見出し画像

Ello's Eatnu -Let the river flow-

ヨーテボリ国際映画祭へ🎬✨
日本ではあまり馴染みがありませんが、北欧最大の映画祭です。ヨーテボリはスウェーデン第二の都市。

せっかくなら北欧映画を見てみたいと思い、1970年代北部ノルウェーを舞台にした『Ello's Eatnu -Let the river flow-』を見てきました。
先住民族であるサーミ族が暮らす土地にダム建設を強行しようとするノルウェー政府に対して、サーミ族が権利保護と同化政策への反対を掲げて展開した運動を描いた映画。ただ描かれるのは政府対サーミ族という構造ではなく、むしろサーミ族の人々の葛藤。

70年代はまだ先住民族の権利保護は現代ほど社会的合意が得られておらず、サーミ族の中でも政府による厳しい同化政策と人々からの差別に苦しみ、平穏な暮らしを得るために街へ出て、アイデンティティを捨てて同化する道を選んだ人々と、ダム建設を契機に疑問を持ち、立ち上がる人々との間には大きな隔たりや意見対立が。

主人公もアイデンティティを隠していた一人。小学校でノルウェー語の教師をしていましたが、反対運動に関与し、葛藤しながらも徐々に運動の中心的な役割を果たすように。

物語は反対運動の進展を軸に展開し、その双方の葛藤やアイデンティティについて掘り下げられる。
反対運動がメディアに取り上げられ、支援者が増えると思いきや、「余計なことをしてくれるな」と同郷の人に言われたり、「結局何をやっても変わらないんだ」と人々が離れていったり。運動に携わる人々の、本当に自分たちが行っていることは正しいのだろうか…という葛藤も、胸に迫るものがあります。

何より良かったのは結末に余韻をもたせ、問題が現在進行系であることを暗喩したこと。主題材はダム建設反対運動ですが、この運動はサーミ族の権利を訴える多数の運動の一つに過ぎず、社会的な関心も上がったり下がったりする中で当事者が希望と絶望の間を行き来する様が誠実に描かれていました。

上演後は映画祭ならではで、舞台挨拶がありました。

主人公を演じる女優はサーミ族当事者であり、アクティビストでもあるそう。「演じていて似ているところはあると思ったか」という質問に対して、彼女の回答が素晴らしかった。沢山感情移入できることはあったけれど、最大の違いは自分はアイデンティティについて葛藤する必要はなく、自分がサーミであることを誇りに思えていること、と。それは過去にこの映画の主人公達のようにサーミが声を上げてくれたからであり、先人に心から感謝している、と。
登壇者の一人(プロデューサー?)もメッセージを問われ、"Don't forget the history"と。

帰りのトラムには実際これを見に来たであろう、サーミの衣装を着た方々がいらっしゃいました。北部ノルウェーの雄大な景色と共に、とても心に残る映画でした。

そしてアイヌのことを考えました。

映画、日本でも上映されるのかな。
是非されて欲しいです。

ヨーテボリ映画祭も地元に根付いていてとても良い映画祭でした。なかなか日本から見に来る方はいないかもしれませんが、機会があればぜひ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?