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アドバイスがスベる理由


この間、久しぶりに他の心理職と職員との会話を聞きました。
その中で心理職からケア職員とこんな会話が展開されていました。
「この子、ご飯のときなかなか食べ進まなくて」
「どんな様子なの?」
「すぐに色々なところに気が散っちゃうんですよね」
「視覚過敏だもんね、テーブルに衝立つくるとか」
「はぁ・・・」
「あとは頑張り表とかはどう?」
「前やったんですけど、なかなか定着しなくて・・・」
「どんな課題にしたの?」
「きちんと食べよう、みたいな」
「それだと難しいよね、もっと具体的にしないと」
「どんなのがいいんですか?」
「う~ん・・・○○分までに食べれるとか?」
「あぁ・・・やってみます」
みたいな会話です。すこし脚色はしてます。

なんとも徒労感のある会話ですねぇ。
心理職にとって、ケア職員の助言やコンサルは仕事のひとつと言えます。
子どもたちの生活がよりよいものになるために、職員の関わりをよりよいものにしていくことが必要ですし、職員が安心して関われるように支援することが心理職の仕事です。
心理面接のやり方は学んでいるけど、このへんは現場に入ってから学ぶことが多いのかなと思います。
私もさっきのような会話を何万回も繰り返しながら、少しづつ役に立つ会話ができるように練習しています。
今回は現時点でのコツをすこし書きおいてみたいと思います。

助言を「与える」という誤解

一番最初に間違えていることは、心理職に助言を求めているという構造です。それは心理職に聞くといいことがないということではありません。
助言を乞う者と与える者という構造から出れないと有意義な助言にはなりません。
そうしないとわからない人に心理職が教えてあげるようなやり取りになります。
本当にわかっていないのは心理職の方なんですがね・・・。
だから助言がスベります。

大事なのはできていることや良い取り組みの発掘作業


私は必ず「これまでどんな関わりをしてみたか」を聞いています。ケア職員は心理職に相談する前に色々なことを絶対試しています。
本人が意識しているかどうかにかかわらず、色々な試行錯誤を子どもとの関わりでやっています。
心理職はその前提で助言やコンサルをする必要があります。
新任職員でも聞いてみると10個は出てきます。それは玉石混交。なのでうまく行っているものや、行きそうなものがあります。そこを入り口にしていきましょう。
どうしてうまく行ったのかという要素を抽出していくと、次何ができるかを考えやすくなると思います。


ケアのプロはケア職員であるという前提


ケア職員は子どもと24時間関わっています。色々なことをしながら一緒に生活をしているわけです。
さっきも書きましたが、そのなかにはたくさんの試行錯誤があります。つまり関わりの引き出しです。
この引き出しは心理職が考える「衝立の設置」や「頑張り表」といった教科書に書いてあるような陳腐な対処方法でなく、より豊かで面白いものばかりです。どうしてそんなアイデアがあるの?!と毎回思います。
だから、心理職が具体的なやり方を教えることよりも、さっき話した要素の提供やアイデアの種のようなものを言葉にするのが心理職の役割だと思います。
言葉にすると言いましたが、絶対やってはいけないのは心理用語で説明することです。これこそスベります。
なぜかというと、具体的な支援方法までに距離があるからです。解離が起きていると思っても「解離が起きている」と言ってもあんまり意味はないです。必ず「じゃあどうすればいいんですか?」と聞かれて、話が迷子になりやすいです。これは私がそれぞれの言葉に体験がついていないのも原因です。なんとなく教科書的な意味で血肉感がないことも影響していると思います。

ケアはチームでやっているという視点


ここは抜けやすいです。子どもと大人との関係は、ホームの中の大人それぞれで違います。なので、日によって、職員によって子どもが落ち着いていたり、落ち着かなかったりが出てきます。
その時に「やり方」だけに注目をするといいことはありません。
つまり、落ち着いている職員のやり方を良い取り組みとしてフォーカスするやり方です。概ね、そういう職員はベテランだったり、リーダー層だったりします。そして落ち着かないのは新任職員です。
これは助言をしている側からすると、良いところの注目になるわけですし、良い取り組みの発掘をしているようにも見えます。
しかし、これは同時にできていないことを排除することにもなります。つまりできている職員の取り組みを褒めることで、できていない職員の関わりを否定することになります。そしてできている職員はベテランで、できていない職員は新任職員だったりすると、職員間でタテの関係を心理職が作り出していることになります。
そしてこの関係性が子どもの認識とも一致しやすいので、問題は改善されず。できない職員が増えていき、職員が辞めていきます。
心理職の助言がこの構造を強化しているのです。

助言はきっかけでしかない。


助言という言葉がよくないんだと思いますが、一緒に考えるということが大事ですよねぇ。すぐに答えが出ないこともよくありますし、「これだな」という答えがまったく当たらないこともあります。
だから試行期間をつくることが必要です。かっこいい言い方をするなら、PDCAを回します。今回の助言はPlanの策定であって、次のDoを意図的にする機能でしかありません。そのうえで一緒にCheckする約束をしておくといいと思います。
これのよいところは、2つ。
職員がお試しという視点で自分の関わりを操作できるようになります。自分というヒトと関わりというコトを分けて関われることです。しんどいときこそ職員は「自分のせいで」という感覚になるようです。それを切り離すきっかけになります。
もうひとつは自分だけでなく、心理職という仲間ができるということです。職員はしんどくなればなるほど、孤立感を持っています。困っているのは私一人という感じです。それを心理職が一緒になってやってくれることは、なんか楽になるみたいで、先のヒトとコトを切り離すと相まって、失敗のダメージが小さくなります。
何を助言するかも大事ですが、この2つのほうが役立っているのかもしれません。


これ書きながら、心理職でなくても同じことが言えるなって思いました。
今日はこの辺で。
また木曜日に更新したいと思います。

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