しかめっ面

僕がまだまったくの駆け出し君だったころ、とても印象深い患者さんに会った。
ずっと怒っている男の子。ずーっと不機嫌に眉を寄せてた。

自分が担当してる患者さんじゃなく、というか駆け出したばかりだったので、担当とかそういうのが持ててないころだったんだけど、先輩について、回診やらなんやらで、時々見かける子だった。

本当に、どっか悪いんじゃないか(悪いから入院してるわけだけど、、)と心配になるくらい、ずーっと怒ってる。何かに。

話をする機会があって、「どっか痛いの?」とか聞いてみるけど、会話は普通。いたって普通。でも顔は怒ってる。

理由がわかったのは、もう彼が退院することはないって頃になってから。
ご両親の話を先輩から聞いたのだが、「痛いとか苦しいとか、そういうのを周りに判らせないようにするために、いつも苦しい顔をしていた」ということだった。

前に、ずっと笑っている子、はいた。同じ理由で、どんなにつらくても、笑っていることで周りを心配させないようにしてた子。

理由は一緒なのに、なんだか余計に切ない気持ちになって、悲しくなった。

子供って、なんで突然大人のような、大人を飛び越えたような達観を見せることがあるんだろう。
子供なんだから、もっと素直でいいじゃない。周りに心配かけてもいいじゃない。本当に辛いんだから。痛いんだから。
なんでだろう。

担当医でもなかったので、そんなに親しかったわけじゃないけど、
彼が亡くなってからご両親から、挨拶をいただいた。


彼はどうやら、時々会う僕をいたく気に入っていたらしい。
「さんぺー先生」(当時大人気だった芸人さんと、僕の体型が同じだったから)と呼んでいたらしい。
最後まで、全然笑わなかったらしい。
でも、眠るように安らかだったらしい、と。

この仕事してると、本当にたくさんのやり切れないことに直面するのだけれど、それでもまだこの仕事をやってる自分を、どっかで支えてくれてるのも、こういうやり切れない思いなのかもしれない。

この季節になると、いつも思い出すしかめっ面。
僕が真剣に小児科医を志すきっかけをくれた彼のこと。

命日の今日、どっかで笑ってくれてるといいんだけどな。

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