アバターの各種権利はどうなっている?最新の政府の見解は?
皆さんこんにちは。VRC note編集長の八重樫です。
メタバースという言葉が話題になり、ひと段落した感じも受けますが新しいプラットフォームやメタバースのサービスなども次々に出てきています。プラットフォームの一つであるClusterが大型の資金調達をしたというニュースも最近ありました。
その影響でメタバース空間内で自身を表す存在である「アバター」や「アバターファッション」にも注目が集まっており、アパレルブランドもデジタルの服を発表したりデジタル空間にワールドという場を構えたり、ファッションショーを行うなど活用され始めています。
(過去に書いたデジタルファッションの記事もご参考まで)
クリエイターエコノミーに注目が集まるなどビジネスチャンスがあるのでは、と個人も企業も注目が集まって参入が始まっている中で、問題になってくるのは権利問題です。実際、自分で作ったアバターがコピーされてしまうことや、同じようなデジタルの服や小物を真似されて作られたというような事例はいろいろと発生しています。
そこで政府でも法整備を急いでいます。2022年11月に民間事業者・団体等の関係者、法律やコンテンツ関連の有識者、関係省庁担当者からなる「官民連携会議」が設置されて以下について議論が始まりました。
- 現実空間と仮想空間を交錯する知財利用、仮想オブジェクトのデザイン等に関する権利の取扱い
- アバターの肖像等に関する取扱い
- 仮想オブジェクトやアバターに対する行為、アバター間の行為をめぐるルールの形成、規制措置等の取扱い
その官民連携会議で議論された論点整理をまとめた資料が5月末に発表になったので、今回の記事ではそれを取り上げていきたいと思います。
論点整理の具体的な内容については、こちらのPDFを確認してください。
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/metaverse/pdf/ronten_seiri.pdf
概要版
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/kanmin_renkei/kaisai/dai3/sankou1.pdf
上記の資料では、前段で目指すべき価値を実現するためのルール形成等のあり方を提示した上で、以下の事項について検討事項を挙げています。
1.現実空間と仮想空間を工作する知財利用、仮想オブジェクトのデザイン等について
2.アバターの肖像権等に関する取扱いについて
3.仮想オブジェクトやアバターに対する行為、アバター間の行為をめぐるルール形成、規制措置等について
4.その他(国際裁判管轄・準拠法について)
この中から今回の記事では、「2.アバターの肖像権等に関する取扱いについて」の部分を取り上げて、どんな方向性になるのか記していきたいと思います。
■考えられるアバターに関する肖像権の課題とは?
まず考えられるのは、「メタバース外の人物の肖像の無断使用」です。現実空間をスキャンした時に、看板に著名人が写っていた、風景を撮影したら通行人が写っていた、などの問題が考えられます。過去の肖像権の裁判例などを見ると、「その人が誰だかはっきりわからない(人物を特定できない)場合」や「特定の人物に焦点が当たっていない場合」「道路上や公園など公共の場所で撮影されたもの」「撮影について許諾を得ているもの」などは肖像権侵害には当たらない、という判決がなされることが多いようです。
メタバースの場合でも、単に写り込んでしまった場合や本人特定ができなければ問題はなさそうですが、現実世界をスキャンして仮想空間を作る場合などは気をつけたほうが良さそうです。
そのほか、実在する他者を無断でアバターにして使うなども言語道断です。過去の裁判では自分の容ぼう等を描写したイラストについても本人の「肖像」として保護するべきとしており、例えば今流行りの写真からAIでアバターを作るなどのサービスで著名人の写真を勝手に使用するなどは許されないでしょう。
そういう観点から、リアルなCGで描画されるアバターやNPCの映像も本人に肖像権があると考えられます。基本的には現実に存在する他者のアバターを作る場合には、事前に許可をとってから作成するのが良いと思います。
なお、実在の人物の容ぼうを描画しているアバターについては、肖像権の保護以外に「プライバシー権」も侵害していないか考えるべきです。過去の事件の判例ではプライバシー権について「私生活をみだりに公開されないという法的保障ないし権利として理解する」と共に、権利侵害の成立要件として「私生活上の事実である」場合だけでなく「私生活上の事実らしく受け取られるおそれがある」場合にもプライバシー権の保護の対象となることがあるとしています。
そこから考えると、実在の人物のリアルなアバターが仮想空間上にいて活動した場合に、そのアバターが第三者によって操作されたものであったとしても、一般の人がその活動を本人が行っていると誤認するおそれがある場合には、プライバシー権侵害が成立する可能性もあるのでは、という指摘もあります。
VRCの作成するフォトリアルなアバターもプライバシー権については考慮しており、他人が使用できないように暗号化することや本人しかダウンロードして使えないような仕組みを整えています。
政府資料ではプラットフォーマーや関係事業者、ユーザーに対して、実在の人物の容ぼうを模倣したアバターやNPCを無断作成・無断使用し、当該人物の権利を侵害することがないように、基本的な考え方などのガイドラインを整備すると共に、必要な周知を行っていくことが望ましいとしています。
この辺りはユーザーの倫理観が問われるところでもありますが、プラットフォーマーやアバター制作の事業者側でも無断作成・無断使用ができないように取り組みをしていく必要があります。
■そのほかの想定される権利侵害とは?
そのほか考えられる内容としては、他者のアバターを使ったなりすましについても対策が必要になります。自分の使っているアバターが無断でコピーされたりすることで他者になりすますことや乗っ取りなども事案としては懸念されます。
まだ議論段階ではありますが、アバター使用の実態を見ると創作されたアバターであっても、フォトリアルなアバターであっても、操作する人との人格の結びつきがあると考えられます。メタバース内ではユーザーは自己の身体としてアバターを操作しアバター姿で活動するので、操作者の人格=使用するアバターになる。周囲からもその認識を持たれるので、第三者が乗っ取りなどにより使用することはトラブルに発展します。そういった権利や保護がどうされるべきなのか、ということは今後より議論されていくべきです。
創作されたアバターの場合、どこまで誰に著作権が付与されるのか、ということも問題です。多くの場合はアバターをショップで購入して使われており、購入にあたってライセンスを受けるのみで著作権の移転は行われないケースが通常です。なので、著作権を保有するクリエイター等とそのアバターを操作するユーザーが異なるというケースが発生します。その場合、もし権利侵害が起こった場合その相手に対してユーザーがどのように損害賠償請求や差し止め請求などを行うのかについては整理が必要です。
またアバターの無断撮影や公開も現実世界同様にトラブルになります。顔や姿が第三者に無断で撮影されて公開されるというトラブルにもなっています。リアルな姿を再現したアバターについては現実世界で写真を撮影するのと同様に肖像権が守られるべきですし、創作されたアバターであっても、操作者の人格と結びつくアバターの肖像については、肖像権の対象と認めるべきという論もあります。ここについては議論を深めていく必要があるでしょう。
そのほか、アバターに対する誹謗中傷等もトラブルになります。これも名誉毀損・名誉感情侵害に当たる場合もあると考えられ、例え仮想世界で匿名性があっても生身の相手に対応しているということを念頭に置いて対応する必要があります。
■企業やユーザーの立場で気をつけるべきこととは?
いろいろまだ議論すべき課題はありますが、プラットフォーマーやサービス提供者としての企業、私たちユーザーはどういうことに気をつけるべきなのか考えてみました。
<企業として気をつけるべきことは?>
・プラットフォーマーとしてルールを定める。各プラットフォーマーがユーザーの権利をどう守っていくか考え、足並みを揃えていくこと。さらに政府の方針とも足並みを揃えていくこと。
・ユーザーがコンテンツやアバターをアップロードするときに注意を促したり、審査する。
・企業としてコンテンツやアバターを公開する際にも、レギュレーションに沿って権利侵害をしないようにオリジナルコンテンツを作って公開する。
<ユーザーの立場で気をつけるべきことは?>
・無断で公開したり使用したりせず、他人の権利侵害や誹謗中傷にならないようにする。相手がちゃんといることを意識してコミュニケーションをとる。
・自分のプライバシーの権利など他人にバレたくないことはちゃんと公開しないように気をつける。
・メタバース内でも節度を守る。仮想空間でも現実世界と同じということを忘れない。
企業もユーザーも、一人ひとりが肖像権やプライバシー権などがあることを意識して、メタバース上でもコミュニケーションをとったり、アバターの権利侵害をしないような行動を心がけるとともに、政府の法整備も急いで欲しいなと思います。その際にはパブリックコメントや有識者の意見も取り入れつつ、実態と乖離したものにならないよう気を配っていただけたらいいなと感じました。
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