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印刷物が充たす内的嗜好。 60〜90sの音楽・映画のタブロイド紙・ポスターを額装「Woodmarquee」

高騰が止まらないヴィンテージTシャツ。地上波の有名番組でも特集が組まれ古着業界でも一際盛り上がっている。

バンドTシャツに留まらず、映画TシャツやアニメTシャツ、アートTシャツから企業Tシャツまで注目は拡大し、10万円超えは当たり前、100万円以上のTシャツも見かける時代。このバンドが好き。この映画が好き。という理由で気軽で買えなくなってしまった。

身につけ、外出し自己表現する点で、Tシャツは確かに最もわかりやすいツールだろう。ただしコレクションや飾るなど内的嗜好を充たす場合に他に選択肢はないのだろうか?

そこで目を向けて欲しいのが"タブロイド紙"である。いわば、音楽雑誌や週刊誌などの大衆雑誌だ。超有名音楽バンド、一世を風靡した俳優のオフショットなどそこでしか見ることのできないピンナップがあふれている。

今回は古着屋から転じて、60年代から90年代のタブロイド紙やポスターに可能性を見出したパイオニア。Woodmarquee(ウッドマーキー)のオーナー中山氏に「タブロイド紙を額装する」という発想の根源から今後の可能性について伺った。

渋谷蚤の市での出店の様子

ひとつのことを極めたくて今の仕事に

- ご経歴を教えてください。

高校生時代が第一次古着ブームで、地元が横浜なので良い店が多く、古着を買うようになりました。ハーレーダビットソンの染み込みプリントのTシャツが可愛くて購入したのを覚えています。男兄弟がいたこともあって、小さい頃から趣味が少年っぽいというか(笑)バイクに興味があって、若い頃は国産車に乗っていましたね。

- かっこいい。シティーガールですね(笑)

レコードショップやライブハウスも近くにあって影響を受けました。でも東京じゃないのでみんな原宿には憧れていました(笑)古着屋を始める前はバーニーズニューヨークでバイトをしていました。ヴィンテージに触れる機会が多くて、元々古着は好きだったので古着屋をやってみたいと独立を決意しました。

- 古着屋を始めようと思った決め手はなんだったんですか?

バーニーズニューヨークでそれまで関わったことのないようなお客様に接客させていただきました。例えば「60年代風」といった商品の説明はされていましたが、私は原点・ルーツを巡りたくて。すぐに行動に移して、現在の夫とすぐに本場を知ろうとアメリカに赴き、その1年後に独立しました。

古着の買付がメインでしたが、レコードショップに立ち寄った際に60年代のコンサートポスターが壁一面に貼ってあって、雑誌コーナーには70年代の雑誌が並べられていて。それがとても新鮮でかっこよかったのでお土産程度に買って帰りました。それが今の仕事を始める原体験ですね。

- 古着はどういったジャンルを扱われていたんですか?

60年代に流行ったモンドリアンスタイルのマイクロミニのワンピースや、70年代のヒッピースタイルのワンピースなど女性らしいアイテムを扱っていたので、ポスターやタブロイド紙とは真逆の印象でしたね(笑)

しかし、古着と雑誌類の買付を並行して続けていくうちに、両立が難しくなってきたんです。ロックTシャツを集めることも考えましたが、何年も経った後に集めた雑誌やポスターを見返したらすごくかっこよくて。そこから一つのものを極めたいなと、タブロイド紙・ポスターに集中することを決めました。

- 世界的に見て同じようなコンセプトのショップはあるんですか?

ありますね。ただウチのように額装している店はほとんどないです。海外の方はポスターやロビーカード(映画館ホールのロビーに設置されていた宣伝素材)を自分で額装して壁一面に貼ったりするんですが、日本人には馴染みがありません。「額装して欲しい」という要望が多くいただいたこともあって対応するようになりました。

- 近年は紙媒体も減ってきています。

2000年代以降の作品の要望もいただくんですが、デジタル化が進んで雑誌もほとんど広告になって使える部分が少なくなってしまったので、なかなか探せないですね。休刊・廃刊となった雑誌も数多くありますしね。

- ニッチな雑誌で生き残っているものはありますが、ふと新聞を見て「いいね。」って思う経験は減ってきていますよね。

様々な情報がネットで得られるようになった結果、好みが分散化してしまいましたよね。「2000年代の名作を挙げて」といってもパッと思いつきません。時代を代表するものが個々人によって分化しているなという印象です。

- そうするとここから10年-20年経った時に扱っていくものの難しさはありそうですね。

音楽系はまだ有名どころであれば集められそうですが、映画は難しさを感じますね。

- 逆にアニメのポスターやパンフレットなどの需要が海外向けに高まっていくかもしれませんね。

そうですね。2000年代の映画やアニメも私たちが扱っている60年代から90年代のカルチャーに影響を受けた作品も多くありますし、紙媒体を通じて2000年代以前のカルチャーに興味を持っていただける可能性はあると思います。ロックTシャツや映画Tシャツが流行ってますけど、その資料的な意味で知って見てもらえると嬉しいですね。

紙だからこそ見つかる名シーンもある

- 好きなアーティストや映画を買う方が多いのか、ジャケ買いをする方が多いのかどちらでしょうか?

ジャケ買いも多いですね。すごく好きな映画なら買う方もいますが、あえて好きなものではなく映画で言うと「LEON」「PULP FICTION」など絵として華やかなものを選んでいく方も多くいらっしゃいます。音楽も同じ傾向があってレコードを買うのとはまた違うように感じています。

- 一家に1枚的な感じなんですかね?

曲は好きだけどミュージシャン自体はあまり知らないなどもよく聞きますね。映画の場合は名シーンが決まっていて大体そのシーンが使われていたりしますが、ミュージシャンの場合、インタビューシーンなどが多く、象徴的なライブのシーンなどを求めている方にとってフィットしない場合もあります。

ミュージシャンを撮影した本当に良い写真って撮影してしばらく時間が経って発表されることが多いんです。だからリアルタイムのタブロイド紙には有名なシーンが載っていないケースがままありますね。

- 速報性を求められるリアルタイムの雑誌ならではですね。

例えばレッドホットチリペッパーズのメンバー4人が裸で写っている有名な写真があります。ただしあの写真はジョン・フルシアンテが脱退前にローリングストーン誌の表紙用に撮影していたもので、脱退してしまったためローリングストーン誌ではフルシアンテがCGで消されているんです。

実際に4人の写真が世に出てきたのは結構後なのでリアルタイムの物はないんです。

1992(Printed:1995)/Red Hot Chili Peppers(画像はWoodmarquee HPより)
1992/Red Hot Chili Peppers/Rolling Stone Mag Cover(画像はWoodmarquee HPより)

- なるほど。リアルタイムの雑誌には主にインタビュー写真しか載っていないとなると少しマニアックになりますね。

ただ、雑誌の中に「これいいな〜」ってなる写真が1-2枚あるんですよ。自宅でくつろぎながらインタビューに答えてる写真だったりを見つけると嬉しくなりますね。売れるものが日本人と外国人では全く違うのも面白いです。

- 雑誌を1ページ1ページ見て切り抜いていく。凄いことをやっていますよね。

誰かがやっていないことをやりたかったんです。古着は競争も激しいですし、若くて勢いのある方もどんどん出てきていますよね。私は違うジャンルで挑戦してみたいなと。

ポップアップで販売しているステッカー・缶バッチは数百円から販売

古着とヴィンテージタブロイドの関係とは

- 古着の流行と連動している感覚はありますか?

連動させていますね。古着と価格を連動させないと人気のあるものばかり売れてしまいますし、世界的に人気があるものは日本でも人気なので集めるのも大変ですからね。

- 仕入れはいかがでしょうか?古着同様、価格が上がってきているんですか?

世界的に上がっていますね。コロナ禍になった当初は世界的な不安で安く提供してくれていたんですが、ある程度収まって世界中から注文が殺到したこともあって値段が一気に上がりました。さらに円安も乗っかってきて倍以上になっています。以前はロットで仕入れていたんですが、今は厳選していますね。

- メインの仕入れ先はアメリカですか?

音楽関係は主にイギリスとアメリカ、映画だとフランスやドイツですね。フランス・ドイツはアメリカ以上に映画館をポスターやロビーカードで飾るので数も多く残っています。

- ヴィンテージTシャツで問題になっているようなコピー品は紙でも存在するんでしょうか?

懸念はありますね。リプロを当時のオリジナルだと言って販売しているのを目にしたこともあります。オリジナルとリプロの場合では価格が全く違うんですが、判別できていないのか、わかってやっているのかわからないです。

- 一度値段がついてしまうとそれが相場になってしまいますしね。

ウチのお客様の場合は年代を気にせずに気に入ったデザインを買っていただく方も多いので、本当に好きなものを適正価格で選んでいただくようにしています。

- Tシャツと比べて紙媒体の年代をあまり気にしないのは、Tシャツが外で着て周りに見られるものであることに対して紙媒体はプライベートな空間に置くものという差なんですかね?

それもありますが、例えばライブの1stプリントだと10万円するものが2ndプリントだと4万円で販売していたりするのです。1stプリントはライブ会場で実際に貼られていたものなので画鋲の跡が残っているのに対して2ndプリントはそれが無くて綺麗なので敢えて選ぶ方も多いですね。

あと年代ではないですが、メッセージ性が強いデザインだとTシャツで着て人前に出るのは難しいけど、部屋にポスターを飾るぐらいなら許容できるということはありますよね。

画鋲の跡(画像はWoodmarquee HPより)

- 画鋲跡がついている方が文脈はありますけど、値段を考えたら理解できますね。画鋲跡は流石にコピー品にはなさそうですね(笑)

はい、ロビーカードは国によってディスプレイ方法が異なり、 例えば画鋲跡を気にせず容赦なく刺し跡を残す国もあります。 そういったものは、むしろ本物感をダイレクトに感じさせてくれる味わいがあります。 一方で大判の劇場用ポスターに関しては、版の大きいものを扱ってくれる業者が少ないのでTシャツよりコピーするのが難しいかもしれませんね。

いずれにしても、公開前に情報が漏れてはいけないので決められた印刷業者がプリントし、ライセンスが入っていたりもします。

- 時代や国によって紙質の違いはあるんですか?

フランスは90年代後半ぐらいまで艶なしのマットな紙質が多くて映画館に折って納入していたので折跡が絶対についています。アメリカも60-70年代は艶なしだったんですが80年代からは今も使われている光沢のある紙質が使われていて画鋲跡はありません。

またアメリカはサイズが厳格に決まっていて104と101サイズの2種類で1mm単位の狂いもないですが、フランスはすごく大きいものから小さいものまで様々です。

今のポスターはダブルで印刷されているので後ろから光を当てても綺麗に見えるようになっていますが、それも90年代後半からで偽物は片面しかないといった判別方法もあります。もちろん片面でも本物のケースもありますが。

- 面白いですね。古着が好きな方が聞いたら堪らない話ですね。

折っていたのが面白いですよね。気にせず画鋲でブスブス刺していたり。なぜか一箇所ではなくあらゆる箇所に画鋲跡があったり(笑)ロック関係のポスターはライブ会場の外の路上に貼ってあったのをたくさんの人が盗むから印刷業者が金になるとリプリントしていたという話もあります。

- そう聞くと画鋲跡すら愛おしくなりますね。

映画を観る前にポスターやロビーカードは目にしますからね。第一印象を担っていたと考えるとグッときますよね。

額装して飾る楽しみ方が広がっているのでは

- 日本では一つのジャンルを作った先駆者だと思いますが、苦労してきた部分はありますか?

値付けに苦労しましたね。当初は一律価格にしていたのですが、人気のあるものばかりに注文が集中してしまったり。先ほどお話したように古着のTシャツなどと連動させています。Tシャツは50万円付くようなものでもウチの紙媒体なら5千円からオフィシャルのロビーカードでも2-3万円で販売しているので、リーズナブルに購入できることもあります。

- 紙媒体の方がTシャツより保存が難しいですよね。

メディアのプレスやオフィシャルの紙媒体は本来廃棄しないといけないものなので取ってあるところも少ないんです。

- デジタル化で紙媒体が減ってきていますし、保存すること自体が難しく、本来世の中に流通しないものだから今後価値は高まることは自然ですよね。紙媒体であることからアート的な意味合いがファッションより強いのかなと感じました。

デジタルだと飾れないじゃないですか。ただ最近の若い方は額装して飾る方が増えている印象ですね。レコードを集める人も増えていますし紙媒体も見直されてきていると思います。

- これまで見てきた数々の紙媒体の中で印象に残っているものはありますか?

ラルフ・ステッドマンですね。ローリングストーン誌にハンター・S・トンプソンというジャーナリストが政治的なコラムを書いていたんですが、ロック誌に政治的な内容を掲載したのも初めてですし、そこに挿絵を描いていたのがラルフ・ステッドマンですごく印象に残りました。「ラスベガスをやっつけろ」という映画の元になった二人なんですけど、元となった1972年に掲載された大きなコラムの挿絵を見た時には感動しましたね。

自宅に飾られていたラルフ・ステッドマンのVINTAGE DR.GONZのポスター

- まだ手に入っていないタブロイド紙やポスターはあるんですか?

doorsが好きなんですが、Live at the Matrixというデビュー直後のライブのポスターは探しています。1stプリントはほぼ残っていないとされているんですが、2ndプリントでもかなり高額です。60年代のロックミュージシャンのライブポスターは探していますね。

1965年から1969年まで活動した13th Floor Elevatorsのポスター。こちらは1966年のライブ後に発行された2ndプリント

- 今一押しのアイテムを教えてください。

映画タクシー・ドライバーのメキシコの映画館で使用されていた1976年当時のロビーカードです。

アメリカはタクシー・ドライバーを世界に先駆けて公開したのでモヒカン姿のデニーロなどの良いシーンがロビーカードに残っていないんですが、後で公開したメキシコなので良いシーンが切り抜かれています。

実は切り抜き部分の写真は写真家の方が映画撮影時に撮ったものなので、映画とは少しシーンが違うんです。四隅に画鋲の跡も残っていますが、それが当時を物語っています。

メキシコの映画館に公開当時貼られていたタクシードライバーのロビーカード

- 今後の展望について教えてください。

POP-UPの形態で継続していく予定です。やはり急に現れるからこその価値があると思っているので店舗は持たないことに決めています。

第一次古着ブームは価格の安さが流行った大きな理由だったと思うんですけど、現在のブームは本当に良いものは投資のような価格で取引されているので性質が異なるように思います。そういう意味では紙はアート的な文脈で今の時代とマッチしてくるかもしれないですね。

- これからいらっしゃるお客様へのメッセージをお願いします。

音楽や映画を知らなくても全然構いません。基本的には自分が見て「いいな」と思うもので良いと思います。ジャケ買いすることもありますし、その感性は間違っていないとはずです。知らなくても、ここから始まっていくこともありますしね。

何かと見つかると思うので、ぜひ一度来店いただければと思います。


Woodmarquee
公式HP:https://woodmarquee.theshop.jp/
Instagram:@woodmarquee

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