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効果的なデジタル広告データ統合手法


I. 広告効果(特にデジタル広告)を可視化する意味


●想定通りにいかないのが広告投資

広告投資の計画は、過去の経験を元に、統計的に投資計画を立てることが基本です。これには、過去の各広告チャネルのパフォーマンスだけでなく、季節的な変動を含む外部要因の考慮が含まれます。私達の広告に対するアプローチは伝統的な考えを踏襲していて、クロード.C.ホプキンス、オグルヴィ、レイモンド・ルビカム、ワンダーマン、ゲーリーハーバートに代表される「広告の巨人」と言われる先人達の経験をしっかりと踏襲しプランニングを行うスタイルです。特にクロード.C.ホプキンスが言う「クライアントの資金を使い、彼らの事業の成功がかかっているキャンペーンを実施するからには成算のない掛けはしない」という考えは徹底していて、あくまで「成算する見込みの高い投資計画を綿密に作り上げた上で、今までやった事がないような(いわゆるチャレンジングな施策)仕掛けを被せていく」スタイルでプランニングを行います。ですので「思ってたんと違う」という結果になる事は少ない方ではあると思いますが、それでもやってみると「思ってたんと違う」という事は往々にして発生します。 これはデジタル広告だけでなく、コロナ禍で人流が急速に減った時のOOHであったり、視聴人口が急速に減ったTVであったり…プランするタイミングと広告が展開されるまでには時差があるので、全ての広告において発生する可能性があります。勿論、そもそもプランが間違っていた可能性もあります。 ただ、デジタル広告は運用型と呼ばれる「いつでも入札額を変える事が出来る」仕組みで展開される事が多く、そういった「思ってたんと違う」を比較的容易に挽回出来る仕組みが用意されています。 先にも述べたように広告費は全て”クライアントの資金”です。ですので、広告展開が終わるその瞬間まで足掻ける可能性があるなら足掻きたい、そしてその足掻きは「今この瞬間のあらゆる広告パフォーマンスを分析した上で勝算の高い投資に修正する」事に越した事は無い訳で、そうなると常に手元に全広告パフォーマンスが揃っているという状況を作る必要が出てきます。

●広告展開の異常にいち早く気付ける
広告投資も一般的な金融投資と同様に「チャートを何気なく毎日見る」という事は案外大切だと思っていて、毎日、毎月、何年も見ていると”直感”のようなものが働くようになります。直感は案外捨てたものではなくて「(今までと違って今回は)何故この媒体だけこのタイミングでCTRが下がってきているんだろう、もしかして今回のターゲティングでは媒体が持つ広告在庫が思ったよりも少なくFQ過多になっているのでは?、念のため現状のFQを確認しよう(してもらおう)」といったようにエラーの発見や重大な問題を未然に防ぐ事に繋がります。デジタル広告の在庫は他メディアに比べると爆発的に多いものの、ターゲットが特殊で更にそのターゲットに対して他社の出稿が集中すると広告在庫が不足する事はあります。在庫が不足しているのに無理やり入札を続けると当然FQ過多になりやすいのですが、それは「広告ウザい」に直結しますので可能な限り早いタイミングで対処する必要があります。

●運用者に対して(一方的な)信頼が芽生える
デジタル広告の場合、一般的に広告主や私達のようなプランナーが直接管理画面を操作する事はありません。プランニングとそれを実行する運用者は別の担当者になります。キャンペーンの規模や体制によっては更に運用会社の営業担当が間に入る事もあるので、何なら「運用者の名前も知らない」というケースも往々にしてあります。ただ、毎日数字の変化を見ていると「あっ、これはあの設定変更をお願いした時の変化だな」「今回の運用者は毎日丁寧に様子を見ながら入札額を変更していってくれてるんだな」といった運用担当者のコダワリや職人技を感じる事が出来ます。そのように数字の変化を通して信頼感が生まれる事もあり、何だか嬉しい気持ちになったりします。

II. なぜ無料(OR ローコスト)にこだわるのか?

以前の記事でも書かせて頂きましたが、私達は「ツール類にコストをかけない」事に拘っています。勿論、費用対効果が明らかに” 広告主にとって ”高いと思われるツールは使用しますが、ツールの過剰な利用は回り回って広告主のROIを低下させる事に繋がると考えています。勿論、関連するツールは過去に所属していた代理店で導入してもらったり、何なら自費で導入して試してみたり(私は完全に広告マニアなので、車好きが車を購入するのと同じ感覚で数百万円するツールを個人で契約して研究した事もあります(笑))で一通り試した上でROIは判断するようにしています。

III. デジタル広告データを無料(OR ローコスト)で統合する方法

●データ統合の基本
データ統合は大きく分けてデータを取り込む「ETL(Extract・Transform・Load)」分野と取り込んだデータを格納する「Database」の2つの仕組みを組み合わせる事になります。

●一番大切な事はAPI連携をとっとと諦める事
一般的に広告データを統合しようとすると各媒体とAPI連携しデータ統合を行う道をまず探っていく事になると思います。各種ETLツールには各主要媒体とのAPIコネクタが標準で準備されていて、IDとパスワードを入れるだけで簡単にデータ連携出来るようになっているので、そういったコネクタの数なども参考にしつつツール選定を進めていくと思います。ただ、この方法はとても楽ではあるのですが「ツールが対応していない新規の媒体には対応出来ない(数ヶ月待てば出来る事もある)」という制限があり、これが私達にとって致命的でした。特定の媒体だけトラッキングしたり、ある程度のメディア郡の中から使用媒体を選ぶ、というケースはキャンペーンの目的によってはありえると思いますが、私達は様々な目的の広告キャンペーンをプランニングしているのであらゆるデジタル広告媒体をトラッキング出来る必要があります。又、API連携になると代理店と運用会社間での契約面でも解消すべき問題が多く、進行スケジュールの観点からも「数ヶ月のキャンペーン単体」の為に使う、というのが現実的ではないケースが多くありました。

●ではどうやってデータを取り込むのか?
私達も散々色々な手法を試しましたが最終的にいきついたのは「メール」です。最初はまさかこんなトラディショナルな統合方法になるとは思ってもいませんでしたが、今は「メールしか勝たん」になっています。

※注意 この後ご紹介するような外部Saasツールの利用は各プロジェクト毎に定められた情報管理・守秘義務規定に従った利用が必要となります。個人情報が含まれたデータのやり取りではありませんが、送信するデータによっては規定違反となる可能性がありますので、個別にしっかりと確認する事をオススメいたします。

■全体の構成
まず全体の構成です。私達は下記の構成でデータの集約を図っています。

この構成は「あらゆる外部データを自動的にデータベースに取り込む必要がある場合(例えば、ダッシュボードをオンライン上に作成したいといった場合)」の構成であって、実際のところ9割方のプロジェクトでは「今やってるデジタルキャンペーンをトラッキングしたい」というシンプルな課題が多いと思います。そうなると、下記の通り構成は非常にシンプルになります。

ここでGoogle Big Query(ここはAWSでもSnowflakeでもお好きなもので)を使っているのは単に「Tableau上でクロス集計しまくる際に処理が早い」という理由ですので、データ行数が少ない短期間のキャンペーンだともっとシンプルに下記のようになります。

これが最もシンプルな形ですが、データ行数が少ない場合はこのように直接Google spread sheetを読みに行く形でも問題ないと思います。最終的な分析はエクセルでもTableauでも出来る事はほぼ同じですが、私達はMac利用者が多いので処理速度の面(Mac環境だとExcelの処理に時間がかかる事が多い)でTableauを利用する事が多いです。

今回はこの最もシンプルな構成を簡単にご紹介させて頂きます。

【STEP.0】最もシンプルな構成で実現する為の条件
最もシンプルで簡単が故に、若干の下準備が必要です。
①何かしらの手法で毎日メールでパフォーマンスデータを入手可能な環境が用意出来る事
②パフォーマンスデータに「その日のデータのみで、余分な過去データがクッツイていない」事

「え、結構制限があるのね…」と思われるかもしれませんが、一番シンプルな最小構成の場合はこの2つの環境をまず準備する必要があります。

【STEP.1】広告運用会社と「メールでローデータが欲しい」と交渉する
過去こういったデータ連携を行った事がない場合、ここが一番時間と手間がかかるところだと思います。99%のデジタル媒体は定期レポート機能でメール貼付 or 文中DLリンクによる自動レポート機能を持っていますが、運用会社によっては「営業担当者が毎日データを貼付して送る事が習わしであり変更は出来ない」というケースもあります。要は機械的に外部のメールアドレスに対してローデータを送る事を一切合切許可していない、というケースです。この場合は時間をかけて交渉するか、営業担当者には申し訳ないですが「営業担当者の方に朝のルーチンとしてメール転送をお願いする」という事になると思います。

【STEP.2】最終的なデータフォーマットを決める。
まずデータフォーマットを決めます。表側(縦)は日次一択です。肝心なのが表頭項目(横)で、私達は下記の項目を標準項目として使用し、キャンペーンに応じて「この項目は明らかに必要ない」「この項目を追加」といったチューニングを行っています。

表頭項目例

【STEP.3】Google Spread sheetに書き出し用のシートを作成する
これは簡単で、Google Spread Sheetにアクセスし適当にファイルを作成し、表頭に上記の項目を並べるだけで完了です。下記のようなシートを作成します。

【STEP.4】定期メールレポートで【STEP.2】の項目を書き出す
媒体によっては書き出せない項目があると思いますが、それは仕様ですので書き出せるものだけで問題ありません。書き出し項目を設定してもらい、書き出し先として自分のメールアドレスを指定します。書き出すデータは「デイリーデータ」として過去のデータを入れない「その日分のデータのみ」にしてもらいます。

余り無いとは思いますが過去のデータ付きじゃないと出せないという場合は、こちらで差分を(新しいデータのみを抽出し)取得する必要があるので一般的なETLツールを使った方が早いと思います。ETLツールを使うと差分を算出しデータ集計・整形→データベースへの格納までをワンストップでやってくれるので便利なのですが、最低でも月数万円〜は費用が発生します。私達が過去広告プランニングの立場で使いやすかったETLツールはStichです。

【STEP.5】Zapierの設定を行う
こういった記事を読まれるプランナーの方であれば一度はZapierを使った事があるのではないでしょうか。複数のアプリやサービスを繋ぐコネクトツールの定番です。このZapierに「Email Parser By Zapier」というメールを読み込むサービスがありますのでそれを使っていきます。Zapierは無料で月に100タスクを走らせられますので、毎日取り込むとすると100 tasks / 31日 = 3媒体まで無料で取り込む事が可能です。又、Email Parser By Zapierは制限無く無料で使えるようです。 Email Parser By Zapierで転送用のアドレスを作成し、各媒体から送られてくるレポートメールを「タイトル」等でフィルタリングしそのアドレスに転送設定します。 その後は、下記の例を参考に【STEP.3】で作成したSpread Sheetに粛々と書き出す設定を行い完了です。細かな設定はZapier上で順を追って説明してくれるので基本的にはそれに沿って入力していくだけです。不明点があってもGoogle検索で十分に解決出来るものばかりだと思います。

【STEP.6】分析を行う
好みのBIツール(TableauやExcel)で分析を行います。データがクラウド上で常に更新されていますので、毎朝メールチェックと同じ感覚でTableau(Excel)を立ち上げて最新のパフォーマンス推移が分かりますし、固定されたダッシュボードと異なり「気になったらその場で深掘り分析が可能」ですので、”この気になる部分のデータをSlackで◯◯さんに依頼して…届いたらピボット組んで表にして…”という手間が無くなりますので、工数の削減にも大きく繋がるのではないでしょうか。

【番外編】
分析の際、データ量によっては「処理が遅すぎて話にならない…」という事があるかもしれません。その場合は「Spread Sheet上のデータをBigquery等のデータベースに定期的にコピーして、そのデータベースをBIツールで参照する」という形でほぼ解決すると思います。実際、私達は最大2年分の日次データをこの方法で解析しますが、”遅い”と感じる事はありません。Bigqueryだと「クエリを定期的に実行」する機能が標準でついてますのでデータのコピーは簡単に出来ます。

IV. 最後に

実際にやってみるとデジタル広告のデータ連携は ”沼” な世界で、「うーん…調べれば調べるだけ面倒だ…DatoramaやDOMOを契約しよう」というケースも多いと思います。私達も実際にそれらを契約していました。これらのツールは当然の事ながらAPIだろうがメールだろうが何でもござれなので、今回ご紹介した仕組みの完全な上位互換です。使いやすさも抜群です。ただそれなりに高額なツールになりますので導入しようにも会社の稟議など色々とハードルはあると思います。 今回ご紹介した方法は、金銭面では無料(もしくは費用が発生しても数千円レベル)の仕組みなので、プランナー個人の裁量で「まず試してみる」事が出来ます。又、考え方(データの取得方法や格納の仕方)はそういったツール類とも一緒なので、今後本格的なツールを契約し運用する際にも必ず経験として生きると思います。 ” データが自動的に統合される ” 環境はわかりやすく工数が削減出来るだけでなく、多くの気付きを得るチャンスを産みます。その気付きの積み重ねが広告投資プランニングの幅をグッと広げてくれるんじゃないかな、と思っています。

もっと上手くやる方法は絶対にあると思っていますし、「こっちのやり方の方が絶対良い!」というグッドアイデアがありましたらぜひ教えて欲しいです。又、実際にこの手法を試してみて不明点があればぜひ下記のアドレスにご連絡頂けると嬉しいです。時間が許す範囲&分かる範囲にはなってしまいますが、可能な限りアドバイス出来ればと思っています。

株式会社VOSTOK NINE お問合わせ先
mail:hello@vostoknine.jp

株式会社VOSTOK NINE
VOSTOK NINEは2023年現在、国内で唯一(※)の「広告(6媒体)メディアプランニング」に特化した会社です。所属する全員が一定(目安10年以上)の経験を持ったメディアプランナーのみ、という一風変わった組織です。広告が社会にとってより役に立つ存在になる未来を目指し2022年1月にメディアプランナーである三宅と江口の2名で立ち上げました。詳細はこちら
※VOSTOK NINE調べ

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