポートフォリオかの投資戦略を、VC自身の強み・弱みを徹底的に理解した上で慎重に設計することは非常に重要です。しかし、それに加えて、投資先スタートアップの中から勝者を見極める目を持ち、その勝者にきちんと資金と時間を割けられる戦略を構築することは、VCのポートフォリオ構築を考える上で、とても重要な要素になります。

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References:
・​​Andreessen Horowitz Made $78M Off $250,000 Investment in Instagram - https://techcrunch.com/2012/04/22/andreessen-horowitz-made-78m-off-250000-investment-in-instagram/
・Venture capital portfolios: diversification versus conviction investing - https://differentfunds.com/portfolio-construction/venture-capital-portfolios-diversification-versus-conviction-investing/
・Taking Money "Off The Table" - https://avc.com/2018/01/taking-money-off-the-table/
・Coinbase Direct Listing’s Biggest Winners - https://www.theinformation.com/articles/coinbase-direct-listings-biggest-winners?rc=6eiuc8

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