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小噺 of the WEEK(2020年2月9日)

「パンク」という言葉を聞くと反射的にカッコいいな、と思ってしまいます。反体制チックなところとか、異議申し立ててるっぽい姿勢とか、自分の中の中学生が呼び覚まされて、つい、なんというかイキった感じを出したくなります。

けれども、実際にはすでに思春期なんてとっくに終わって、それなりに、年齢も経験も重ねているので「反体制とか異議申し立てもいいんだけど、その先どうすんのさ?」というのが自然に気になってしまいます。これがバンドだったら、ギターをガッシャーン、マイクをボーーンという感じで、サンキューも言わずにステージを立ち去ればいいんだろうけど、現実にはなかなかそれだけと言うわけには行きません。

「オルタナティブ」というジャンルもあります。「もう一つの」とか「代わりとなる」といった意味合いです。「それだけじゃないもんね」といった、そんな言葉です。パンクの放ったエネルギーが、やがて、オルタナティブに生まれ変わる。バンドが去った空虚なステージの向こうに、今までとは違うステージを立ち上げる。それがオルタナティブじゃないかと思います。何かを壊すことなく、単に他と違うだけ、と言うのではオルタナティブたり得ない、そんな気持ちを持っています。

ほぼ日の糸井重里さん。ミナ・ペルホネンの皆川明さん。この対談で、二人は経営や組織のセオリーを軽く飛び越えます。たとえば、こんな感じ。

・競争は全体の力を弱める(皆川さん)
・分業は全体の力を弱める(糸井さん)
・(リーダーのいない)渡り鳥の群のように(皆川さん)
・  みんな物事を「深める」ことばっかりするけど、「浅める」ことも大事(糸井さん)

競争は活力の源だし、分業は効率を生む。強いリーダーシップが求められることも多いし、物事を突き詰めて考えることはいつだって推奨される。

でも、「それだけじゃない」と二人は言います。

そして、それをほぼ日やミナ・ペルホネンの商品を通じて、具体的に世の中に投げかけています。空っぽのステージの明かりが消えるのをただ待つのではなく、別のところで違った輝きの光を灯しています。

二人のうみ出すものには、「こういうことだってあるよね」と手のひらに載せて差し出してくれるようなやさしさがあります。既存の考え方と間違いなく違う場所から来ているのだけれども、今から離れ過ぎていく抵抗感よりも、前から求めていた場所にたどり着いたような安らぎがあります。

お二人の若かりし頃、彼らがパンクだったかどうかは知りません。でも、きっとその時々のメジャーに対して、口にできない居心地の悪さ、所在なさみたいなものを感じる時はあったんじゃないかと思います。そして、ひたすら自分にとって居心地のいい場所を求めつづけた結果、いわゆる普通の会社とは全く違うんだけれども、今やいわゆる普通の会社にはできなくなったことを軽やかに成し遂げる器をつくりあげてしまったんだと思います。だから、二人のすることがこんなにも多くの人たちに受け入れられる。それはパンクに止まらない、メジャーでも、マイナーでも、ハイでも、サブでも、カウンターでもない、まさにもう一つのあり方だと思います。

そんな、オルタナティブな世界からの投げかけに対して、かつての普通の中で生きるぼくたちは、どんなカウンターパンチを繰り出せるのか。その答えは普通じゃない場所にたくさん転がっている気がします。

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つづく|展覧会は、東京都現代美術館でもうちょっとだけつづきます。東京駅からならタクシーがおすすめ。15分ほど。

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