見出し画像

あたりまえのために、「あえて」する支援

ライフストーリーワークという取り組みが施設では行われています。
これは子どもたちの家族~生まれ~現在までを子ども自身が連続的に主体的に肯定的に理解するための取り組みです。

私の施設でも色々な形で取り組んでいます。
その中でケア職員からこんなことを言われたことがあります。
「そんなこと、普通の家ではやらないですよ?」

その時、私は「たしかにねぇ…」とだけ言って、いろんな言葉で大事さを訴えました。(そのときは理解してもらって実施できました)

先日の「あたりまえ」というキーワードから思い出したので、今回は
あたりまえを保障するために、あえて不自然なことをするということについて書いていきたいと思います。

ライフストーリーワークとは

この取組みは「生育歴の振り返り」とか、「生い立ちの整理」とか、「育ちノート」とか、似た呼び方で呼ばれています。
この取組については才村先生や楢原先生の本を読んでいただければわかりやすいと思います。たとえば・・・

とかでしょうか。楢原先生のは論文をもとに書かれているので、少し硬い本って感じ。才村先生たちが訳されているものは、もう少し実践的に何をするかというアイデア集のものが多いです。リンクのやつはこれ自体をやればそのままライフストーリーブックになるというもの。

個人的にこの取組の良いところのひとつは本として形に残していくことだと思います。
これによって言葉として消えないので、いつでも振り返りできるし、色々な養育者の共有も容易になります。
実際、こういう取り組みって施設ではかなり積極的に取り組んでいるところもあれば、必要だけどねぇと言ってなかなか実施できていない施設もあるのかなと思います。


なぜ必要なのか

そもそも、ライフストリーワークはなぜ必要なのでしょうか。
そもそも社会的養護の枠組みの中で養育をされている子どもたちについて、生まれ~今までを連続して語ってくれる人が居ません。
私達はたいてい児童に関することを書面でしか知りません。それも幼少期のことは、分娩が正常か、発達が正常かなどという視点になりやすいです。

でも子どもたちの成長にとって、大事になってくるのはもっとナラティブで生々しい思い出なのです。それは当時困ったことだったり、ハマっていたもの、口癖、好きだったキャラクターなどです。そしてそれが今どういう変化になっているのかです。

簡単な例をあげます。
中学生と一緒に散歩に行きました。道端からカエルが出てきて「キモい」と一言。それに保護者は「小さいときはカエル大好きだったのにね」「覚えてないの?カエルを持って帰ってケロって名前つけて飼ってたの。お母さんは夜にゲロゲロ泣くのが嫌で嫌で・・・」みたいな会話。

上の会話のような現在の現象に対して、過去の姿と今の姿をつなげ、昔のエピソードを話し、そこに保護者との関係性や感情、風景まで表れてくる。それを今の関係で話す。そんな構造の会話は一般家庭の中にはあふれるほどあります。

社会的養護では、まずその当時の養育者にアクセスすることが容易ではありません。保護者とは一緒に住んでいませんし、中にはすぐに連絡ができる関係にない場合もあります。
もしかすると、ある期間は他の施設にいて当時の職員はもう退職してしまっていますみたいな。そんなことが起きてきてしまいます。
書面では残っているかもしれないです。たださっきの会話のような他愛のないエピソードは聞けないかもしれません。

施設にとって家族の話はタブー化しやすい

そしてもう1つ。これは実習生からもよく聞かれることでもありますが、施設で家族の話をすることにはハードルが高くなりやすいです。やはりセンシティブな内容にはなりますし、そもそも家大人同士でも家族のことを聞く事って気軽なものではありませんし。

話したければ話せばいいし、話したくないなら話さなくてもいいんです。そんなスタイルでいる方が多いと思います。
ただ子どもからはよく「家族のこと話してもいいの?」と言われます。子どもにとっても言っちゃいけないことという認識がどこかで出来上がっていることが多いです。子どもも子どもで、気を遣ってくれているようです。

あえてする。

そんな理由から、施設では家族のこと、今までの人生を振り返ることを「あえて」やる必要がでてきます。当たり前に小さいときの思い出や家族との思い出を無理せずに話せるようにするために。
そして、このライフストリーワークという取り組みは心理職が子どもとやればいいものでもありません。大事なのは、さっき書いたように今の養育者と思い出を共有したり、今までの養育者のことを話せるようにすることです。
そのため、面接やワークはそのきっかけにしか過ぎないと思います。大事なのは結局、そのあとの他愛のない日常の会話です。


少し長くなりましたが、今日はここまで。
また来週の木曜日に。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?