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開発生産性Conf2024参加レポート: Dr.Nicole Forsgrenの基調講演に見るDevExの最新動向

vonxai合同会社の夏目です。2024年の6月28、29日に開催された開発生産性カンファレンス2024に参加し、様々な企業の開発生産性向上に向けた取り組みや、Dr.Nicole Forsgrenによる基調講演から多くの学びを得ました。
このような素晴らしいイベントを主催していただいたファインディ株式会社様をはじめ、スポンサー各社様、関係者の皆様に御礼申し上げます。


カンファレンスのメイン会場の様子

Dr.Nicoleの基調講演「Mastering Developer Experience」

基調講演では、Dr.Nicoleが、最新のホワイトペーパー『DevEx in Action』をベースに、開発者体験(DevEx)の重要性と、それを向上させるための具体的なプロセスについて解説しました。本レポートでは、撮影・録画が禁止されていたため、講演内容を要点に絞って紹介します。

DevExのトレンド

企業は今、DevExにかつてないほど注目しています。調査によると、企業はリソースの10%程度をDevEx関連の業務に割り当てており、Netflixに至っては15%にも達すると言われています
McKinseyの"2024 and beyond"レポートでも、生産性向上のための投資の重要性が強調されており、今こそ投資すべきと書かれています。
なぜDevExがこれほどまでに重要視されているのでしょうか?それは、DevExは開発者の幸福度を高めるだけでなく、組織全体の成果にも劇的な変化をもたらすからです。Dr.Nicoleは、DevExに注力することで開発成果を2倍に高め、イノベーション率を50%向上させ、技術負債を50%削減できるという調査結果を提示し、そのインパクトの大きさを強調しました。

DevEx成功の鍵は技術・文化・コミュニケーションのプラン

では、実際にどのようにDevExを実現させるのでしょうか。Dr.Nicoleは、以下の3つの要素を統合的に捉え、計画的に実行していくことの重要性を解説しました。
技術
スケジュールや技術スタック、アーキテクチャをどのようにするのか。また、20%プロジェクトで開始するのか、Hack Weekを設けて一気に実施するのかなど、どのようなアプローチを取るのか。
文化
見積もりの増加を恐れずに伝えられる環境づくり。エンジニアリングレビューの実施など、心理的安全性を確保し、建設的な議論を促進する文化を醸成する。マネージャーやステークホルダー等を集め、巻き込んで行く事が重要。
Google re:Workでも文化は技術に影響を与えると書かれている。
コミュニケーション
DevEx実施のための計画、進捗状況、課題などの資料を用意し、開発者だけでなく、HRなど関係部署全体に共有する。
ワークショップなどを活用し、双方向のコミュニケーションを促進する。

評価と改善のサイクルを回す

DevExの実施には、現状を把握し、改善すべき点を明確にすることが重要です。そのため、Dr.Nicoleは、評価と計測をし、改善のサイクルを継続的に回すことを推奨しています(以下の図は基調講演で示していた評価のサンプルを描き起こしたものです)。

評価のサンプル

Dr.Nicoleは、このサイクルを継続的に回し続けることが、DevExの鍵であると強調しました。

計測する

Dr.Nicoleは、以下の指標を例に挙げながら、それぞれの特性を理解した上で、自組織に最適な指標を選択することの重要性を説いていました。

  • Four Keys(DORA): 決められた指標があり計測しやすいが、outer loopしか補足できない。柔軟性により混乱を起こす可能性がある。

  • SPACEフレームワーク: 包括的な評価や特定の領域を計測できるが、特定の指標がないので、自分で評価項目を作る必要がある。

  • McKinsey DevEx: 役員レベルにも一目置かれる指標であるが、コードベースのアクティビティに寄っている。

  • ACM DevEx Metrics: DevExのための社会技術的なフレームワークであるが、特定の指標がない。

Dr.Nicoleは、SPACEフレームワークを利用した具体的な適用例も紹介していました。例えば、テスト工程における取り組みを評価する場合

  • S (満足度): エンジニアにテストプロセスに対する満足度を調査します。

  • P (パフォーマンス): テストの網羅率やバグ検出率などの指標を用いて、テストの有効性を評価します。

  • A (アクティビティ): テストの実施回数やカバレッジなどを測定します。

  • C (コミュニケーションとコラボレーション): ドキュメンテーションや、ドキュメントの充実度など。

  • E (効率性とフロー): テストの実施にかかる時間や、バグ修正までのリードタイムなどを測定します。

このように、複数の指標から適切なものを用いて評価することで、DevExの現状を把握し、改善ポイントを明確化することができます。

まとめ

Dr.Nicoleは、「DevExは誰かを幸せにするものではなく、摩擦を取り除き成果につなげるもの」と語っていました。技術・文化・コミュニケーションの視点を取り入れ、組織全体でDevExに取り組むことが、これからのソフトウェア開発、そしてビジネスの成功には不可欠になってくるかもしれません。
また現在、Dr.NicoleはAbi Noda氏(『DevEx in Action』の共著者)と共に、DevExに関する書籍を執筆中です。今後の出版が待ち望されます。

本基調講演は1時間枠の中で、発表30分、Q&A30分と、質疑応答にかなりの時間を割っていただき、さらに質問も絶えることなく活発なやり取りができ、大変充実した時間でした。

カンファレンス全体の感想

各社のオンボーディングへの取り組み、アウトカム、インパクトベースのコミット、企業文化の重要性など、様々な角度から開発生産性への取り組みが紹介され、大変充実したカンファレンスでした。参加者それぞれから、事業やサービス、生産性向上に対する"スキ"を感じることができるイベントでした。
重ね重ねこのような場を用意していただいたファインディ株式会社様に御礼申し上げます。

参加者によるDevOps関連で導入しているツールの回答ボード

スポンサーブースのスペースには、カンファレンス参加者が利用しているDevOpsツールの投票ボードなど、面白い仕掛けがいくつも用意されていました。

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